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日本の蒸気機関車データ集


第2章 重量関係

ここでは走行安定性と乗心地に関係の深い重量関係を中心に扱います。重量関係を調査すると、設計の妥当性がある程度判断できます。
なお、各数値は原則として運転整備状態を示します。


1. 重心位置

蒸機が乗り物 (Vehicle) として走行安定性を保つには、重心の位置が適正であることが必要です。特に、日本国鉄蒸機のような狭軌の蒸機では、軌間に対する重心高の比率が大きくなりがちのため、設計配慮が重要になってきます。
また、今まで発表されたことの無かった前後方向の重心位置も、形式図中の軸重数値より算出してみました。

1-1.重心高(レール面より)

ClassDwDbHbWwWoHoWuHuWtHtHb/GHt/G
6700(真空)1600126522104.044.502.07
9550(真空)1245156622865.260.602.14
8700(真空)1600142022865.050.092.14
8700(空制)1600142022864.751.422.14
8800(真空)1600138522864.950.832.14
8850〜8861
(真空)
1600140424385.455.492.28
8850(空制)1600140424385.447.0010.5457.5415212.281.43
9600〜9617
(真空)
1245156625915.259.8215272.431.43
9600(空制)1250156625945.247.26181214.4861661.7415322.431.44
8620(真空)1600127424384.246.7615532.281.46
8620(空制)1600127424384.239.129.7148.8315572.281.46
6760(真空)1600127424383.845.572.28
6760(空制)1600127424383.846.782.28
4100(真空)1245150522865.161.2614732.141.38
4110(真空)1245145125684.654.0611.2165.2714992.411.40
C501〜671600127324404.241.01175211.9978853.0015372.291.44
C5068〜1600127324404.252.802.29
C101520136024503.969.702.30
C111〜231520136024653.866.052.31
C1124〜1401520136024653.865.852.31
C11141〜1520136024653.868.062.31
C121〜371400120024502.950.002.30
C1238〜1400120024502.950.052.30
C561400120024502.937.632.30
C581〜3681520136424504.658.702.30
C58383〜1520139624505.058.862.30
8900(真空)1600144823375.763.402.19
C51(真空)1750145024005.866.3015622.251.46
C51
(空制単式)
1750145024005.867.752.25
C51
(空制複式)
1750145024005.868.252.25
C51
(温め器)
1750145024005.854.1415.4669.6015812.251.48
C541750145024005.865.302.25
C551750145024005.866.042.25
C571〜1891750145824006.067.502.25
C57190〜1750149024006.368.332.25
D501400163225007.478.1415772.341.48
C521600163225157.463.2719.2082.4716512.361.55
C531750163225308.261.29185419.6976880.9815902.371.49
D511〜85,
91〜100
1400163225007.476.802.34
D5186〜90,
101〜954
1400163225007.477.702.34
D511001〜1400163225007.478.372.34
C591〜78,
81〜100
1750162625307.880.252.34
C5979, 801750166425308.180.402.34
C59101〜1750166425308.163.64189116.2577779.89
(79.75)
16652.341.56
C601〜381750162625307.882.902.34
C60101〜1750166425308.181.5916652.341.56
C611750163225307.478.102.34
D52(甲・乙)1400184625509.666.52190517.2071084.5016602.391.56
D52(丙)1400184625509.584.302.39
D52(改装)1400184625509.967.53191617.6170485.14
(85.13)
16682.391.56
D621400184625509.987.742.391.53
D62(軽)1400184625509.969.42188018.5169387.9316302.391.53
C621750184626309.969.66195518.8775088.53
(88.83)
16952.461.59
E101250184625808.6102.102.42

Dw: 動輪径 [mm]
Db: 最大缶胴内径 [mm]
Hb: 缶中心高 [mm]
Ww: 缶水重量 [t]
Wo: バネ上重量 [t]
Ho: バネ上重心高 [mm]
Wu: バネ下重量 [t]
Hu: バネ下重心高 [mm]
Wt: 機関車重量 [t]
Ht: 機関車重心高 [mm]
Hb/G: 缶中心高/軌間 比率
Ht/G: 機関車重心高/軌間 比率

<解説>
表中、蒸機の走行安定性に関係するのは、まず軌間に対する機関車重心高の比率ですが、これは設計がある程度進んでからでないと精確には求まりません。そこで計画時点では軌間に対する缶中心高の比率を目安とします。19世紀には各国ともこの値を2.0以下に抑えていましたが、20世紀に入り、ボイラの大型化に伴ってステップ・パイ・ステップで増大しました。言うまでも無くゲージが狭くなるほど不利であり、標準軌間以上よりもむしろ狭軌の蒸機、特に1067mmつまり3ft6in軌間の日本と南アフリカにおいて限界打破の努力が払われたと言えるでしょう。
19世紀末には、3ft6in軌間では缶中心高7ft0inが限界とされていましたが、1904年に南アフリカ中央鉄道(のちにケープ官営鉄道などと統合されてSARとなる)の10が缶中心高7ft4in (2235mm) を実現しました。1912年の8700形・8800形・9550形などの7ft6in (2286mm) は成算が有ったものの、8850形の8ft0in (2438mm) は転覆が危惧されましたが、実用上は何の不具合も無かったため、島安次郎(島秀雄の父)は缶中心高8ft6in(2591mm、のち動輪径を1250mmとしたのに伴って2594mmとなる)の9600形を計画し、部下の朝倉希一に詳細設計を命じたわけです。
以後しばらくの間、日本国鉄ではこれをしのぐものが実現しませんでしたが、1935年にSARの16Eが動輪径6ft0in (1829mm) と大型ボイラの組合わせによって破格の缶中心高9ft3in(2819mm、比率2.64)を実現しており、これがおそらく世界的にも最大比率と思われます。
日本国鉄でもこれに刺激され、1850mm動輪にC59級のボイラを載せたKC51形や、同じくD52級のボイラを載せたKC54を計画しましたが、缶中心高はそれぞれ2640mm・2700mmと、16Eをしのぐには至りませんでした。戦後になって、D52形の遊休ボイラをC59戦後形の足回りに載せたC62形が缶中心高2630mmとなり、これが日本国鉄における最大値でした。

また、機関車重心高は(バネ上重量)×(同重心高)と(バネ下重量)×(同重心高)との代数和を機関車重量で割ることによって求められます。つまり、計算上は前項が増大しても、後項の増加率が相当大きければ、機関車重心高はさほど増大しないことになります。9600形・C53形・C62形は、それぞれ8850形・C51形・C59形に対し、この裏付けがあって実現したと言えるでしょう。

バネ下重量に関して、ほぼ同大の8620形とC50形を比較すると、後者が約2.3t重いことが判りますが、動輪スポーク本数が16本から17本に増え、棒類が強化されていることを勘案しても、少し重すぎるような気がします。
C52形とC53形との比較では、後者が約0.5t重いことが判りますが、動輪径を1600mmから1750mmへ変更してもさほど重くなっていないのは、前者の中央クランクに付与されたカウンターウェイトを後者では左右動輪に分散したため大幅に軽減できたのと、先・従輪径の940mmから860mmへの変更が効いています。前者は3シリンダ関係を担当した島秀雄の工夫が生きた部分と言え、C53形の第2動輪カウンターウェイトがクランクピンの正対位置から大きくずれているのはこのためです。
また、C51形とC59形(戦後製造分)との比較では、後者が約0.8t重いことが判りますが、増加要因としては動輪のスポーク式からボックス式、先・従輪のスポーク式からディスク式への変更と、動軸径の増大および棒類の強化があり、また減少要因としては先・従輪径の940mmから860mmへの変更がありますが、全体としては意外に増大していないことも判ります。

なお、重心の高い車両を安定して高速走行させるには、線路のほうも外力(軸重)に対する変形を抑えるため、重軌条を使用し、枕木の丁数を増やし、曲線のカントを大きくする(曲線外側のバラストを増やすことが必要)などの初期投資が必要であり、日常的にもレールの真直度を保つなどそれなりに整備に努力しなければならず、結局は総合力がものを言うようです。


1-2. 重心高(テンダ)

ClassEngine CombinedDWoHoWuHuWtHtHt/G
6-13C5086030.7016354.2048834.9014971.40
5-10C5686023.6116833.6947327.3015201.42
20m3D50(大部分)94049.4515881.49
12-17C53, C54,
C51(一部), D50(一部)
86049.0015501.45
12-17DC57139〜18986040.8117555.3048146.1016061.51
12-17EC57190〜86039.1218985.7444849.2216061.51
10-25C591〜100(大部分)86050.0417806.3548856.3916441.54
10-22ASD52(改装), D6286045.0018586.7543451.7516721.57

D: 車輪径 [mm]
Wo: バネ上重量 [t]
Ho: バネ上重心高 [mm]
Wu: バネ下重量 [t]
Hu: バネ下重心高 [mm]
Wt: テンダ重量 [t]
Ht: テンダ重心高 [mm]
Ht/G: テンダ重心高/軌間 比率

<解説>
表中数値は、規定量の石炭と水を積載したときのもので、おおむねエンジンと同程度であることが判ります。なお、石炭が過積載であったりすると、当然重心高はさらに増大します。


1-3. 重心位置(前後方向)

ClassL1L2C1C2C3C4C5CtCaT1T2EtWL
6700(真空)7.727.9714.4614.36---28.8214.41--44.50394
6750(真空)8.348.1713.9713.29---27.2613.63--43.77508
6760(真空)8.918.8913.8513.92---27.7713.89--45.57547
6760(空制)9.418.8314.1414.40---28.5414.27--46.78550
8700〜8711
(真空)
6.116.1113.2312.8211.83--37.8812.63--50.091210
8712〜8729
(真空)
6.566.2912.9413.3612.84--39.1513.05--51.951269
8700(空制)6.896.6412.7012.4712.72--37.8912.63--51.421014
8800(真空)6.837.2312.8311.8212.12--36.7712.26--50.831091
8800(空制)6.856.8713.1013.2813.78--40.1613.39--53.881042
8850〜8861
(真空)
8.368.3613.6212.7212.43--38.7712.92--55.49-227
8862〜8873
(真空)
8.258.2613.9012.9312.63--39.4613.15--55.97-258
8850(空制)8.748.4213.7013.4813.20--40.3813.46--57.54-262
9550(真空)6.27-13.1913.5214.1813.44-54.3413.58--60.601233
9580(真空)6.42-13.4913.8313.9712.98-54.2713.57--60.701280
9600〜9617
(真空)
7.16-12.9312.9013.6713.16-52.6613.16--59.821309
9618〜
(真空)
7.62-13.1613.1613.4113.00-52.7313.18--60.351361
8620(真空)7.00-12.9513.3213.48--39.7513.25--46.75576
8620(空制)7.37-13.3314.3513.78--41.4613.82--48.83588
C501〜678.50-14.8014.9014.80--44.5014.83--53.00652
C5068〜9.45-14.4514.4514.45--43.3514.45--52.80767
C1010.13-12.9312.6812.20--37.8112.6010.8810.8869.70-855
C10(炭水空)9.85-12.6012.3911.90--36.8912.306.376.3759.48-317
C111〜238.70-12.2512.3012.40--36.9512.3210.2010.2066.05-926
C111〜23
(炭水空)
8.31-11.8511.9512.00--35.8011.936.076.0756.25-426
C1124〜1408.64-12.1612.2212.31--36.6912.2310.2610.2665.85-941
C1124〜140
(炭水空)
8.25-11.7611.8711.91--35.5411.856.136.1356.05-442
C11141〜7.47-13.1313.1313.13--39.3913.1310.6010.6068.06-1033
C11141〜
(炭水空)
6.96-12.2812.3412.28--36.9012.306.606.6057.06-609
C121〜377.50-10.8010.3010.90--32.0010.6710.50-50.00-295
C121〜37
(炭水空)
7.30-10.559.557.90--28.009.337.30-43.00158
C1238〜----50.05
C565.87-10.6010.5510.61--31.7610.59--37.63678
C581〜3687.98-13.5013.5213.50--40.5213.5110.20-58.70-21
C58383〜7.58-13.6513.6513.58--40.9813.6610.30-58.86-49
8900(真空)7.147.1413.1913.3112.58--39.0813.0310.04-63.40293
8900(空制)7.197.1013.3313.6512.61--39.5913.2010.15-64.03289
C51(真空)14.22--42.2014.07-66.30
C51
(空制単式)
6.576.8514.4314.6114.40--43.4414.4810.89-67.75196
C51
(空制複式)
14.74--43.8714.62-68.25
C51
(温め器)
6.787.0614.8214.9614.80--44.5814.8611.18-69.60199
C546.706.7013.4213.4213.42--40.2613.4211.64-65.30155
C556.766.7613.5513.6213.55--40.7213.5711.80-66.04151
C55(流線型)7.087.0813.8513.9913.85--41.6913.9012.15-68.00167
C571〜1897.107.1013.6813.9613.68--41.3213.7711.98-67.50182
C57190〜7.207.2013.8214.1213.82--41.7613.9212.17-68.33181
8200〜8202
(3両平均)
9.129.2015.2115.5716.87--47.6515.8816.25-82.22143
8203〜8205
(3両平均)
9.479.6515.3715.9716.50--47.8415.9515.91-82.86213
8200
(6両平均)
9.309.4215.2915.7716.68--47.7415.9116.08-82.54179
C539.689.7315.4115.4215.44--46.2715.4215.30-80.98355
C591〜78,
81〜100
8.558.5516.1616.1716.17--48.5016.1714.65-80.25166
C5979, 808.598.5916.1816.1816.19--48.5516.1814.67-80.40168
C59101〜8.538.5316.0316.0416.02--48.0916.0314.60-79.75170
C601〜399.349.3414.8815.0014.88--44.7614.929.739.7382.90-33
C60101〜14.80--44.1114.7081.49
C618.858.8513.7013.7013.70--41.1013.7010.3310.3379.46-154
C629.239.2316.0816.0816.07--48.2316.0811.0711.0788.83-174
C62(軽)10.1110.1114.8214.9614.81--44.5914.8612.0112.0188.83-179
D508.54-14.9914.8014.7914.20-58.7914.7010.81-78.14694
D6011.32-13.6213.7313.7613.57-54.6813.677.787.7881.56563
D511〜85,
91〜100
7.60-13.1714.3014.2314.30-56.0014.0013.20-76.80411
同上増圧6.48-14.2515.4714.6814.82-59.2214.8111.87-77.57449
D5186〜90,
101〜954
7.00-14.2314.2714.5214.63-57.6514.4113.05-77.70406
同上増圧、
D511001〜
6.70-14.7314.7714.9515.11-59.5614.8912.11-78.37448
D52(甲・乙)7.35-16.1616.2816.2416.07-64.7516.1912.40-84.50497
D52(丙)7.30-16.0216.2816.2416.06-64.6016.1512.40-84.30490
D52(改装)7.15-15.7016.6316.5616.40-65.2916.3212.69-85.13450
D627.31-16.0416.1516.2215.92-64.3316.088.058.0587.74317
D62(軽)10.03-14.7914.7815.0014.55-59.1214.789.399.3987.93326
4100(真空)--13.2112.5311.3812.2912.6562.0612.41--62.0632
4100(炭水空)--13.2611.4310.219,459.6553.9010.78--53.90253
4110(真空)--12.9813.1613.3813.0512.7065.2713.05--65.2715
4110(炭水空)--11.9510.8712.3710.8710.9356.9911.40--56.9952
E109.37-14.2414.1914.1114.2013.7370.4714.0911.1311.13102.10-677
E10(炭水空)9.33-14.1814.1314.0614.1413.6870.1914.045.295.2990.10-69

L1: 第1先輪 軸重 [t]
L2: 第2先輪 軸重 [t]
C1: 第1動輪 軸重 [t]
C2: 第2動輪 軸重 [t]
C3: 第3動輪 軸重 [t]
C4: 第4動輪 軸重 [t]
C5: 第5動輪 軸重 [t]
Ct: 動輪上重量、粘着重量 [t]
Ca: 平均動軸重 [t]
T1: 第1従輪 軸重 [t]
T2: 第2従輪 軸重 [t]
Et: 機関車重量 [t]
WL: 機関車前後方向重心位置 主動輪中心より前方 [mm]、負号は後方を示す

<解説>
先・従輪のいずれも有さない、または双方を有する前後対称的軸配置の蒸機では、前後方向の重心位置が動輪群の中央に来るのが望ましいと考えられます。
Eタンクの4100形と4110形は、運転整備状態で重心がほぼ動輪群の中央に来ており、理想的な重量配分と言えるでしょう。特に後者は側水槽を小型とし、補助水槽を第1・第2動輪上の台枠内にも備えたこと、換言すれば水タンクを動輪群の上方全体に展開したことによって、炭庫と水槽が空になったときでも前後方向の重心位置がほとんど変化しないという、巧みな設計になっています。

従輪付き広火室の蒸機では、重心が後ろ寄りになりがちのため、火室の後板および喉板を前傾させ、動輪群に対してボイラを極力前寄りにしますが、通常はそれでも効果不足のため、火室に燃焼室を設け、缶胴を先細りのテーパード(斜頂式)とし、砂箱や付属機器を前寄りに取り付けたりします。火室の大きい米国蒸機にこのような例が多く見られます。

のちにC52形に改称された米国製の8200形は、当初3両ずつ給水温め器の形式が異なり、8200〜8202が給水ポンプと一体のウォーシントン式(直接式または混合式、開放型)、8203〜8205が煙室の上に温め器を載せたエレスコ式(間接式または表面伝熱式、密閉型)で、給水ポンプは前後に弁室を備えたウォーシントン式でした。重心は3両ずつの平均で後者のほうが70mm前寄りとなっています。後年、瀬野八の専用補機となる際に改装されて全機同一仕様となりましたが、その状態での軸重計測値は残っていないようです。

C59形の燃焼室の無いものと有るものとでは、後者のほうが数mm重心が前寄りですが、長さ420mmの燃焼室を設けた割には重心の前方移動が小さい気がします。また、C59形とC60形(いずれも100号機以前)では、後者のほうが重心が約200mm後ろ寄りとなっています。2軸従台車による重量増大は2.65tですので、前後方向の重心位置を大きく変えるにはかなり大きな設計変更を要することが判ります。

D形機は、D50形では重心位置が動輪群のほぼ中央にあるのに対し、D51形ではこれより280mm以上も後ろ寄りとなっています。温め器の位置が前デッキから煙突後ろに移ったくらいでは重心位置はさほど変化しないと思われ、前台枠の短縮その他を勘案しても変位量が大き過ぎる気がします。D51形のキャブが著しく小さい(それでも重量は1t以上)のは、後ろ寄りの重心を少しでも改善するためと考えられます。なお、D51形は、第2次大戦中に動輪上重量増大のため、イコライザのピン位置を変更するとともに、前デッキに重量0.32tのコンクリート製デッドウェイトを搭載しましたが、これとても重心の前方変位は40mm程度でした。
D52形は火室に1000mm(甲・乙缶)または920mm(丙缶)の燃焼室を設け、煙突中心をシリンダ中心より600mm前寄りとしていますが、火室自体が相当大きいため、重心の前方変位はD51形(原型)よりも90mm程度にとどまりました。

タンク機は、炭水の消費によって機関車重量、動輪上重量、および重心位置が変化しますので、テンダ機よりも条件が悪くなっています。
C10形・C11形・E10形は2軸従台車付きのため、炭庫と水槽が空になっても動輪上重量の減少は最小限に抑えられていますが、重心は前2者で500mm程度、後者で約600mm前方に移動します。C12形は従台車が1軸のため、動輪上重量が最大で4t減少するものの、重心位置は主動輪上の狭い範囲を前後しており、軸重配分としては成功した設計の一つと言えるでしょう。

ちなみに、空制の付加による重量増大は、下記のようになります。
 6760形: 1.21t
 8620形: 2.07t
 8900形: 0.63t
 C51形: 1.45t
上記のうち、8620形は空制の有無による差がやや過大のようにも思えますが、ことによると18628以降、先台車の復元力増大のため、先輪上にリンク式復元装置を付加した分が含まれているかもしれません。
空気圧縮機の単式と複式とでは、C51形の例から後者の0.5t増大が判ります。
また、給水ポンプおよび温め器の有無では、同様に1.35tの差があることが判ります。
なお、8700形は過熱化改装、8800形・8850形は過熱面積増大改装を伴っていますので、空制の有無によって単純には比較できません。
不可解なのは9600形で、空制付きとなっても真空ブレーキ時代の9618以降の重量数値を引きずっています。

D62形は軽軸重型(軽量型と呼ぶのは誤り)のほうが全重量が0.19t大となっています。これは、シリンダにブッシュをはめて内径を550mmから530mmに縮小したためで、増加分はこのブッシュの重量(片側0.10t)にほぼ相当します。なお、C62形は軽軸重型でもシリンダ内径を縮小せず、元の520mmのままのため、形式図でも同一重量となっています。

重量数値は必ずしもその形式の統計的平均を示すものではなく、ときには計画値をもって示すことも有りますので、切りの良過ぎる数値や、平均化され過ぎた軸重なども、背景を探ってみると面白いでしょう。


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