このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


今回持参の本は「夢熊野」(著者:紀和鏡)。

この人の作品は、随分前に読んだ「呪文の惑星」以来。しっかりとしたエンターテイメントながら、男性には描けない女性を描いていて面白い。いかにも女性女性した視点とかがあるわけでは無いのだが、登場人物(女性)が下す判断や言葉に、男性作家には描けないものがある。男性が描く女性登場人物が、なんだか作り物めいて見えてくるのだ。
でもそれを裏返しなのか、紀和さんの描く男性像に関して言えば、その心理的描写が奥深くまで達しない。しかしそれは作者の力量故では無く、「お互いに体験できない感性の深奥部分なんて描けないわよね」という、なんだか微笑みながらの呟きが聞こえそうな達観に思えてならない。

っと言う間の、もう夕暮れである。
「さて、宿に戻るとするか」
気づけばすっかり周囲が暗くなっている。
ライトオン。ゆっくりと浜辺を後に・・・いや、夕焼けが綺麗だな。
ちょっと写真でも撮ってゆこう。パシャ。

その夜の出来ごと。
実はここの宿の若女将はオモロイ。何がって、
「お兄ぃさまぁ〜」
何故か年上の男性客にはこう呼び掛けるのだ。まさか自分の事を呼ばれているとは、最初の夜は気づかなかった。さらに笑い声が素晴らしい。
「おーほほほほっ」
と、まさにこの平仮名で書いた通りに笑う人間を、私は初めて目にした。しかもイヤみな感じを全くさせない。ただちょっと、不安になるぐらいだ。

そして事件は起こる。

拉致られます。

「おほほほほ〜」という若女将のコメントに、苦笑と共に首を捻っていた私を、斜め向いのテーブルで鍋をつついていた美女3人組が誘ってくれたのだ。「こっちこない。ひとりで寂しそうだし」一緒にどう?って言うか、沢山あって食べきれないのよ。

知立から伊良湖岬へ、そして明日は常滑へと向かう予定のこの3名様。お子さんから「お腹減った。何か食べ物ない?」とか携帯にメールが送られてくるベテラン奥様。ちょっとだけ年上の美女に囲まれ、「あたし達もう結構食べちゃったから、食べちゃって。はい、これがポン酢で」と鍋大会の開始である。
「そろそろ結婚しなきゃダメよ」
「あら、なんだか私達、息子に世話焼いてる母親みたいになってる!」
「結婚しても男は成長しないね(あ、ウチのダンナもそうね)、女は変わるわね」
「そういえばダンナのズボン、洗濯しといたけど干してないや。ま、いいか」
「やっぱ、あなた結婚しない方がいいわよ」
私をおいてけぼりにして、結構会話が弾む。

「あらぁ、こちら様とお近づきになったのねぇ、おほほほほー。旅は、え〜っと何でしたっけ(道連れ?)おほほほほ〜」

鍋には白菜、テーブルの揚げ物にはキャベツ、そして周りは美女3人。どこか今日1日を象徴する食卓であった。
伊良湖岬の若女将の笑顔とともに、どこか摩訶不思議な夜更けてゆく。どうなるの、私、これから... (^^;。

[おしまい]

[伊良湖岬を振り返りつつ帰路に突く]


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