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日本の蒸気機関車データ集

対象を評価するときは、単なる好き嫌いや思い込みでなく、客観的に行いたいものです。それには、まずデータの精確な分析から始めましょう。


第1章 各部設計寸法

ここでは、特に性能に関係の深いものを中心に扱いますが、外観に現れる部分の設計寸法は模型化の際にも有用と思います。


1.ガス・サーキット燃焼ガス回路


灰箱風戸(アッシュパン・ダンパー)から煙突に至る、空気と燃焼ガスの通路を総称して、英米ではガス・サーキットと呼んでいます。燃料中の炭素が空気中の酸素と良く化合し、熱エネルギーとなってボイラ中の水を加熱・蒸発させ、高温・高圧の蒸気を大量に発生するには、ガス・サーキットにボトルネックが有ってはならないことが容易に理解できるでしょう。
なお、ガス・サーキットを機能させるのが缶内通風(ドラフト)ですが、これは車外の者には通常聞き取ることができません。蒸機の排気音を「ドラフト」と呼ぶのは、用語として誤りですので、「ブラスト」または「エキゾースト」と正しく呼ぶようにしましょう。

1-1. 火室および灰箱

ClassGADAD/GFGFG/GCCD1D2VHFV/GHF/G
87001.86N/A111811.76.29
88001.86N/A138410543.2011.71.726.29
86201.630.26015.90.66440.7N/A151112703.3510.12.056.19
8850〜88611.81N/A1219121911.76.46
8862〜88731.82N/A1219121911.66.37
67601.63N/A151112703.3510.12.056.19
9600〜96172.320.34614.90.94540.7N/A127011943.4710.01.504.54
9618〜2.320.43218.60.94540.7N/A127011943.4710.0,
(10.9)
1.504.54,
4.70
41001.86N/A1245124512.96.93
41102.23N/A119411943.758.91.683.99
B501.58N/A10.36.51
C501.610.24014.90.57435.7N/A130010402.659.51.655.90
C10, C111.60N/A142012002.39(11.1)1.496.93
C12, C561.300.16512.70.46535.8N/A135011501.84(8.1)1.426.23
C582.150.1898.70.78336.4N/A130010053.16(10.9)1.465.06
89002.530.30712.10.91536.2N/A133411053.128.81.233.47
C512.530.40415.90.96938.3N/A132010003.8011.4,
(12.4)
1.504.50,
4.90
C54, C552.53N/A132010003.80(12.4)1.504.90
C572.530.2359.20.91636.2N/A132010003.80(12.4)1.504.90
C523.800.89123.41.45438.2N/A144111624.82(15.2)1.274.00
C533.250.45814.11.12934.8N/A143010804.81(15.2)1.484.67
C591〜78,
81〜100
3.270.2888.81.19336.8N/A143010804.88(14.4)1.494.40
C5979, 803.27500143010805.44(16.7)1.665.10
C59101〜3.27420143010805.44(16.3)1.664.98
D503.250.44713.71.15535.5N/A143010804.8113.5
(15.2)
1.484.15
(4.67)
D603.250.44713.71.15535.5N/A143010804.81(15.2)1.484.67
D51, C613.270.36411.11.18336.2N/A143010804.88(14.4)1.494.40
D52, D62, C62(甲・乙)3.851000150011907.00(20.1)1.825.22
D52, D62, C62(丙)3.85920150011906.88(19.7)1.785.11
E103.3050013201030(14.4)4.36

G: 火床面積、火格子面積  [m2]
AD: 灰箱風戸面積 [m2]
AD/G: 灰箱風戸面積/火床面積比率 [%]
FG: 火格子隙間面積 [m2]
FG/G: 火格子隙間面積/火床面積比率 [%]
CC: 燃焼室長 [mm]
D1: ボイラ中心〜火室前端深さ [mm]
D2: ボイラ中心〜火室後端深さ [mm]
V: 火室容積 [m3]
HF: 火室伝熱面積、( )はアーチ管含む [m2]
V/G: 火室容積/火床面積比
HF/G: 火室伝熱面積/火床面積比

<解説>
表中、ガス・サーキットの特性に大きく影響するのは、灰箱風戸面積/火床面積比率 、火格子隙間面積/火床面積比率、および火室容積/火床面積比率です。

灰箱風戸面積/火床面積比率は、通常は12〜15%程度後で、9600形の9600〜9617で蒸気の上がりが悪かったため、9618から18%強に広げたものの、これらはむしろ煙室の通風に問題が有ったことが判り、以降の日本国鉄蒸機は16%以下としています。

火格子隙間面積/火床面積比率は、世界的にも35〜40%とすることが多いようです。これは何よりも、燃焼に最も必要とされる火格子下からの流入空気(1次空気)を取り入れ、燃焼中の石炭を火格子から落下させずに保持し、また燃えかすの灰を灰箱に落とすという、3者の折り合いのためでしょう。ちなみに、火格子の空気の通過速度は燃焼率600kg/m2/hのとき5〜6m/sとされています。

火室容積/火床面積比は、石炭中の揮発分および固形炭素が空気中の酸素と化合する程度の目安となるもので、完全燃焼のためには比1.6〜2.0が必要とされています。
狭火室で火室が深い8800形や8620形などは比1.7〜2.0前後で、特に後者は燃焼効率に優れていましたが、広火室で燃焼室を持たないC51形やD50形などは1.5前後となっています。
日本国鉄蒸機は明治末から昭和戦前までドイツ流儀を墨守しており、広火室でも燃焼室を付けずに通していましたが、1932〜33年の燃焼室付き改装C51形・D50形による試験では3〜5%の石炭節約が確認されていました。燃焼室は第2次大戦も半ばの1943年8月完成のC59形(79, 80)で初めて新製され、同年12月以降に完成のD52形でようやく正式採用されたわけです。
燃焼室長1000mm(甲・乙缶)または920mm(丙缶)のD52形で比1.8前後ですから、完全燃焼のためには最低500mm以上の燃焼室長が必要と言えるでしょう。戦後に原設計の一部を変更して製造されたC57形・C58形も燃焼室を付加すべきであったと考えられます。この点は後述する煙管の項でも触れます。


1-2. 煙管

ClassLTNTFNFShShEA/S
(T)
A/S
(F)
FAGFA/G
8700(過熱化)411546791252237A1/3581/4120.3061.8616.5
8800457246901251437A1/3871/4640.2611.8614.0
8800(高過熱化)457246661251937A1/3871/4640.2611.8614.0
8620396240911191837A1/3961/4490.2371.6314.5
8850〜8861457251881251437A1/3581/4640.2911.8116.1
8862〜8873457251881311437A1/3581/4130.3081.8216.9
8850(高過熱化)458051661251937A1/3591/4140.2861.8115.8
6760396240911191837A1/3961/4490.2371.6314.5
9600〜96574040461341252137A1/3511/4040.3902.3216.8
9658〜4040461261252237A1/3511/4040.3852.3216.6
41003200401641192237A1/3201/3510.3561.8619.1
4110〜41393962401361192137A1/3961/4490.3142.2314.1
4140〜41483962401361192237A1/3961/4490.3212.2314.4
B50396240821191837A1/3961/4490.2261.5814.3
C50397040931191837A1/3971/4500.2401.6114.9
C10320040951192237A1/3201/3510.2691.6016.8
C11320040871192437A1/3201/3510.2731.6017.1
C12, C56320040681191637A1/3201/3510.1941.3015.0
C58458046711252237A1/3981/4640.2932.1513.6
8900492451991311637A1/3861/4480.3492.5313.8
C51550051841311837A1/4311/5050.3372.5313.3
C54, C55, C57550051841311837A1/4311/5050.3372.5313.3
C52549851971312637A1/4311/5050.4373.8011.5
C53550051881312837A1/4311/5050.4373.2513.4
C591〜78,
81〜100
600051901312837A1/4701/5550.4413.2713.5
C5979, 8055005121838029E1/4311/5690.3703.2711.3
C59101〜550051521313338A1/4311/5050.4013.2712.3
D50550051901312837A1/4311/5050.4413.2513.6
D60550051541313337A1/4311/5050.4023.2512.4
D51550051901312837,
38
A1/4311/5050.441,
0.434
3.2713.5,
13.3
C61550051901312838A1/4311/5050.4343.2713.3
D52, D62, C62500051941313538A1/3921/4500.5053.8513.1
E10500051741313538A1/3921/4500.4643.3014.1

L: 煙管長 [mm]
T: 小煙管内径 [mm]
NT: 小煙管本数
F: 大煙管内径 [mm]
NF: 大煙管本数
Sh: 過熱管外径 [mm]
ShE: 過熱器形式、AはシュミットA式、Eは同E式を示す
A/S(T): 煙管ガス 通路断面積/総接触面積比、A/S比(小煙管)
A/S(F): 煙管ガス 通路断面積/総接触面積比、A/S比(大煙管)
FA: 煙管ガス通路総断面積、フリー・ガス・エリア [m2]
G: 火床面積、火格子面積  [m2]
FA/G: 煙管ガス通路総断面積/火床面積比率 [%]

<解説>
表中、ガス・サーキットの特性に大きく影響するのは、煙管ガス通路断面積/煙管内面積比率(A/S比)、煙管ガス通路総断面積(フリー・ガス・エリア)、および煙管ガス通路総断面積/火床面積比率です。

まず、A/S比は、1920年代後半のドイツ国鉄技師長R. P. ヴァーグナーの提唱により、小型蒸機では1/300、中型蒸機では1/350、大型蒸機では1/400とするのが、通過抵抗と伝熱効率の両面から妥当とされ、英・独の近代蒸機はおおむねこれに準拠して設計されていました。
例えば、ドイツ国鉄01(01077以降)は、煙管長を5800mmから6800mmに延伸した際、煙管内径を増大、過熱器をヴァーグナー式(トリプルフロー)として、A/S比を小煙管1/415、大煙管1/418と、彼の提唱する1/400に近づけました。
英国では、GWRの技師長G.J.チャーチウォードが1910年頃から同様の設計規準を確立しており、戦後の英国鉄でも、小型から大型までの標準設計12形式のA/S比は小煙管1/302〜1/447、大煙管1/368〜1/435と、おおむね上記の範囲に収まっています。
これらに対して、表に見るように、日本国鉄蒸機は小煙管1/320〜1/470、大煙管1/337〜1/555(シュミットA式)と、全般にA/S比が大きく、煙管内のガス通過抵抗が大きいことを示しています。しかも大型機ほど大小煙管のバランスが悪く、燃焼ガスの大煙管の通過量比率が低くなるため、過熱面積が大きい割に過熱蒸気温度が低くなっています。
A/S比を最適化するには、従輪付き広火室のテンダ機には燃焼室を必須とし、大小煙管のバランス改善のためには、過熱管折り返し長を約1/2として高温の火室寄りのみ2往復させたシュミット・ロビンソン式とするのが現実的でしょう。シュミット・ロビンソン式過熱器は、英国ではLNERのグレズリー・パシフィックや、SRのブリード・パシフィックをはじめ、広く採用されています。使用資材も節減できるので、わが国に向いていたと言えるでしょう。

フリー・ガス・エリアは、単位時間にボイラ内を通過する燃焼ガスの量を左右します。煙管の内径は上記のA/S比から決まってしまいますので、フリー・ガス・エリアを大きくするには火室および煙室の管板上の煙管のピッチをつめ、煙管の本数を多くしますが、水圧と熱による応力の関係も有るのでむやみにピッチをつめることはできません。ただし、英米機に比べると、日本国鉄蒸機は全般に安全率が大きく、煙管ピッチもいくぶん広いようです。

煙管ガス通路総断面積/火床面積(フリー・ガス・エリア/グレート・エリア)比率は、日本国鉄蒸機では上述の煙管ピッチの関係で12.3〜13.6%と小さくなっています。とりわけ過熱器をシュミットE式としたC5979, 80では11.3%しか無かったたため、1952年の第34回車両研究会で「燃焼ガス通路が狭く、強通風力を要し、燃焼効率が劣っていたため燃焼ガス温度が低かった」と報告され、その後両機とも通常のシュミットA式に改装されました。
ちなみに、英国鉄標準設計の従輪付き広火室のテンダ機では下記のように14.0〜16.2%でした。
 BR Class8 14.0% (デューク・オブ・グロースター、缶胴部はBR Class7と同一で火室が大)
 BR Class7 16.2% (ブリタニア)
 BR Class6 15.9% (クラン)
日本国鉄でも鋼材や工法の改善により、煙管ピッチをつめる努力が必要であったと考えられます。


1-3. 煙室および煙突

ClassBNDbnAbnDtAtDohchlHtpAt/GSV
8700S1141023680.106419017785.7
8700(過熱化)S130133136
8800S3560.099406-12581514351/12.4
8800(通風改良)S
8620〜8643S3560.0994063050813761/106.12.30
8644〜S1161063680.10645736882517141/106.52.30
8850S
8850(通風改良)S
6760S3430.09243215261014991/105.7
9600〜9651S1401543940.122470-8340011371/105.34.27
9652〜9657B1491744190.13850843245716511/11.75.94.27
9600(通風改良)B14917443854015581/104.27
4100S3810.114406014996.1
4110S1301333810.11443212751013461/105.1
4110(通風改良)S1301333940.11248363089019051/105.1
B50S
C50S11510437082518151/103.30
C10S11510439092518251/103.40
C11S11510438587018201/102.95
C12, C56S1007932079017701/102.05
C58S13013327482417741/103.45
8900S
C51S1401544400.15252528083016801/106.04.65
C54, C55S14015428987418241/104.29
C55(流線型)S1401541/103.69
C57S15017727987418241/104.29
C52S1401543850.11648036974016901/103.14.81
C53S150→130177→1333900.11947517079016401/103.75.80
C591〜100S1501774050.12950035185118011/103.95.26
C59101〜S1501771/105.58
D50B1591984350.14952024780016501/104.65.28
D51S1501774450.15554030083017801/104.85.29
C61V175150〜24035090017801/106.23
D52(甲・乙)S1501771/106.60
D52(丙)S1501771/106.89
D52(改装甲・乙),
D62(甲・乙)
V175150〜2401/106.18
D52(改装丙),
D62(丙)
V175150〜2401/106.47
C62(甲・乙)V175150〜24035096017501/106.77
C62(丙)V175150〜24035096017501/107.00
E10V175150〜2401/106.46

BN: ブラストノズル形式、Sは単式、Bはブリッジ付き単式、Vは可変ノズル付き単式を示す
Dbn: ブラストノズル(吐出管)口径 [mm]
Abn: ブラストノズル開口面積 [cm2]
Dt: 煙突喉部内径 [mm]
At: 煙突喉部断面積 [m2]
Do: 煙突頂部内径 [mm]
hc: ボイラ中心〜ブラストノズル先端高(下方) [mm]、負号はボイラ中心より上方を示す
hl: ブラストノズル先端〜煙突喉部高 [mm]
H: ブラストノズル先端〜煙突頂部高[mm]
tp: 内煙突テ−パ
At/G: 煙突喉部断面積/火床面積比率 [%]
SV: 煙室容積 [m3]

<解説>
表中、ガス・サーキットの特性に大きく影響するのは、ブラストノズル口径、ブラストノズル先端〜煙突喉部高 、および煙突喉部断面積/火床面積比率です。

上記は、煙室周り(英米ではフロント・エンドと呼ぶ)の排煙性能の目安になるものです。つまり、ブラストノズルから吐き出されるシリンダ排気のジェット流が、いかに煙室に溜まった燃焼ガスを誘引し、大気中に急速に排出するかで、ガス・サーキットの特性が左右されます。排煙性向上のためには排気ジェットと燃焼ガスの接触面積が大きいことが必要ですが、1910年頃までは各国とも未だ理論が確立しておらず、8700形・8800形・8850形などの製造時点では煙突が十分長い時代の設計規準を経験的に引きずっていました。
これを改善したのがプロイセン邦有鉄道の技師シュトラールで、1912年に研究成果が公刊されています。わが国でも早速6700形・9600形(9652〜57)・4110形にこのコンセプトを導入、試験で好結果を得たため、8620形(8644〜)以降の新製機に正式採用され、8800形・8850形にも改装が行われました。これらは、ブラストノズル先端の位置を煙室下半部に下げ、内煙突を下に伸ばしており、煙突も少し太くなっています。
これらのアクションは、石炭節約にもなるため、かなり積極的に進められましたが、問題は一度スタンダードが確立してしまうと、時代背景が変わってもめったに見直しを行わないのが日本人の欠点で、日本国鉄蒸機についても第2次大戦中まで基本的な見直しが行われず、欧米のようなピストン背圧の低減を兼ねた複(2本以上)煙突、マルチプル・ブラストノズル(キララ式・キルシャップ式・ルメートル式など)や、花弁形ブラストノズルなどは正式採用されること無く、可変ブラストノズルは第2次大戦後、ギースル・エジェクタは1960年代に至り、ともに一部のみに採用されたにとどまりました。

煙室容積は、発生ガスの総量つまり火床面積に比例させます。煙室容積を大きくすれば通風力が均一化されますが、煙室容積/火床面積比1.8前後を限度として、それ以上に大きくしても効果は上がらないようで、日本国鉄蒸機でもおおむね1.6〜1.8程度としています。
なお、煙室内部構造も通風力を左右しますが、特に火粉止めの網は煙室ガス流路全体に対して介在するため、通風力に大きく影響します。C53形までは煙室内部を棚板で上下2段に分け、煙室ガスを下段から上段へとUターンさせる途中で斜めに張った火粉止め網を通過させるという、米国式のセルフ・クリーニング式煙室を採用していましたが、英国鉄の試験でこの形式は通風力を著しく阻害することが判明しています。日本国鉄蒸機では、C54形から内煙突の裾(ペチコート)下側を逆円錐形に囲むドイツ式の火粉止め網を採用しました。これは試験の結果と言うより、構造が簡単で使用資材が少ないのと、ドイツ流儀に傾倒していた結果と考えられます。

全般的に、日本国鉄蒸機はガス・サーキットの設計において特に煙管の設計にバランスを欠いており、また燃焼室の採用を初めとして、蒸気機関車技術の世界的な進歩からかなり後れを取っていたと言えるでしょう。


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