【金八先生考】#3 １つ見ておきたい漢字がある。 人扁ではないが「誘」という文字だ。誘拐、誘惑、誘い文句だのと、こちらもあまり良い意味に使 われることのない文字だが、良く見てみると「誘＝秀いでた言」と表現していることが分かる。 先ほどの金八先生の『人』説明をおかしいと言うよりも、偽善者（人の為に善い事をなす者）や、 誘（秀でた言＝素晴らしい言葉）の言葉の成り立ちの方がおかしい。誰しもがそう思われただろう。 しかし、ここにこそ先人の乱世を生き抜く智恵が隠されていたのだ。 たとえば思わず相手を罵ってしまったような場合でも、 「貴方は偽善者だね」 「何？この私のどこが偽善者だってんだ！？」 「ゴメンゴメン、誤解を与えたなら謝るよ。偽善者って人の為に善い事をする人って書くんだよ」 「え？そうなのか？」 「ほらね」と掌に書いてみせれば、もう安心。相手は自分の事を褒められたと勘違いすること間違 いなしである。さすがに識字率の上がった現代では使える範囲が限られるものの、見栄えの良い上 辺で本心を覆い隠す、先人の苦心がそして生きていた時代が偲ばれる。漢字の醍醐味である。 「博士、そう言われれば偽造ものを作る人たちをニンベンシって呼ぶ事があるそうですよ。ほら、 　偽造カードとか偽造パスポートの」 どこで仕入れた情報か知らんが、実験を再開した私に一文字君が言う。 それにしても、この K-807 測定機器の調子が悪い。ちくしょう、また動かなくなった。 「ところで占いってのは本当に効くのか？」 「え？唐突に何です、博士？」 「いやな。 　Ａ．人間関係に効く！占い大特集 　Ｂ．友人関係に効く！占い大特集 　Ｃ．機械関係に効く！占い大特集 　Ｄ．庭の草木関係に効く！占い大特集 　ってＡ，Ｂ，Ｃ，Ｄと順に読んだ後、逆に下からこう、 　Ｄ．庭の草木関係に効く！占い大特集 　Ｃ．機械関係に効く！占い大特集 　Ｂ．友人関係に効く！占い大特集 　Ａ．人間関係に効く！占い大特集 　と読むと、何だかいかにも人体に影響を及ぼす魔術特集みたいで、ちょっと怖くないか」 「・・・博士、何考えてるんです？」 「いや、いろいろ」 暫くして動き始めた測定機の向こう、窓の外には少しずつ秋が迫ってきていた。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　[おしまい]