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 悪人志願(2000.05.03)

私はエチケットじいさんのことを悪人だと思っています。その理由はいくつかありますが、少なくとも善人ではないことは誰の目にも明らかでしょう。このさい悪人を否定したり批難したりする気は私には全くありません。むしろエチケットじいさんには純粋な悪人であってもらいたい。そしてエチケットじいさんは純粋な悪人になれるだけの要素を持ち合わせている人間(?)であり、おそらくかなり純粋な悪人に近いものと考えています。エチケットじいさんに対する悪はもう、私にとって一種の願望であり、これは私の悪への憧れに端を発するものといえます。

さて先程、エチケットじいさんは純粋な悪人になれるだけの要素を持ち合わせている人間(?)だと言いましたが、それは一体どういうことなのか説明することにしましょう。まずその前に悪について考える必要があります。悪、またそれに対極して位置する善というものは、非常に社会性に影響されやすいものです。つまり極端な話、時代や社会構造が変化してしまえば昨日まで悪だったものが善に変貌し得る、そういうものです。ですから当然悪人というのは、そういう貧弱な、あるいは相対的な基盤の上に成り立つものである以上、純粋な悪を追究していくことが困難である、ということになります。そもそも現代の価値相対主義の世の中、純粋な悪人にも善人にもなることはまず不可能だと言えるでしょう。

しかし悪を規定するさいのフレーム(=世界)が非常に狭いのならば話は別です。そしてエチケットじいさんは「ハッチポッチステーション」という非常に狭いフレームの中の存在であるからこそ、純粋に限りなく近い悪人たり得るというものです。例えば悪を規定するためにはある種の客観的基準が必要になりますが、彼のいるハッチポッチの世界には、悪のお目付役はグッチ、ジャーニー、ダイヤのたった三人しかいません。この三人がエチケットじいさんを悪だと言えばもう、彼は悪人に決定してしまうのです。つまりエチケットじいさんは彼が悪人になり得るための絶好の環境を持ち合わせ、かつその環境にしか存在し得ない人間ゆえに純粋な悪人と言えるのです。ですから我々視聴者はちょうどエチケットじいさんという純粋な悪のミニチュアを見ているのであり、それは悪のイデアに近いものであり、私がそれに憧れるのはある種悪へのエロスだと言えるでしょう。

さてここまで悪とは何ぞやなどと長々とぶったついでですから、ここからは悪徳老人エチケットじいさんの悪人ぶりに学んでみることにしましょう。願わくば悪人志願入門として師匠エチケットじいさんより純悪人になるための秘伝を学びたいところですが、先程言った事情もあってこの世の中で純悪人を目指すのは非常に困難なことなので、責めてこの世の相対主義と闘うための片鱗だけでもつかみ取ることができたら、程度に考えています。それに悪人を目指さずともいろんな意味で彼の悪人ぶりから学びとれることは多いように思われます。

1.巨大な大義名分を盾にしよう
エチケットじいさんは偉い。それは名前が「エチケット」だからです。みんな誰でも「エチケット」という言葉を聞いただけで「守らなきゃ」ともう、パブロフの犬状態です。これは上手く悪用すると一種の思考停止状態を生み出すことができるのです。エチケットじいさんが「これ、エチケットやで」と唸った時の、グッチさんたちの固まった表情は誰もが一度は目にしたことがあるでしょう。相手を動きを止めることができたならもうしめたものです。あとは事を自分のおいしい方向に持っていくだけ。自分がエチケットを守っているかどうかなんて、そんなことはどうでもいいのです。それはエチケットじいさんが身をもって証明してくれています。あなたの周りにもいませんか。「そんなの常識じゃン」「それは人として当たり前だろ」が口癖な人。もしいたら、「エチケットじいさん」と陰で讃えてあげましょう。

2.亀の甲より年の功
自分より若いモンは自分よりも経験が浅いぶん劣っています。あなたが必ずしも年寄りである必要はありません。相手がたった一歳年下でも、極端な話誕生日が一日後でも、とにかく自分の方が年上ならもうそれだけでオッケーです。「わしの方が長く生きとるんじゃから、わしにまかせておけば間違いないんじゃ」これを脅し文句にして相手がボーゼンとしている間、自分は漁夫の利、さっさと持ち逃げしてしまいましょう。もし仮に間違えたとしても適当にあしらって逃げればそれでいいのです。なお、自分より年上の人間の場合はまず逆らわない方が身のためですが、どうしても張り合わざるを得なくなった時は、自分が老人に変装するという荒技もあるにはあります。

3.遥かなるマキャベリズム(権謀術数)
自分の魚拓より大きい魚を釣り上げられてもなお、自分の魚拓を拡大コピーしてまでダイヤさんに対抗したあのエチケットじいさんの輝かしい姿には、涙ながらに拍手を送らざるを得ません。自分が他人よりも優位に立ちたいと思ったら、いちいちそのための手段など選んでなんかいられないのです。このことは実際の世の中でも、常にそう考えて行動している人がいますし、あなた自身にもそういう行動を迫られる場面が怏々にしてあるかもしれませんので、けっこう勉強にはなると思いますよ。

4.あとがき
これは後で思ったことですが、ハッチポッチステーションはエチケットじいさんの悪をもって、ひとつの世界が形成されているな、と。悪が存在しなければ善も存在しません。善悪のない世界、それは(実際そういう世界に遭遇したことがないのでわかりませんが)死を意味するのではないでしょうか。とりあえずこっちの世界には善悪が存在しますから、きっとこれは世界を形成するひとつの柱にはなっているのでしょう。するとハッチポッチはたった十分間というの狭いフレームの中に、ドラえもんの四次元ポケットのような限りなく広い世界が広がっていると。改めて凄い、と言わずにはおれなくなりました。


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