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劇団神馬「天国への13階段」
1999.02.06(土) 於:シアターグリーン 19:00開演の回 後ろから3列目(多分前から6列目)左端で鑑賞
【物語】
昔々の物語。神は、自分に似せて人間を創った。神は人間を愛され、彼らに自由を与えた。だが、神は自らのしもべ、天使達には自由を与えなかった。天使達は、神を愛していたが、神の愛に飢えていた。ついに、天使ルシファーは自由のため、愛する神に反逆を起こした。神は大天使ミカエルをつかわして騒ぎを鎮められ、ルシファーは地獄におちて堕天使となった。
だが、ミカエルはルシファーがうらやましかった。自由と神の愛を得ようと必死に戦った彼がうらやましかった。そして、ミカエルは神をひそかに恨んだ。幼い頃はやった、チョコボールのくちばし集め。金の羽根、銀の羽根を探しての、子供らのひそやかな楽しみ。しかし、裕福さにあかせて駄菓子屋からチョコボールをダース単位で買い占め、確実に金の羽根を手に入れた子供がいた。それが主人公、今は女子高生となった麻里子(阿部)だった。彼女は、子供と思えぬ悪魔じみたアイデアを思いつき、近所の子らのささやかな喜び、楽園を奪ったことに罪悪感を覚えながら成長する。「あの悪魔じみたアイデアは、まるで耳元で誰かがささやきかけてきたかのように生まれてきた」と彼女は言う。
そんなある日、彼女の前に3人の天使ハミエル(塩塚)・ジブリール(大野)・アブディエル(島袋)が現れる。善行の積み立ての管理を行うメシア銀行より、悟りを開いて救世主になる資格を得た真理子をメシアとして認定するために訪れたのだった。突然メシアと言われても、と戸惑う麻里子に考える時間を与えて、天使達は去って行く。
入れ替わりに現れたのがローンズ・メフィストの魂回収課に属する悪魔、アモン(青山)とレヴィア(上野)が現れる。あとわずかで魂の返済期間が来る、と伝える悪魔達。そんな契約をしていない、とつっぱねた麻里子は、確かに自分のサインが入った契約書を見せられる。あの幼い日、とても子供とは思えぬチョコボール買い占めのアイデアを麻里子の耳元でささやいたのは、悪魔だったのだ。666時間後に魂をもらいに来る、と言いおいて、悪魔達は去る。悪魔達に魂を奪われないために、悪魔払いの能力を身に着けようと麻里子はメシアになることを決意する。だが、メシア銀行総裁である大天使・ミカエル(越知)の鶴の一声「メシアは男でなければ駄目だ」で、メシアの母、つまり聖母としての認定を受ける。メシアはなんとサイボーグのマサト(積田)。そろって救世主になるための訓練を受けるのだが、なんだかへっぽこな二人。一方、メシアが誕生したという情報を耳にした悪魔達は、まさか麻里子がメシアとはつゆ知らず、メシアを抹殺するため捜索に乗り出す。
だが、麻里子の聖母認定には、恐るべき復讐劇が隠されていたのだった。
【感想】
初演は劇団員が高校生の時とのことなので、なるほど、高校演劇っぽい若々しさが感じられる。初演との比較はできないが、大幅に変更が加えられたそう。
観念的なストーリーだが、客の関心をそらさないよう随所にギャグを挿入。ギャグ自体は受ける人とそうでない人と差があった。好みとギャグセンスの差。でもやっぱり観念が先走りすぎて伝えたいことがぼやけてしまっているように思う。「運命という電車に揺られて、私たちはどこへ行くのだろう。でも、必ずどこかには着くのだ。」というラストのモノローグは希望に満ちて素晴らしいけれど、ちょっと作品全体に流れる観念的というか哲学的なムードとずれがあり、テーマをぼやけさせてしまっている。作者は同じテーマについて語っているのかもしれないが、全く別のテーマを扱う作品の台本からそこだけ移植したかのような感じ。
途中に挿入された短いダンスシーンでは、役者陣の体のキレが見所。かっこいいっす。これだけ動けるのに、メインの物語では動きが少ないのがもったいない気がする。
チョコボールについていた天使の羽根。金の羽根か銀の羽根か。どきどきしながらくちばしを開けた幼い日の思い出。誰にも(多分昭和45年頃に生まれた子供なら)身に覚えのある記憶を物語の始まりに使ったのはうまい。豊かさにあかせてチョコボールを買い占め、確実に金の羽根を手に入れる、子供の残酷さも◎。
クライマックスで、ローンズ・ルシファーの支店長が大天使ミカエルである事実、麻里子の聖母認定が「悪魔に悟らされた聖母」=堕落した聖母を創り上げ、皮肉な事実をもって人間ばかりを愛し、天使達には自由を与えぬ神に復讐をとげる計画が明らかになるが、その復讐の発想は面白いと思う。
ただ、全体的にエピソードの構成、物語の展開にメリハリがなく、クライマックスの緊迫感もやや薄めになってしまったのは残念。あと、人間に自由を与え、天使には自由を与えないということが一体どういうことなのか(自由を与えられない天使達の実像)が全く見えてこないため、自由をめぐる復讐劇の切実感・説得力が欠けていたのも痛かった。
【DATA】
1999/02/05(金)〜02/09(火) 於:シアターグリーン
開演19:00(2/6・7のみ14:00開演の回もあり)
料金:前売り\2000 当日\2300
作・演出:上野憲明
出演:阿部雪菜 積田直人 越知哲 塩塚晃 大野裕子 島袋仁 青山治 上野憲明 古峰貴子 前谷史恵
演出助手・振り付け:青山治
美術:野村麻美 照明:奥脇秀規 照明助手:佐々木達朗 音響:谷口達彦 音響協力:小尾正喜
衣装:野村麻美 衣装製作:松尾友夏 メイク:藤田舞子
舞台監督:福山隆
制作:古峰貴子 製作総指揮:上野憲明
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