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京阪電車2000年7月1日ダイヤ改正雑感


 2000年5月24日朝刊(私が確認したのは朝日、日経、京都)に、京阪特急ダイヤ改正のニュースが掲載されました。それによると、特急が終日丹波橋と中書島に停車するようになります。宇治線電車については、中書島で特急と接続する体制となって、三条への直通は廃止され、中書島−宇治の折返し運行となります(朝8時台の2本を除く)。また、平日朝ラッシュ時に6本運行されている枚方市停車の淀屋橋行特急が2本増発され、8本体制となります。

 京阪特急は七条−京橋間がノンストップが故、宇治線−大阪市内については、急行に乗らざるを得ず、所要時間もかかります(因みに、データイムの急行で中書島−淀屋橋47分、特急の三条−淀屋橋45分より時間がかかっています)。その上、ロングシート車ということもあって、その移動は苦痛でもありました。実際、この区間については、増発や新型車導入による高速化・快適化が進むJR奈良線と東海道線新快速の乗継利用にシフトしつつあったのも事実です。今回のダイヤ改正では、特急中書島停車により、宇治−大阪の速達化・快適化を実現して、JRにシフトした利用客を呼び戻す意味があるといえます。また、丹波橋停車は、近鉄京都線各駅から京都駅へ向かい、JR新快速を利用して大阪に向かう旅客を京阪に呼び込む作戦といえましょう。

 京阪については、途中駅の利便性向上が遅れていたのが事実です。実際、それがもとでJRやマイカー、スクーター利用へのシフト見られ、利用客数が落ち込んだとも考えられますが、遂に巻き返しに転じたようです。遅きに失した感じもしますが、その効果が注目されましょう。

 ただ、万人に便利なダイヤというのは難しく、今回の改正では以下のような問題が指摘されます。
(1)宇治線電車の三条直通廃止による利便性低下
(2)特急途中停車による京阪間直通旅客の利便性低下
(3)京都市内−枚方や寝屋川、門真、守口といった区間の利便性が向上しない
この3点について考えてみたいと思います。


宇治線電車の三条直通廃止

 鉄道は乗換が面倒が故に、他の交通機関が選択されるケースもあります。そのため、近年は、他の交通機関との競争を考えて、支線であっても都心部と直通運転するケースが増えています。このような時代の流れの中で、直通を廃止するのは時代の流れに逆行するのではないか、という指摘があります。

 確かに、宇治線各駅−伏見桃山、藤森といった区間の利便性は低下します。ただ、実際に利用が多いのは、これらの区間よりも、宇治線各駅−四条・三条の区間です。この区間において、現行の直通運転はあまり意味がありません。京阪電車は駅数が多く(つまり、駅間が短い)、各駅停車に乗るとかったるいと感じますし、時間がかかります。そのために、本線区間では急行を利用します。

 現行ダイヤでは、宇治線電車は丹波橋で急行に連絡するので、丹波橋で宇治線電車(普通)と急行を相互に乗り換えるということになります。で、宇治線電車が中書島折返しになると、四条→宇治については中書島も同じホーム上で乗換が可能のため、中書島で乗り換えても必要な労力は変わらないということで問題にはなりません。しかし、宇治→四条については、中書島で、階段の上下を伴う乗換を要するのが問題として指摘されます。ただ、丹波橋で急行に乗り換えるよりは、中書島で乗り換えておいた方が急行で座れる可能性が高いために、中書島で乗り換える旅客も多いです。中書島の連絡通路には、エレベータも完備されていることを考えると、大きな不便ではないともいえます。また、四条→宇治の場合、午後3時以降は宇治線電車が1時間8本運転になり、丹波橋で宇治行きに乗り換えず、中書島へそのまま向かうと、中書島で始発宇治行き電車が待機しています。これに乗り換えると、本線直通よりも当然早く目的地に到着できます。従って、宇治−四条については、現行の直通運転は意味をなしていないと感じています。また、今回のダイヤ改正では、中書島で特急と接続することにより、 宇治−四条間の所要時間も短縮されます。むしろ、この区間については利便性が向上したと受け止められます。

 とはいえ、先に挙げた宇治線各駅−伏見桃山・藤森の区間については、直通の廃止は利便性の低下をもたらします。では、何故廃止に踏みきったかと考えると、これらの駅周辺の街の相対的地位が低下したことが挙げられると思います。藤森にはダイエー、伏見桃山には大手筋商店街とサティという集客力のある商業施設がありますが、宇治線沿線にはこれらと競合する商業施設が増えました。黄檗−三室戸間のエリアにアルプラザ平和堂が、六地蔵エリアには以前からのイズミヤに加え、近鉄百貨店桃山店とイトーヨーカ堂が出店し、わざわざ電車に乗って日用品を買いに行く必要がなくなったわけです。実際、伏見桃山の近くには、西友もありましたが、売り上げの減少などで数年前に店じまいしました。四条河原町界隈の商業施設は、百貨店が主体とあって、日用品とは異なるので直接に競合しないといえますが、スーパーの場合は完全に競合するので、電車の利用客数にも影響を与えたと考えられます。尚、伏見桃山については、近鉄京都線京都行急行と宇治行普通の乗換需要もありますが、これは丹波橋での接続の悪さから伏見桃山が利用されているだけなので、丹波橋での接続改善で解決が可能で す。また、沿線に事業所も少ないことから、通勤需要も多くないといえます。鳥羽街道の最寄りに任天堂の本社がありますが、最新のデータでは、鳥羽街道自体が京阪線で乗降客の少ない駅の一つとなっています。

 実は、宇治線の三条直通廃止は、中書島−三条間の各駅停車の本数削減(1時間当たり8本→4本)を意味するのではないか、と噂されています。私は、淀−三条間の各停が代わりに運行され、この区間では現状維持になると見ていますが、本数削減の話が出てくるのは、このように街の相対的地位が低下し、利用客数が漸減傾向にあることが影響しているようです。ただ、この件については正式発表もなく、噂の域を出ていないので、ここまでにします。

 宇治線−四条の直通旅客の利便性向上を考えると、急行による直通運転がよりよいといえます。藤森対策として、丹波橋での緩急接続もよい方法でしょう。ただ、現状でもデータイムは輸送力過剰で、これ以上の列車設定は難しいので、乗換システムでの改善となったと考えられます。もっとも、中書島折返しの方が、データイムは3番ホーム限定利用である限り、宇治→大阪の利用において乗換が便利ではあります。


京阪間直通旅客の利便性低下

 途中駅に停車すれば、途中駅での乗降客が増える分、混雑が増し、快適性が低下することは確かです。実際、新快速の停車駅増加は、新快速の恒常的混雑をもたらしました。もっとも、現状でも特急はガラガラなので、停車駅が増えたことによる乗降客の増加分をカバーできるだけの座席はあるとも考えられます。

 この停車駅増加に対し、「京阪特急のイメージ低下」と捉える向きがあります。混雑が増すのがイメージ低下と捉えることは可能ですが、総合的なイメージはどうでしょうか? 京阪特急は、終戦直後、大阪で勤める方が戦災による住宅事情の悪くなった大阪から借家の多い京都に移り住んだため、京阪間直通客が多くなり、その通勤利用者の便を図るため、1950年9月に設定されたという経緯があります(*1)。ただ、1960年代以降の高度経済成長期以降、寝屋川市や枚方市、さらに宇治までが大阪のベッドタウンとなり、その区間の通勤需要が爆発的に増えたのも事実です。実際、京阪電鉄も樟葉や松井山手、六地蔵エリアの住宅開発を手がけています。

 そして、京阪利用者に占める京阪間直通旅客の割合はデータ上も低くなっています。そのために、基幹列車である急行の混雑が恒常化しました。急行の停車駅増加も混雑の原因に挙げられ、急行がますます基幹列車としての役割を任されたのも確かです。こうなると、特急の途中駅停車も早急に行って役割分担を行う必要があったと思います。それを行わなかったが故に、夕方のラッシュ時に、いくら特別料金は要らないと言われても途中駅に停まらないから乗れない特急が空席を残して通過運転をし、ひどい混雑の急行が到着するという事態が長く続くことに…このような状況で、「特急のイメージが良い」とは私は言えません。むしろ、私にとって、特急のイメージは悪かったです。しかも、京阪の運賃制度の場合、遠距離逓減が極端で、近距離となる中間駅利用者のKm当たり運賃が相対的に高くなっているので、尚更です。

 今回のダイヤ改正は、途中駅の利便性向上に加え、グレードの高い特急の利用機会が増えるという点では、特急のイメージは向上といえましょう。基幹列車である急行の混雑も緩和され、特急と急行の混雑が平準化されれば全体としてもイメージが向上すると捉えられます。

(*1)沖中忠順「淀川左岸を走る京阪電車スピード史」『関西の鉄道』(関西鉄道研究会)No.30、1994年、56頁


 話は逸れますが、特急の途中駅停車ができなかったのは、2扉転換シート車が災いしたようにも思います。京阪は関西でも混雑の激しい路線です。そのような鉄道で2扉車を運行しようとなると、停車駅を増やせないのも事実です。実際、主要駅停車形で運行させていた阪神間の鉄道や南海では、2扉転換シート車が生き残れませんでした。京阪では、ノンストップという形で何とか残したといえますが、相対的に安い運賃負担で数が少ない直通旅客のために専用車輌を用意するコストや、数が多くてKm当たり運賃負担額が大きい途中駅利用者への利便性向上を考えたときに、無理して転換シート車を残す必要があったのか、疑問もあります。実際、直通利用客の存在も無視できない京王や東急東横線は直通旅客用の特別車輌を用意していません。直通旅客向けに、本当にクオリティの高いサービスを実現する場合、特別料金を徴収するシステムの方が、途中駅利用者にとって運賃負担額の面での不公平感は軽減されますし、途中停車駅を設定しても全員着席を実現できます。小田急ロマンスカーや西武レッドアロー、近鉄や南海の特急、名鉄μの意義はここにあるのかもしれません。関西では、特急料金徴収を 行うこと自体が低い評価につながりますが、混雑が激しいところでクオリティを追求する姿勢を考えると、有料特急にもう少し高い評価をしても良いと思います。

 とはいえ、どうしても特別料金不要で特急を走らせる場合、特急以外の輸送需要をも考慮してそのバランスを考えると、20分ヘッドに通し特急1本、急行2本(うち1本の急行を快速急行として速達化の案もあり)が妥当に思います(大阪口の準急の本数はここでは割愛します)。この場合、中書島(淀)−三条間の普通も2本となります。1時間8本が6本になりますが、需要や利便性を考えると、妥当でしょう。宇治線直通を設定しても本数が増えすぎない利点もあります。

 快速急行設定については、(3)で挙げた、京都市内−枚方・寝屋川・門真・守口の利便性向上にもつながるメリットがあります。尚、理想的な特急・快速急行の停車駅については、時間の都合もあり、ここでは触れないことにします。


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