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 ジャーニーの意地〜さあ来るゲーム(2000.05.19 改稿)
 有楽町で敵(けいひんとうほくせん)はおれの斜め背後からそのシルバーにブルーラインの躯を滑り込ませて来た。
 午後六時。敵もこの時刻にはもうスローペース(かくえきていしゃ)だ。
 おれは奴の姿を見て思い出した。今日昼下がりの御徒町。おれのすぐ横を涼しい顔をして滑走(つうか)して行く奴の横面を。おれはこの光景にどんな思いで涙を飲んだことか。
 さあ。今こそ。昼の雪辱を果たす時が来たのだ。

 東京。奴はおれとほぼ同時に扉を閉めてきた。
 スタート。
 寸分違わず、おれらはゆっくりと歩み出した。
 神田。そして秋葉原。3・4番線ホームを埋め尽くす人だかりにおれはある不安を覚えた。そしてその不安は的中した。
 メロディが止む。扉閉のスイッチを押したおれの手が、反射的に扉開のスイッチに触れた。
 電気街口の上り階段から、一人の中年男がおれの方へ駆け込んで来やがったのだ。
 敵は既に扉を閉切り、動きだそうとしていた。再び扉閉に手をやる。
 おれは舌打ちした。

 秋葉では遅れをとったが、運転席へのコールサインを叩きまくり、スピードを上げさせたので、なんとか御徒町で同時スタートを切らせることができた。
 上野では、今度は逆に奴の方が扉閉に手間取り、スタートにかなり差をつけることができた。

 鴬谷。日暮里。おれは血走ったその眼で、真横を走る憎き青蛇を睨み続けた。

 頭を環状線が。頭を環状線が。
 脳味噌を環状線が。脳味噌を円環が。脳味噌を円環が。
 脳をサークルが。脳をサークルが。脳をサークルが。脳をサークルが。
 巡る。巡る。巡る。巡る。巡る。巡る。巡る。巡る。巡る。

 「サークルサークル順番がさあくる、さあくるさあ来るさあ来るげえむ」
 「さああ、今日のテーマは『山手線の駅名』だぞお。みんな、考えてねえ!」
 わん! つう!! すりー!!! ふぉお!!!

   グッチ  「しんじゅく!」
   ダイヤ  「たまち」
   エチケット「しなあがわ」
   おれ   「ごたんだー」
   グッチ  「えびす!」
   ダイヤ  「よ、よよぎい」
   エチケット「とうきょう」
   おれ   「おかちまちい」
   グッチ  「うえの!」
   ダイヤ  「たかだの、ばばあ」
   エチケット「しぶや」
   おれ   「ゆーらくちょー」
   グッチ  「は、はままつちょー」
   ダイヤ  「いけぶくろー」
   エチケット「あきはばら」
   おれ   「すがもー!」
   グッチ  「めじろ!」
   ダイヤ  「にしにっぽりい!」
   エチケット「はらじゅくっ」
   おれ   「しんおーくぼおっ」
   グッチ  「うぐいすだに」
   ダイヤ  「た…たば、たばた」
   エチケット「めぐろっ!」
   おれ   「おーつかあーっ」
   グッチ  「かんだっ」
   ダイヤ  「こまごめえ」
   エチケット「にっぽりっ!!」
   おれ   「#@%$??に、ににににしにっぽりい!!!!」

 しまった! 気づいた時にはもう遅すぎた。おれは極度のトランス状態に陥っていた。それでも鴬谷・日暮里では無意識かつ機械的にだが扉の開閉作業を行っていた。しかし電車はなおも走り出し、この西日暮里に着く前に脳が絶頂に達して完全に我を失ってしまっていたのだ。「に、ににににしにっぽりい!!!!」の咆哮と同時に正気に戻ってももう遅く、おれが慌てて扉を開き始めた頃には奴は扉を閉切り、既に発車しようとしていた……

* * *

 田端。おれが着いた頃にはもう奴は勝鬨替わりの継ぎ目の音を残し、遥か北方の目的地、オーミア国を目指していた………

 「ジャーニー、『西日暮里』はもう出てるよ!」 じゃじゃじゃじゃじゃ、じゃん。


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