このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





あとがき





 虹金は国主となった。灰神楽は国主の妻になると同時に、鉱山を領した。勿論、日頃は都城に住まなければならない以上、総代を置く必要があった。灰神楽が総代に指名したのはなんと薄野。しかも普請方頭熊吉との婚姻をとり結んだ。これが二人への恩に報いた結果だと気づいたのは、ただ一人虹金だけだった。しかし、意外なように見えて上手な人事でもあった。領鉱山の総代に舞神女の高弟は最もふさわしく、薄野は自らを磨いて期待によく応えたからである。

 灰神楽はその後も疾風怒濤、波瀾万丈の人生を歩むことになる。三男一女に恵まれ幸せな時を送ったのも束の間、虹金が四十を前に急逝する不幸に見舞われた。その後は考えこむ暇さえなく、長男を後見しつつ垂簾政治を敷き、他国の侵略には陣頭に立って奮戦した。長男の成人後は綺麗に一線を退いたものの、国の重鎮として他国に恐れ敬われ、一方でやさしい人柄は国母として民に広く慕われた。享年八十八。安らかな大往生であったと伝えられている。

 とはいえ、それは別の物語として描かれなければなるまい。なぜならば、国政を担って以後の灰神楽は“歴史”となったからである。若き多感な舞神女がわずか数年の間に刻んできた濃厚な道のりが、人生の命題そのものであったことを思えば、同じ筆で灰神楽の生涯を追い通す無理は如何ともしがたい。

 舞神女といえども人間と契ってしまえば、人間と等しくなってしまうらしく、その後の灰神楽の軌跡は良かれ悪しかれ実に人間くさく、神韻がすっかり消え去っている。物語としての平仄がどうしても合わない苦しさもまた、如何ともしがたいところだ。

 そもそも、このような昔話は、次のように結ぶものと相場が決まっている。

「お姫さまは国主さまと結婚し、都城でいつまでも幸せに暮らしました」

 だからこの物語も、この一句をもって締め括らなければなるまい。しかし、敢えて記さずにはいられない。“幸せ”とはいったい、なんだろう。





<完>





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