このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


大和型戦艦

第1章 大和型戦艦の機関部

1-1. 基本計画

計画
番号
水線長
(m)
水線幅
(m)
公試
排水量
(T)
46cm砲門数速力
(kt)
軸馬力(shp)航続力
(kt×浬
計画
時期
艦尾艦首タービンディーゼル合計
A-14029441.269,50003+3+331.0200,0000200,00018×8,000S10-3-10
-A27740.468,00003+3+330.0132,00068,000200,00018×9,200S10-4-1
-B224762,0002+22+227.50140,000140,000
-G27337.765,88303+3+328.070,00070,000140,00018×9,000S10-5-25
-G1-A24438.961,60003+3+326.060,00055,000115,00016×6,600S10-7-30
-I26865,0502+33+228.073,00070,000143,000
-F24760,35033+227.065,00065,000130,00016×7,200S10-8-14
-G0-A26865,45003+3+328.075,00070,000145,000
-G2-A26263,45003+3+328.073,00070,000143,000
-K22136.050,05903+3+224.040,00040,00080,00016×6,600
-F324638.961,00033+327.075,00060,000135,00016×4,900S10-10-5
-F424862,54533+316×7,200
-F525365,20033+3S11-7-20
最終案25668,20033+3150,0000150,000S12-3-E

典拠: 戦艦大和 その生涯の技術報告 松本喜太郎 再建社 S27 (一部割愛)

<解説>
本級の基本計画は、用兵側(軍令部)が当初は速力30kt以上を要求したものの、艦型過大(=建造費過大)のため、早い段階で27〜28kt、軸馬力140,000shp台に落ち着きました。主機は航続力増大のため、蒸気タービンとディーゼル機関の併用が考えられ、軸馬力115,000shpの段階では、純タービン推進とした場合に比べ、機関重量で6%増、所要床面積で9%増となるものの、速力18ktでの燃費は32%減と見積もられました。基本計画が煮詰まったA-140-F5案では、蒸気タービンを内軸(内側軸)、ディーゼル機関を翼軸(外側軸)に配し、推進軸1軸に対して7,500shpのディーゼル機関4基をヴルカーン式流体継手で結合するという構成でした。おりしも潜水母艦大鯨に搭載予定のディーゼル主機(11号機械)は故障が続出し、計画出力の6割も発揮できず、発煙が多いなどの不具合が判明したため、主力艦への搭載は時期尚早と判断された結果、急遽基本計画を見直し、純タービン推進艦として建造されました。実際問題、異種主機の併用は製造・取扱・保守修繕のすべてにわたって二本立てとなるため、この判断は妥当であったと言えるでしょう。なお、一部でディーゼル併用、もしくは純ディーゼル推進としなかったため高速が出なかったなどという記述を目にしますが、まったくの誤解です。

※本件に関し、下記書籍に大和型戦艦の機関部についての記事を執筆しましたので、ご参照ください。

『決定版 大和型戦艦』 コラム「大和型戦艦の機関部について」
歴史群像シリーズ 太平洋戦史スペシャル1号 ISBN978-4-05-605698-3
発行所 ㈱学研


『大戦艦 大和 メカ読本』 ●各部メカニズム解説「機関」NEW !
月刊誌「丸」2011年2月号 別冊付録
発行所 ㈱潮書房


2-1. 主機

2-1-1. タービン本体

項目軸馬力
(shp)
回転数
(rpm)
段落数ピッチ円
直径

(mm)
ピッチ円
周速度
(m/s)
動翼

(mm)
タービン
初圧
(kg/c㎡)
蒸気
消費量
(kg/shp-h)
動翼
振動数
(Hz)
高圧タービン
(第1段落)
8,8603,298190015526
48
224.10
(改正前4.05)
12,500
2,770
高圧タービン
(第2〜第5段落)
41000
1000
1000
1000
173
173
173
173
44
50
62
78
3,540
2,847
1,953
1,300
低圧タービン9,8902,13551740
1710
1680
1660
1640
195
191
188
186
183
65
100
145
206
260
2.81,875
1,094
640
387
202
低圧タービン
(改正前)
2,46051530
1500
1460
1430
1400
197
193
188
184
180
72
112
190
250
320
1,484
862
339
270
179
後進タービン5,5001,42031350
1350
1350
100
100
100
64
104
146
179.42,600
887
430
後進タービン
(改正前)
1,64031200
1200
1200
103
103
103
72
112
164
2,080
710
387
前進1軸当り37,500
後進1軸当り11,000

典拠: 戦艦大和のすべて 原勝洋 インデックス・コミュニケーションズ H17

<解説>
本級の主機は、艦本式オール・インパルス(全衝動)・タービンで、推進軸1軸に高圧・低圧両タービン(各2基)を減速歯車装置を介して結合し、高圧タービンを減速歯車装置の艦尾側に、低圧タービンを艦首側に配置した、ツイン構成としていました。この構成は、八八艦隊の天城型巡洋戦艦で導入されたもので、1軸宛主機2基併結、推進軸4軸で、1艦宛主機8基となります。
タービン自体は、昭和6年度計画の駆逐艦初春型に搭載された、使用実績ある艦本式高低圧タービン(1軸当り21,000shp)を、長期信頼性向上のため約90%に減格(ディレーティングderating)し、1軸宛2組(18,750shp×2=37,500shp)の構成で、4軸合計150,000shpとしていました。高圧タービンの初圧は22kg/c㎡と、主缶使用圧25kg/c㎡からやや低く設定されていました。
第1号艦(大和)用のタービンは昭和12年4月に製造が訓令されましたが、同年12月に駆逐艦朝潮の中圧タービン動翼に亀裂が発生し、いわゆる臨機調事件に発展したため、低圧タービンと後進タービンの設計を改め、ピッチ円径を増大し、各タービンの動翼高を短縮し、動翼を増厚することで、円周方向二節振動共鳴点を安全側にずらしました。動翼植込部もエ字状に改正しています。この結果、重量は高圧タービンが0.1t、低圧タービン(後進タービン含む)が6.0t、減速歯車装置が1.0t増大し、1軸当り13.2t、4軸合計で52.8tの増大となりました。また、蒸気消費量が1.2%増大し、熱効率は1%低下すると判定されました。

2-1-2. 減速歯車装置

項目モジュール・
圧力角
ヘリカル角歯数ピッチ円
直径

(mm)
減速比回転数(rpm)
巡航
全力
巡航超過
全力
巡航併用減機
全力
巡航許容
全力
10/10
全力
巡航タービン
子歯車
3.5
20度
30度0分22秒34137.4093.7356,3527,1187,9948,581-
巡航タービン
親歯車
127513.2651,7011,9062,1402,297-
高圧タービン
子歯車
5
14.5度
44254.03414.6591,7011,9062,1402,2973,298
推進軸
親歯車
6453273.911116130146157225
低圧タービン
子歯車
68392.5989.4851,1001,2331,3851,4862,135
推進軸
親歯車
6453273.911116130146157225

典拠: 戦艦大和のすべて 原勝洋 インデックス・コミュニケーションズ H17

<解説>
本級の減速歯車装置は、親歯車(推進軸に直結)に対して高圧・低圧両タービン(1軸宛各2基)軸上の小歯車計4個がそれぞれ独立に噛み合う4ピニオン式で、歯のねじれ角30度の山歯歯車(ヘリンボーン・ギヤ)1段減速です。減速比が割り切れない値となるのは、同じ歯同士が当たる確率を極力下げるためです。
巡航タービンは、高圧タービンと専用の減速歯車装置でつながっており、推進軸までの総合減速比は54.756です。
表中、
「巡航全力」は巡航タービン作動時の計画全力時
「巡航超過全力」は巡航タービン作動時の超過(過負荷)全力時
「巡航併用減機全力」は巡航タービンと高圧タービン(1軸宛2基のうち1基のみ)の双方に給気する並列運転による全力時
「巡航許容全力」は巡航タービンの許容回転数まで高圧タービン(1軸宛2基)に直接給気したときの全力時
をそれぞれ示します。
なお、それ以上の出力に対しては、巡航タービンは嵌脱継手(ドグ・クラッチ)を外して解放し、高圧タービン(1軸宛2基)に直接給気して運転します。

2-1-3. 主機の重量

艦名/竣工年型式基数軸馬力
(shp)
推進軸
回転数
(rpm)
減速
装置
重量
(t)
重量当り
出力
(shp/t)
推進軸
タービン減速装置合計
長門/T9技本(艦本トリプルフロー)式高低圧480,0002302ピニオン2032164191914
赤城/S2技本式高低圧8131,2002104ピニオン3112725832244
扶桑(改装)/S8艦本式高中低圧480,0002803ピニオン1581823402354
金剛(改装)/S12艦本式高中低圧4136,0003203ピニオン2351684033494
大和/S16艦本式高低圧8150,0002254ピニオン3823667482004
翔鶴/S16艦本式高中低圧4160,0003003ピニオン2282124403644

典拠: 昭和造船史 第1巻 日本造船学会編 原書房 S52

<解説>
本級の主機は、1軸宛主機2基のツイン構成とは言え、2世代前の天城型よりも重量当り出力が低下しているのは、いささか寂しいものがあります。なお、ディレーティング前の出力168,000shpでの重量当り出力は224shp/tと、天城型と同等でした。

2-2. 主缶

艦名/竣工年型式
使用圧
(kg/c㎡)
蒸気温度
(℃)
噴燃器
力量

(kg/h)
燃室
容積

(m3)
蒸発
伝熱面積
(㎡)
過熱
伝熱面積
(㎡)
発生
力量
(shp)
重量
(t)
重量当り
発生力量
(shp/t)
長門/T9ロ号艦本19.3264 (+55)450×722.65561394,45034.8127
加賀/S3ロ号艦本19.3209 (飽和)550×1141.91,002-9,875
伊勢(改装)/S12ロ号艦本20211 (飽和)750×940.1894-10,00038.2262
蒼龍/S12
金剛(改装)/S12
ロ号艦本22300 (+84)1,000×1043.093916819,00065.0293
大和/S16ロ号艦本25325 (+102)800×935.089516512,50077.0162
翔鶴/S16ロ号艦本30350 (+92)1,000×1043.390318220,00067.5296
島風/S18ロ号艦本40400 (+151)1,100×945.666221225,00083.6297

典拠: 昭和造船史 第1巻 日本造船学会編 原書房 S52

<解説>
艦本式水管缶は、ヤーロー缶から発達したもので、上部の汽胴1本と下部の水胴2本を三角形の各頂点に配し、中央の空間(燃焼室)を覆うように汽胴と水胴を多数の水管で結んだ、3胴式(スリー・ドラム)水管缶の一種です。本級用は水胴中心から汽胴中心までの高さ3100mm、水胴2本の中心間距離5000mm、水胴の長さ4800mmで、金剛(改装)用や最上用(前記3項目の寸法:3300mm, 5200mm, 5280mm)からは一回り小型でした。水管は片側19列とし、直径は燃焼室側から最初の2列が76mm(3in)、次の5列が51mm(3in)、残りの12列が45mm(1-3/4in)で、7列目と8列目は間隔を広げ、間に水平に過熱器をはさみ、水管列を通過する燃焼ガスの熱を吸収させていました。缶水の循環は、給水管→汽胴両側→外側12列の水管(下降)→水胴→内側7列の水管(上昇)→汽胴中央(蒸発)→過熱器で、以下主蒸気管→高圧タービン→低圧タービン→復水器→水タンク→給水ポンプ→給水加熱器→給水管となります。なお、主缶の重量当り発生力量(蒸発量)は、空母蒼龍や同翔鶴型の約55%にとどまっていますが、噴燃器(バーナー)力量では両級の72%であることより、主機同様長期信頼性を重視し、安全係数に充分余裕を持たせたものと考えられます。なお、主缶・主機・補機を合計した機関部総重量は、天城型の4,496tに対して本級は5,218tで、排水量(常備または公試)に占める比率はそれぞれ10.6%、7.7%でした。


2-3. 推進器

艦名/竣工年型式直径
(mm)
ピッチ
(mm)
ピッチ比面積面積比
全円(㎡)展開 (㎡)斜影 (㎡)展開/全円斜影/全円
長門/T9オージバル419144071.05213.7958.4547.4320.6130.539
伊勢(改装)/S12オージバル380034600.91111.3417.6706.9750.6760.615
蒼龍/S12オージバル380040401.06311.3419.6408.6170.8500.760
金剛(改装)/S13オージバル390034800.89211.94610.3609.5720.8690.801
大和/S16オージバル*500048000.96019.63513.20011.8650.6720.604

典拠: 軍艦機関計画一班 改訂増補三版 海軍機関学会 1919、マンガン青銅推進器鋳造法の研究 藤田忠男 日本学術振興会 1956
*:第1号艦予備用はエアロフォイル型

<解説>
本級用の推進器は、3枚翼オージバル型で、材質はマンガン青銅鋳物(MnBC52)、鋳込重量(湯口・湯道・押湯・仕上代含む)49.8tでした。仕上重量は不明ですが、鋳込重量のほぼ1/2前後と考えられます。推進軸回転数が225rpmと比較的低速のため、翼形状は比較的細長く、同330rpmの蒼龍や同320rpmの金剛型(改装後)と比べると、面積比が小さくなっていました。


2-4. 推進軸回転数・速力・軸馬力の関係

項目巡航
全力
巡航超過
全力
巡航併用減機
全力
巡航許容
全力
10/10
全力
推進軸回転数 (rpm)116130146157225
速力 (kt)16.718.520.521.627.0
速力当り推進軸回転数 (rpm/kt)6.947.027.127.268.33
1軸当り軸馬出力 (shp)5,5007,50010,50012,50037,500
軸馬力 (shp)22,00030,00042,00050,000150,000

典拠: 戦艦大和のすべて 原勝洋 インデックス・コミュニケーションズ H17

<解説>
一般的に艦船の速力は推進軸回転数にほぼ比例、所要出力は速力の3乗に比例するとされており、上表にもそれが現われています。



3-1. 公試(汽走試験)の要領

公試(汽走試験)の要領は、「機関実験参考書」によれば、
「汽走試験ノ一般目的ハ速力及力量決定ノ為或ハ定メラレタル距離又ハ時間内施行セラルルモノニシテ此等ノ試験ヨリ抵抗及推進器等ニ関スル事項ヲモ求ムルニアリ」
「速力試験ハ通例1浬乃至2浬ノ短距離ニテ数回往復施行セラルモノニシテ、試験区域標識ノ為海岸ニ標識ヲ特設ス、而シテ短距離航走ノ場合ニハ標柱間ノ前後ニ艦ノ旋回及旋回後標柱間ニ入ル迄ニ充分ナル場所ヲ要ス」
「標柱間汽走ニ関シテハ特ニ次ノ諸項ニ注意スルヲ要ス、
 1. 艦底ノ浄否ハ成績ニ影響スルコト大ナリ、故ニ艦出渠後ノ日数ハ必ズ成績中ニ記入シ置クヲ要ス、
 2. 吃水モ亦成績ニ影響ス、出入港時ノ吃水ニ比較シ其ノ時刻迄ノ使用炭量及水量等ニ帰因スル修正ヲ行フヲ要ス、
 3. 主機械加減弁ハ標柱間ニ入ル前予定シテ汽走中変更スベカラズ、
 4. 標柱間汽走中ハニ、三度以上ノ転舵ヲ避クルヲ要ス、
 5. 標柱間ノ潮流ハ汽走中方向モ速力モ共ニ一定ノモノニアラザルガ故ニ必ズ偶数回ノ試航ヲ行ヒ潮流風向等ノ影響ヲ除外スルヲ要ス、
通例試航ハニ回ノ往復ヲナシ、次ノ如ク連続平均ヲトルコトト定メラル、
 第一回往航速力 Va
 第一回復航速力 Vb
 第ニ回往航速力 Vc
 第ニ回復航速力 Vd
 第一平均 (Va + Vb)/2, (Vb + Vc)/2, (Vc + Vd)/2
 第ニ平均 (Va + 2Vb + Vc)/4, (Vb + 2Vc + Vd)/4
 第三平均 (Va + 3Vb + 3Vc + Vd)/8
公試運転及高速航続力運転等ニ於テハ最小力量ヨリ全力ニ至ル迄ノ航走試験ヲ行ヒ全力以下ノ力量回転数及速力ノ数値ヲ求ムルコトアリ、
汽走試験ニ於テ良結果ヲ得ンニハ尚次ノ諸項ニ留意スベシ、
 1. 缶ハ内外部共ニ充分清浄ナルコト、
 2. 燃料ハ良質ノモノヲ用フルコト、
 3. 機械ハ擦熱ヲ起サザル様各部ノ調整良態ニシテ且注油装置完備シ良好ナルコト、
 4. 推進器面は滑ラカニシテ翼及尖端等ニ損所ナク水中ニ充分没シオルコト」
となっていました。


3-2. 「大和」の予行運転成績S16.10施行

項目速力
(kt)
軸馬力
(shp)
推進軸回転数
(rpm)
有効馬力
(ehp)
推進効率
Pc
アドミラルティ係数
Ac
燃料消費量
(t/h)
10/10全力27.46153,55322576,70049.9522857.0
8/10全力26.6120,65561,17250.70264
6/10全力25.690,08048,50853.85319
4/10全力23.261,43033,23354.10344
基準速力16.4718,59510,91558.704068.7

典拠: 戦艦大和 その生涯の技術報告 松本喜太郎 再建社 S27

<解説>
S16.10.18〜20に宿毛港外で行なわれた、予行運転の結果と思われ、排水量69,000〜69,500tでのデータです。予行運転は、公試運転に先立って行われ、公試運転の資料を得るとともに機関の状態を確認するのが目的です。福井静夫「海軍艦艇史」には、「10/10予行で69,166t、153,550shp、27.46kt、10.5/10過負荷予行で69,097t、165,360shp、27.73kt」と記載されています。
本級の特徴の一つである球状艦首(バルバス・バウ)は、模型実験の結果、垂直艦首に比べて速力27ktで有効馬力5,535ehpの減少になると算定されています。その他、推進器の張出軸承形状の研究により同1,900ehp、湾曲部竜骨(キール)装備法の研究により同475ehp、合計7,910ehpの減少になり、推進効率Pcを50%とすると、軸馬力で15,820shpの節減となります。一般に戦艦の計画速力時の推進効率は44〜50%とされており、本級の推進効率は戦艦中ベストの部類でした。燃料6,000tでの航続力は単純計算で10/10全力時が2,890浬、基準速力時が11,350浬となります。 本級の公称航続力は16ktで7,200浬とされていましたが、実際にはその約1.5倍あったことになります。
なお、上記文献などで本級の過負荷全力を10.5/10と表現していますが、「機関計画内規」(S6.5.1制定、S16.7.15改正)では、戦艦の過負荷全力を計画全力の11/10(戦艦以外の艦種はすべて10.5/10)と規定していることより、以下11/10と記載します。本級の実際の過負荷全力時にも、計画全力150,000shpの1割増の165,000shp以上が記録されています。


3-3. 「大和」の公試運転成績S16.10施行

項目速力
(kt)
軸馬力
(shp)
推進軸
回転数
(rpm)
燃料
消費量

(t/h)
蒸気室圧力
(kg/c㎡)
蒸気室
温度
(℃)
復水器
上部真空
(mmHg)
巡航タービン主タービン
過負荷全力 (11/10)27.68166,120228.662.7-18.95322709
公試全力 (10/10)27.30151,707223.257.5-19.36319712
巡航最大速力
(旧、巡航許容全力)
21.5444,790156.720.519.6814.95299/260726
巡航全力
(旧、巡航超過全力)
19.2330,739138.814.019.83-298735
基準速力
(旧、巡航全力)
15.9117,432115.47.716.05-257738
後進全力17.2044,370155.342.0-15.33277718

典拠: 昭和造船史 第1巻 日本造船学会編 原書房 S52

<解説>
日付はS16.10.26〜30、場所は宿毛港外、白崎〜櫛ヶ鼻間(標柱間距離1.1549浬、水深75〜318m)、11/10過負荷全力時の缶受熱燃焼度(主缶の全伝熱面積当り毎時燃量消費量)は62,700÷12÷(895+165)=4.93kg/㎡-h、燃料6,000tでの航続力は単純計算で2,649浬となります。 なお、福井静夫「海軍艦艇史」には、公試全力で69,304t、151,700shp、27.3kt、過負荷全力で69,200t、166,180shp、27.68ktと記載されています。


3-4. 「大和」の終末運転公試成績S16.11.30施行

場所水深
(m)
潮流海上
模様
風速
(m)
風向標柱間距離
(浬)
記録番号速力
(kt)
推進軸回転数
(rpm)
軸馬力
(shp)
佐田岬90滑ラカ5.5右舷横1.1009127.97219.8151,070
5.5左舷横226.56219.7150,760
5.5向い328.33220.4151,790
第一平均①(1+2)/227.265219.75
第一平均②(2+3)/227.445220.05
第二平均(第一平均①と第一平均②の平均)(1+2+2+3)/427.355219.9151,207

典拠: 大和終末運転公試成績 国本康文 私家版 H19

<解説>

終末運転公試は、主機・主缶の開放検査を終了し、再組立復旧後に行われるもので、公試全力(10/10)を2時間続行し、その間に標柱間を4回(2往復)航走するのが原則です。
1番航走(潮流:順)と2番航走(潮流:逆)は、推進軸回転数がほぼ同一ですから、おむね同一速力(相対速力)を発揮していると考えられ、潮流の速度は両者の速力差の1/2の0.7ktと見積もられます。
肝心の速力の算定ですが、前記のように連続平均を採りますので、27.355ktとなります。
3番航走で28.33kt出たからと言って、これが最大速力とならないのは、長さ100mの動く歩道の上を9秒0で走ったところで、100m走の記録とは認められないのと同じことです。
惜しむらくは、標柱間航走を3回(1往復半)で打ち切ってしまったことで、4回(2往復)実施していれば、より信頼性の高い速力データが採取できたものと考えられます。
※軸馬力については、連続平均でなく単純平均を採っていますが、これで良いのか一抹の疑念が生じます。ちなみに、連続平均ですと151,095shpとなります。

3-5. 「武蔵」の公試運転成績S17.6.施行

項目速力
(kt)
軸馬力
(shp)
推進軸回転数
(rpm)
燃料消費量
(t/h)
軸馬力
燃料消費量
(kg/shp-h)
缶受熱
燃焼度
(kg/㎡-h)
噴燃器
使用数
過負荷全力 (11/10)28.10166,520230.363.90.3844.66
公試全力 (10/10)27.50150,180223.653.60.3574.367/9
巡航最大速力21.2644,545156.6
巡航全力19.1831,018140.2
基準速力16.1217,546116.5

典拠: 戦艦武蔵建造記録 牧野茂/古賀繁一 アテネ書房 H13

<解説>
S17.6.22/25に佐多岬標柱間で行なわれた公試運転の結果で、排水量は不明ながら、公試排水量69,100t前後と思われます。10/10全力・11/10過負荷全力ともに、先述の「大和」を若干上回る速力を記録しています。噴燃器(バーナー)の使用数は、10/10全力で1缶当たり9基中7基ですから、主缶にはなお2割程度の力量余裕があったことになります。なお、本艦の燃料消費量は、上記文献記載の軸馬力燃料消費量に軸馬力を乗じて求めたものです。


3-6. 大和型の限界速力

項目速力
(kt)
軸馬力
(shp)
推進軸
回転数
(rpm)
燃料
消費量
(t/h)
軸馬力
燃料消費量
(kg/shp-h)
排水量
(t)
実施日
11/10過負荷全力(大和)27.68166,120228.662.70.37769,200S16-10-20
11/10過負荷全力(武蔵)28.10166,520230.363.90.384S17-6-22
11/10過負荷全力(平均)27.89166,320229.4-
10/10全力(大和)27.30151,707223.257.50.37969,304S16-10-20
10/10全力(武蔵)27.50150,180223.653.60.357S17-6-22
10/10全力(平均)27.40150,943223.4-

前記の公試運転成績より本級の限界速力を推定すると、上表のようになります。公試排水量69,100tのとき、10/10全力で27.4kt、11/10過負荷全力で27.9ktが実力と言ったところでしょう。なお、本級の減格前の出力は先述のように168,000shpですから、11/10過負荷全力時をわずかに上回り、この場合の速力は28.0ktと推定されます。

一部識者は、本級の速力増大のため、翔鶴型の主機を流用すべきであったと主張していますが、空母を含む補助艦用の主機を主力艦(戦艦・巡洋戦艦)に流用する場合は、先述の初春型の主機と同様、90%に減格することが必要です。金剛型(第二次改装後)も、152,000shpの最上型の主機を90%に減格し、136,000shpとして使用しています。翔鶴型の主機を90%に減格すると144,000shpとなり、本級の所要出力150,000shpに対して6,000shpの不足を生じます。むしろ、短期間(数年間)で使いつぶす覚悟で、減格前の出力168,000shpで運用すれば、翔鶴型の主機を流用するよりも8,000shpの出力増大が可能で、主缶の力量余裕もこれに充分対応可能であったと考えられます。


目次

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください