このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


FAQ(よくある質問)コーナー(4)

欧州大陸蒸機に関して、よくあるご質問にお答えします。


Q.1
英国や米国ではミカド型の急客機はほとんど希(車両長に余裕があるアメリカ大陸ではミカドなど採用せず、はじめからマウンテン型にしてしまうのでしょうが)のようですが、欧州ではミカド型の急客機は古くから、かなり愛用されていたように思います。
例えばドイツでは3気筒ミカド39型のばあい、シュワルツワルト線のような急勾配、急曲線の山岳線で39型はその命が尽きるまで長期にわたり、好成績を残したと言われています。
また、各軸駆動ヘンシェル製19-1001型のように2-8-2の軸配置が、始めから175km/h超の高速機関車用として設計製作されています。
これらの1軸先台車付き急客機には、1軸蛇行動を抑える何か特殊な機構や設計が採用されていたのでしょうか?
それとも単なる国情の違いから来るものでしょうか?
どうも、急客用機関車は2軸先台車を持たねばならぬという先入観が先走ってしまいます。 (大柳 啓吾氏)
A.1
ドイツの39(旧プロイセンP10)や19(旧ザクセンXXHV)、19-1001はクラウス・ヘルムホルツ式先台車を備えています。これはご高承のように、ビッセル式1軸先台車の首振り中心を第1動軸中央に設けられた専用軸箱の球面座に設け、第1動軸にも僅かな横動を与え、先台車ほぼ中央に主台枠から垂下した中心ピンに対接する復元用の横置き板バネを配したものです。作用は、直線上では先輪と第1動輪とがピンを中心に互いに逆方向へ移動(周期別々)することによって1軸蛇行動を抑え、曲線上では先輪・第1動輪とも曲線内側に移動し復元バネを圧することによって復元力を生じるものです。このクラウス・ヘルムホルツ式先台車はドイツ・オーストリア系の1軸先台車付き蒸機に広く採用されています。
一方、フランスやイタリアでは目的を同じくするツァラ式先台車が広く採用されています。これは上記のパテントを逃れるため、板式2軸先台車の後側を第1動軸に掛け渡したようなもので、復元装置はリンク式が多いようです。
「急客機は2軸先台車を持たねばならぬ」というのはあながち誤りではなく、復元力(横圧の反力)を大きくするにはそれに見合った輪重が必要で、軸重を大きくするのでなければ軸数を増やすしかありません。レールに直角に当たる(首を振る)2軸先台車は当り角もゼロに近づくので脱線の危険性も減ります。クラウス・ヘルムホルツ式先台車もツァラ式先台車も第1動軸は当然横動するだけですので、当り角は若干小さくはなるものの、作用において2軸先台車に匹敵、とまではゆかないでしょう。


Q.2
各軸駆動機関車の有効性について
前の質問に出てきましたヘンシェルの19-1001機関車のようにV2気筒蒸気機関を各動軸に配置する機関車は、大変に優れた特性(高速性、圧倒的な運動重量バランスの良さ)を持っていたということです。
小生のようなフリーランス模型製作の趣味人間(しばしば空想的見方を好む)には、蒸気機関車の時代が、更にあと10年続いたと仮定した場合、これは新しい非常に優れた駆動方式ではなかったか、と勝手に想像しています。
しかし、各軸駆動機関車の将来性は有望だったと言えるのでしょうか?
それとも、これも他の試みと同じ様に、蒸気機関車の歴史の1コマとして終わってしまった、と言うのが正しいのでしょうか?(大柳 啓吾氏)
A.2
小型高速の蒸気機関を用いた各軸駆動式は、ご指摘のような長所の反面、短所も持ち合わせていました。
本題に入る前に、まず米国の4-8-4と同国ペンシルヴェニア鉄道(PRR)の4-4-4-4を比較してみましょう。
通常の米国の4-8-4は2シリンダ式なので、ピストン、ピストン棒、主連棒、連結棒、主動輪クランクピン、主動輪カウンターウェイトなどが非常に大きく、重くなり、高速域における運動部質量バランスを取るのが困難となります。
PRRの4-4-4-4はこの欠点を半減する意図で設計され、その目的は達成されたかに見えましたが、実際の運用では牽引抵抗と勾配抵抗とによる軸重の後方移動、およびレール面の不整や水分・油分のため、常に前部エンジンが空転し易く、操縦がやや困難でした(後年、電気式の蝶型弁を前部エンジンのシリンダ蒸気管に追加したとか・・・・・)。
さて、本題の19-1001では、上記の長所・短所ともども、さらに増幅されたものと考えられます。長所はご指摘の通りですが、短所としては、加減弁が1基で全軸共通のため、ある1軸が空転を起こしても抑えるすべが無く、そのうち缶圧が低下してしまう(本機のイコライジングは何点支持だったのでしょうか? PRRの4-4-4-4は全動軸をイコライジングした3点支持と思いましたが・・・・・)。また、機構的にも機関部の部品点数が4倍となり、磨耗部分も増え、イニシャルコスト、ランニングコストとも増大する(機関がバネ上重量で、ブーフリ式類似の可撓機構で動力伝達のため、さらに複雑)。
というわけで、技術面のチャレンジには敬意を表しますが、いかにもドイツ的な理論重視(実利軽視)である上、電気やディーゼルに比べて特に優位に立てるというでもないので、別なアプローチ(連結動輪のマルチシリンダ式とロータリーカム式ポペットバルブ弁装置など)で目的達成したほうが正道であったような気がします(外側2シリンダ式とワルシャート弁装置を絶対視する久保田某氏とは一緒にしないよう願います)。
各軸駆動では、蒸気・電気を問わず、空転再粘着の制御方式が確立しない限り、通常の仕業には適さず、主流にもなり得なかったのではないでしょうか。


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