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詩人 山之口貘
 1998年9月に山之口貘を顕彰する二番目の詩碑が、大宜味村喜如嘉の芭蕉布会館に完成した。昭和18年以降の作といわれている「芭蕉布」の一節が刻まれている。
 ちなみに一番目の詩碑は13年忌にあたる1975年に那覇市の与儀公園に建立された。それには「座蒲団」が刻まれている。
 貘さんは1903年那覇に生まれる。本名は山口重三郎、童名さんるー。300年も続いている名家で、父親は銀行員であった。
 中学時代は、意識的に方言を使い、方言札を集めてトイレに捨てていたという生徒だった。美術協会の会員になったり、詩にも親しんでいた。
 16歳の時、下級生に恋をし、ユタを利用して両親を説得し、婚約までしたエピソードもある。
このころ同人誌をつくり、ペンネーム山之口サムロを使っていた。また、沖縄タイムスや琉球新報にも詩を発表していた。
 父親が銀行を辞め、事業に失敗し、家族離散したといわれる。大城立裕の小説「風の御主前」に岩崎卓爾に影響を受けた人物として貘が登場するが、石垣島に行っていたのかもしれない。
 1922年に上京し、日本美術学校に入学するが、1ヶ月で辞めてしまう。翌年、関東大地震にあい、帰郷する。歌人連盟に入ったり、絵を描いたりしていたが二度目の上京をしてバガボンドになる。「生活の柄」は21歳の時の作品である。詩人のサトウハチロー、佐藤春夫、金子光晴らとの出会いと交友もある。1963年に59歳で亡くなるまで詩を作り続けた。生涯清貧の詩人であった。亡くなってからその詩はよく知られるようになった。石川啄木の歌と同様である。
 あまり知られていないが、貘さんは小説を書いたことがある。「文学時代」という雑誌の創刊記念懸賞小説に応募した記録が残っているのだ。応募小説は2293篇あり、その中から一次予選60名が選ばれた。貘さんは、60名の内の1人に入ったのだ。その題名は「盗行の投影」というのだったがどんな内容の作品か分からない。
 それから貘さんの短歌が13首残されている。1924年2月の八重山新報に発表されていた。ちょうど関東大地震の後、帰郷してヤンバルの旅に出てつくったものである。
 その中から3首あげてみよう。

  山々はむらさき色に変わりゆく 夕暮れの里はものさびしかな
 
  見にゆかん麗はしの乙女伊江島の 灯台守りてあるとききしを

  来て見ればさすが山原は歌の国 かへる日を見ず旅重ねゆく

 数年前、高田渡が、大工哲弘、石垣勝治、佐渡山豊、嘉手苅林次らのミュージシャンを巻き込んで「貘-詩人・山之口貘をうたう」という珍しいCDアルバムを作った。これがヤング層に受けた。ジャズに乗せて貘さんの詩を朗読する会も催された。
 沖縄フリークの筑紫哲也は述べる。「和歌、俳句の伝統に、意識せずとも毒されている本土風ことば使いから、この詩人は自由だ。いま読んで古さを感じさせないことばのおもしろさは多分にそこから来ているのだろう。ついでながら沖縄での『はず』の用法がかなり昔からのものであることをうかがわせる詩『頭をかかえる宇宙人』もある」。

  青みがかったまるい地球を
  眼下にとおく見おろしながら
  ・・・・・・・・・・・・・
  米屋なんです と来る筈なのだ
  ・・・・・・・・・・・・・
  配給じゃないか と出る筈なのだ
  ・・・・・・・・・・・・・
  頭をかかえるしかない筈なのだ

 生活に密着した詩が多いので、分かりやすく共感されて好まれるのであろうか。
 娘の泉さんは目に映った貘さんのことを「ひげが濃く、女装して浜千鳥を踊るのを好んだ。戦後の混乱期は街に孤児が多かった。ときに自分の弁当を分けてやった。それが『弁当』という詩になった。変人、奇人といわれることがあった。幼いころ、そういわれるのも無理はないと感じていた。今は違う。自分の詩をとても大切にしていた。紙と時間を無駄にしても推敲を重ねる人だった」といっている。

 個人的には、「がじまるの木」が好きだ。

  ぼくの生まれは琉球なのだが
  そこには亜熱帯や熱帯の
  いろんな植物が住んでいるのだ
  がじまるの木もそのひとつで
  年をとるほどながながと
  気根を垂れている木なのだ
  暴風なんぞにはつよい木なのだが
  気だてのやさしさはまた格別で
  木のぼりあそびにくるこどもらの
  するがままに
  身をまかせたりして
  孫の守りでもしているような
  隠居みたいな風情の木だ

 貘さんの墓は千葉県松戸市にある。

        参考資料:「琉書探究」:仲程昌徳、新泉社 「山之口貘詩集」:思潮社
Copyright ryukyunesia 2001

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