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明治・大正期
日本軍艦 機関部データ集

第1章 基本計画



戦艦 長門。日本戦艦で初めてオール・ギヤード・タービンを採用し、機関部重量を抑えつつ機関出力を大幅に増大。


1-2.機関部の重量配分


1-2-1. 戦艦

NameDQdBFNEAbAeWbWeWmWm/D
富士・八島12,45013,500103VTE333.1203.57215201,24110.0
Majestic14,89012,00083VTE5957401,3568.9
敷島14,85014,500253VTE374.5215.66575851,2438.4
初瀬15,000374.5215.66575851,2438.3
朝日15,20015,000253VTE377.3185.87776601,4379.5
三笠15,12015,000253VTE375.7215.67136871,4009.3
香取15,95016,320204VTE436.4231.88167751,59110.0
鹿島16,40015,600204VTE508.9210.28586871,5459.4
Dreadnought18,11023,00018DT487.2309.52,02011.2
薩摩19,20017,000204VTE468.2300.91,7008.9
安芸19,80021,60015DT517.5260.81,3326041,9369.7
河内20,80025,00016DT521.7307.31,1936451,8388.8
攝津1,2266731,8999.1
扶桑29,33048,00024DT769.9460.01,7771,5073,28411.2
山城1,8331,4803,31311.3
伊勢29,90056,00024PGT775.9510.91,8901,4473,33711.2
日向508.61,8681,4833,35111.2
Queen
Elizabeth
29,15056,00024PGT702.3522.13,95013.6
長門32,72080,00015AGT825.3516.41,8791,6983,57710.9
6
加賀・土佐39,90091,0008AGT546.5527.21,2762,3443,6209.0
4

Name: 艦名
D: 常備排水量 [T]
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、円は円缶、べはベルヴィール式、ニはニクローズ式、バはバブコック・アンド・ウィルコックス式、宮は宮原式、ロはロ号艦本式を示す
F: 使用燃料、炭は石炭専焼、混焼は炭油混焼、油は重油専焼を示す
N: 主缶数
E: 主機形式、3VTEは3気筒直立3段膨張、4VTEは4気筒直立3段膨張、DTは直結タービン、PGTはパーシャル・ギヤード・タービン、AGTはオール・ギヤード・タービンを示す
Ab: 缶室床面積 [m2]
Ae: 機械室床面積 [m2]
Wb: 缶総重量 [T]、煙路・煙突含む、斜体は缶水含まず
We: 機関総重量 [T]
Wm: 機関部総重量 [T]、We + Wb
Wm/D: 機関部総重量/常備排水量 比率 [%]

<解説>
前ド級戦艦(言うまでも無く、ドレッドノート出現以後の区分で、それ以前は標準戦艦standard battleshipと呼称)の富士から三笠までは兵装や速力などの基本仕様に大差が無いため、缶室・機械室の床面積や缶・機械の総重量も大差が無いことが判ります。常備排水量に占める機関部総重量の比率は8〜10%でした。

準ド級戦艦の香取と鹿島はともに英国建造ですが、前者がヴィッカーズ製、後者がアームストロング製で、船体は同大のため、後者のほうが缶室が広い分機械室にしわ寄せされていることが判ります。なお、備砲の発射速度も前者のほうが大であることが判明したため、日本海軍は以後ヴィッカーズ社とのつながりを深めることになります。

ドレッドノートは標準戦艦に対して片舷砲力で2倍、速力で約3ノット優っており、常備排水量に占める機関部総重量の比率はタービン主機採用にもかかわらず11%台に増大しています。これは4軸推進の関係も有り、2軸推進の安芸や河内級はいずれも機関部総重量の比率は9%前後にとどまっています。なお、安芸との比較対象となるレシプロ主機の薩摩の重量は概略値ですが、機関室床面積で安芸のほうが13%減にもかかわらず機関出力は27%増となっています。

ド級戦艦から超ド級戦艦に発展するに従って速力も増大し、初の高速戦艦とされる英国のクィーン・エリザベス級では常備排水量に占める機関部総重量の比率が13%台にはね上っています。このため、機関部においては重油専焼による主缶の大力量化、およびオール・ギヤード・タービンによる主機の小型高速化によって缶室・機械室の床面積や缶・機械の総重量の増大を抑えつつ機関出力を増大する方向に進みました。

扶桑級と長門級とを比較すると、オール・ギヤード・タービンを搭載した後者は機関部総床面積を9%増に抑えながら機関出力を2倍に増大しています。次の加賀級ではさらに主缶の大力量化を図り、主缶関係の重量を約600T削減し、缶室の床面積を前級の66%に削減しています(加賀級の機関室配置については別章で詳述します)。


1-2-2. 装甲巡洋艦/巡洋戦艦

NameDQdBFNEAbAeWbWeWmWm/D
浅間・常磐9,70018,000124VTE384.6160.58835111,39414.4
出雲9,75014,500244VTE338.5165.86304901,12011.5
磐手9,80011.4
Drake14,15030,000434VTE1,2981,2152,51317.8
Monmouth9,80022,000314VTE8849001,78418.2
八雲9,64615,500244VTE367.9220.91,38714.4
吾妻9,30716,765244VTE217.35856001,18512.7
春日・日進7,57813,50083VTE334.0137.9
Indomitable17,41041,00031DT409.51,7141,4523,16618.1
Inflexible17,2901,5651,4823,04717.6
筑波13,75019,500204VTE509.9229.51,3018022,10315.3
生駒20,5001,3077972,10415.3
鞍馬14,50022,500284VTE505.3264.01,88012.8
伊吹14,85021,60018DT514.5231.81,2766241,90012.8
Lion26,27070,00042DT1,169.6645.05,19019.7
金剛26,33075,00036DT1,091.9594.52,5531,9124,46517.0
比叡2,5731,8954,46817.0
霧島2,5521,8924,44416.9
榛名2,5221,8544,37616.6
Tiger28,43085,00039DT1,105.5647.55,36019.8
Renown27,947112,00042DT1,091.0632.15,66020.2
Hood41,200144,00024AGT843.5813.85,30012.9
赤城41,200131,20011AGT834.9668.02,0462,4504,49610.6
8

Name: 艦名
D: 常備排水量 [T]
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、円は円缶、べはベルヴィール式、バはバブコック・アンド・ウィルコックス式、宮は宮原式、ヤはヤーロー式、イはイ号艦本式、ロはロ号艦本式を示す
N: 主缶数
E: 主機形式、3VTEは3気筒直立3段膨張、4VTEは4気筒直立3段膨張、DTは直結タービン、AGTはオール・ギヤード・タービンを示す
Ab: 缶室床面積 [m2]
Ae: 機械室床面積 [m2]
Wb: 缶総重量 [T]、煙路・煙突含む、斜体は缶水含まず
We: 機関総重量 [T]
Wm: 機関部総重量 [T]、We + Wb
Wm/D: 機関部総重量/常備排水量 比率 [%]

<解説>
こちらも周知のように、浅間級から春日級までが前ド級戦艦とコレスポンドの装甲巡洋艦(前ド級装甲巡洋艦)、筑波級から伊吹までが準ド級戦艦とコレスポンドの装甲巡洋艦(準ド級装甲巡洋艦)、金剛級が超ド級戦艦とコレスポンドの巡洋戦艦(超ド級装甲巡洋艦)です。つまり日本海軍はド級戦艦とコレスポンドのド級装甲巡洋艦をスキップし、一挙に超ド級装甲巡洋艦、それも世界最大・最強・最先端のものを保有し得たわけで、これは何と言っても日英同盟の賜物でしょう。

常備排水量に占める機関部総重量の比率は、前ド級装甲巡洋艦で11〜15%、準ド級装甲巡洋艦で13〜15%、ド級装甲巡洋艦で17〜18%、超ド級装甲巡洋艦で16%と、全般的にコレスポンドの戦艦よりかなり大きくなっています。これは相対的に3〜4ノット優速のため、機関出力が大きいことによるものです。

同型艦であるレシプロ主機の鞍馬とタービン主機の伊吹では後者のほうが機関出力が小さいようにも見えますが、これは前者の22,500ihp(シリンダで発生しうる出力)が機械効率(内部摩擦損失に関係)90%を勘案すると20,250shp(推進軸上の出力)に相当するためで、機関室床面積では後者のほうが12%減にもかかわらず機関出力(軸馬力換算)は7%増となっています。

英国の巡洋戦艦インドミタブルとインフレキシブルはともにインヴィンシブル級の姉妹艦で、主缶は前者がバブコック・アンド・ウィルコックス式、後者がヤーロー式ですが、主缶総重量は後者のほうが約150T軽量なことが判ります。英国でヤーロー式をベースとした海軍省Admiralty式が、また日本でも同じく艦本式が主流となったのは、ここに一因が有ります。

重油専焼による主缶の大力量化とオール・ギヤード・タービンによる主機の熱効率向上による、缶室・機械室の床面積や缶・機械の総重量の抑制、および機関出力の増大に関しては、既述の戦艦の項と軌を一にしています。
天城級では加賀級に準じた主缶の大力量化により、機関出力を金剛級の1.75倍としながらも、主缶関係の重量を約500T削減し、缶室床面積は金剛級の76%、機械室床面積は同じく112%に収まっています。


1-2-3. 防禦巡洋艦/軽巡洋艦

NameDQdBFNEAbAeWbWeWmWm/D
和泉2,9205,50042HC267
浪速3,6507,60062HC306
Charleston3,7307,65062HC
千代田2,4005,60063VTE161
松島4,2175,32663HTE30627858413.8
Baltimore4,41310,75043HTE
秋津洲3,1008,40043HTE37327865121.0
須磨2,6578,38483VTE190.4141.032929562423.5
明石2,7567,8909215.6152.236330266524.1
25 de Mayo3,18014,0504VTE
吉野4,15015,500124VTE680
高砂4,16015,50084VTE311.8159.66664041,07025.7
Chacabuco4,16015,70084VTE
笠置4,90017,000124VTE338.9160.57215091,23025.1
千歳4,76015,500124VTE336.8159.47365341,27026.7
新高3,3669,400164VTE235.5158.731045576522.7
音羽3,00010,000104VTE250.9163.977625.8
Amethyst3,00012,00010DT
利根4,10015,000164VTE312.3134.4
筑摩4,95022,50016DT373.0228.5
矢矧372.2250.4
平戸373.0228.5
Arethusa3,75040,0008DT
龍田3,23051,0008AGT343.0250.0503.0476.5979.530.3
2
鬼怒5,10090,00010AGT494.6345.1811.6867.01,678.632.9
2
長良5,170同上

Name: 艦名または級名
D: 常備排水量 [T]
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、円は円缶、低は低円缶、機は機関車型缶、ニはニクローズ式、宮は宮原式、イはイ号艦本式、ロはロ号艦本式を示す
N: 主缶数
E: 主機形式、2HDEは2気筒横置2段膨張、3HTEは3気筒横置3段膨張、3VTEは3気筒直立3段膨張、4VTEは4気筒直立3段膨張、DTは直結タービン、AGTはオール・ギヤード・タービンを示す
Ab: 缶室床面積 [m2]
Ae: 機械室床面積 [m2]
Wb: 缶総重量 [T]、煙路・煙突含む、斜体は缶水含まず
We: 機関総重量 [T]
Wm: 機関部総重量 [T]、We + Wb
Wm/D: 機関部総重量/常備排水量 比率 [%]

<解説>
防禦巡洋艦では、常備排水量に占める機関部総重量の比率は主缶が円缶のもので21〜31%、水管缶のもので21〜26%と、同時期の装甲巡洋艦の約1.5倍となっています。これも相対的に2ノット前後優速のためです。

軽巡洋艦では、水雷戦隊旗艦という任務上、下記の駆逐艦に準じた大速力が要求され、機関出力もそれに見合ったものとなっており、機関部総重量の比率も30%を超えています。


1-2-4. 駆逐艦

NameDQdBFNEAbAeWbWeWmWm/D
Desperate
(30-knotter)
3105,70034STE926515750.6
薄雲(東雲級)2755,40034STE125.445.6
曙(雷級)3056,00044VTE87.557.184.660.0144.647.4
朧(雷級)138.545.4
3636,50044VTE87.150.0137.137.8
白雲3737,00044VTE75.077.4152.140.8
吹雪(春雨級)3756,00044VTE94.568.7163.343.5
神風3756,00044VTE85.561.3
Afridi (Tribal)85516,5006DT403.047.1
海風1,03020,5002DT206.6137.8
6
5309,50054VTE126.497.7
浦風81022,0003PGT154.3180.6
5959,50024VTE107.698.7164.794.3259.043.5
2
磯風1,10527,0003PGT182.4141.4287.3184.7472.042.7
2
75516,0002PGT136.3110.3193.7140.6334.344.2
2
77017,5002PGT130.5112.1
2
谷風1,18034,0004AGT174.9141.154346.0
77021,5003AGT123.6112.132742.5
若竹82021,5003AGT155.8194.7350.542.7
峯風1,21538,5004AGT193.7152.455045.3
神風(2代)1,27038,5004AGT

Name: 艦名または級名
D: 常備排水量 [T]
Qd: 計画出力 [hp]、レシプロ機関は指示馬力ihp、タービン機関は軸馬力shpを示す
B: 主缶形式、ソはソーニクロフト式、ヤはヤーロー式、イはイ号艦本式、ロはロ号艦本式を示す
N: 主缶数
Ab: 缶室床面積 [m2]
Ae: 機械室床面積 [m2]
Wb: 缶総重量 [T]、煙路・煙突含む、斜体は缶水含まず
We: 機関総重量 [T]
Wm: 機関部総重量 [T]、We + Wb
Wm/D: 機関部総重量/常備排水量 比率 [%]

<解説>
駆逐艦では、常備排水量に占める機関部総重量の比率は実に42〜47%と、他の艦種に比較して著しく大きな数値となっています。これに兵装(雷装がメイン)と僅かばかりの居住スペースが加わり、装甲を一切省いた船体に収められているわけで、まさしくブリキ缶tin canの形容が当てはまります。この傾向はWW1まで続きましたが、ネーヴァル・ホリデイの1920年代後半から1930年代前半は軍縮条約下でかえって質的向上が進み、英国の例ではTribal(部族/1935/2代)級で機関部総重量の比率が23.6%に低下し、兵装と船体の重量比率が大きくなっています。同時期の日本駆逐艦との精確な比較に興味が持たれます。

なお、浦風級は前項で述べたように、当初タービン・ディーゼル併用に備えて機械室の床面積を著しく大としていましたが、これが不可となったため空きスペースに重油タンクを設置していました。


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