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Q&Aコーナー (3)
皆さんからのご質問やご意見に一問一答の形でお答えします。
Part 3. 上バネ/下バネ 後日談
Q.1
先般来、数名の方より、「上バネ/下バネで原理的に動揺周期が違う」という件について質問を受けました。
ここで云う動揺とは、前後軸周りの運動、すなわちローリングを指すもので、下バネ式にすることで重心からバネ位置までの距離が増大し、固有振動数が下がってローリングが長周期化するため、多少なりとも乗心地が改善されるものと小生は考えていました。
その後、新入手の英米文献その他により、日本国鉄蒸機の乗心地の悪さは、主として往復部不釣合質量の大きいことによる、前後動に起因するものであるとの確信を得るに至りました。下バネ式によるローリングの長周期化は、原理的に間違いではないにせよ、それほど支配的でないようです。
では、乗務員の間で語られていた「下バネ式のD50のほうが断然乗心地が良かった」という評価は、どういう根拠によるものでしょうか?!
A.1
推察するに、初期のD50はピストン棒と主連棒に強度の大きいニッケルクロム鋼を採用し、往復部質量を抑えていました。しかし、19911 (D50112) 以後はヴァナジウム鋼に変更、断面寸法を大きくしており、当然往復部質量も増大しているはずです。
おそらく、「初期のD50」がいつしか「下バネ式のD50」にすり変わったのではないかと思えます。
そんなわけで、初期D50形の往復部質量を把握すべく、色々な資料を当っていますが、正確な数値の明記されたものがなかなか見当たりません。
鉄道史資料刊行会の「D50形機関車明細図」も部品ごとの重量についてはほとんど記載が有りませんでした。
そこでちょっと精確さには欠けますが、図面からの概算、および部品重量が判明しているD51形を基準にした相対差をもとに、初期D50形の往復部質量を算出してみました。
初期D50形がD51形と大きく異なるところは以下の3ヶ所です。
初期D50形 D51形
ピストン棒・ピストン尻棒 ニッケルクロム鋼 炭素鋼
ピストンヘッド 一体鍛鋼 傘形 鋳鋼 中空箱型
主連棒 ニッケルクロム鋼 炭素鋼
ピストン棒(ニッケルクロム鋼)
外径: 80mm(D51形: 90mm)
長さ(ピストンヘッド後面から後端まで): 1135mm
質量: 45.1kg
ピストン尻棒(上記と一体)
外径: 50mm(D51形: 90mm中空)
長さ: 1085mm
質量: 16.8kg
ピストン棒全体
質量: 61.9kg (D51形: 110kg)
ピストンヘッド(一体鍛鋼)
リム部
外径: 568mm、内径: 500mm、厚さ: 120mm
質量: 54.1kg
ディスク部
外径: 500mm、内径: 140mm、厚さ: 15〜20mm
質量: 29.5kg
ボス部
外径: 140mm、厚さ: 120mm
質量: 14.6kg
ピストン全体(以上の合計)
質量: 98.2kg kg (D51形: 86.69kg)
ピストンナット(炭素鋼)
質量: 2.0kg (D51形: 3.58kg)
ピストン組立(以上全部の合計)
質量: 162.1kg
主連棒組立
高さ: 112〜116mm、幅: 80mm (D51形: 高さ: 130〜140mm、幅: 80mm)
質量: 217.4kg (D51形の255.80kgの85%として算出)
D51形では既知のように、
ピストン組立: 200.27kg
クロスヘッド組立: 151.41kg
主連棒組立: 255.80kg
同上 往復部 (1/2): 127.90kg
往復部質量(片側)合計: 487.58kg
これに対して初期D50形では、
ピストン組立: 162.1kg
クロスヘッド組立: 151.4kg
主連棒組立: 217.4kg
同上 往復部 (1/2): 108.7kg
往復部質量(片側)合計: 422.2kg
となり、
相対差: 65.4kg (13.4%)
相対比: 100% - 13.4% = 86.6%
で有意差が有ると思えるのですが、如何なものでしょうか。
<参考>
鉄道省技師・多賀祐重の著書「鉄道車両」(昭和17年版)にC50〜C53, D50の往復部質量の数値を見出しました。
Class | We | D | L | Mr | M1 | M2 | M3 | M4 | Mt | Mt/Mr | Mu | Mu/We |
C53 | 80.98 | 1750 | 3100(O) | 459 | - | 25 | 344 | 1/235 | ||||
8200 (C52) | 87.47 | 1600 | 2845(O) | 543 | - | ? | ? | ? | ||||
18900 (C51) | 66.30 | 1750 | 3100 | 399 | - | 25 | 299 | 1/222 | ||||
C50 | 53.17 | 1600 | 2300 | 296 | - | 25 | 222 | 1/239 | ||||
9900 (D50) | 78.14 | 1400 | 3100 | 396 | 25 | 297 | 1/263 |
We: 機関車重量 [t]
D: 動輪径 [mm]
L: 主連棒長 [mm]
Mr: 往復部質量(片側) [kg]
M1: 第1動輪 往復部釣合質量(片側) クランク円換算 [kg]、クランク円直径はD51形660mm、他は610mm
M2: 第2動輪 往復部釣合質量(片側) クランク円換算 [kg]
M3: 第3動輪 往復部釣合質量(片側) クランク円換算 [kg]
M4: 第4動輪 往復部釣合質量(片側) クランク円換算 [kg]
Mt: 全動輪 往復部釣合質量(片側) クランク円換算 [kg]
Mt/Mr: 往復部釣合質量/往復部質量 釣り合わせ率 [%]
Mu: 往復部不釣合質量(片側) [kg]、= Mr - Mt
Mu/We: 往復部不釣合質量(片側)/機関車重量 比率
アメリカン・プラクティスで造られた8200 (C52)形の往復部不釣合質量は不明ですが、その他は日本国鉄の設計基準に沿って釣り合わせ率を25%とすると、往復部不釣合質量および機関車重量との比率は上表のようになります。
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