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| | | | | やんばるの森 |
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| | 沖縄本島の北部に深い緑につつまれた亜熱帯の森が広がっている。これが「やんばるの森」である。
古く(恩納ナビの時代)は恩納村あたりも「やんばる(山原)」と呼ばれていたが、戦後、開発が進み、今では国頭村、東村、大宜味村がやんばると呼ばれるようだ。
やんばるの森の総面積は340K㎡、平均気温22度、年間降雨量3000ミリ、熱帯から温帯までの多くの生物が棲息している。動物で3700種、植物で1200種を超えているといわれる。生きた化石と呼ばれる生物や大陸奥地の近縁生物が棲んでいるので奇跡の森とも呼ばれる。
緑深い山が幾重にもつながるやんばるの森。そこには、20メートルの高さまで生長する気根を垂れるガジュマル、ウロコ模様の幹のヒカゲヘゴが茂り、妖精キジムナーが棲むといわれ、まるで原始の森のようだ。そのなかで目立つのはスダジイ(イタジイ)、オキナワウラジロガシなどの照葉樹であり、スダジイは25メートルの高さまで生長し、うっそうと茂り、森の乾燥を防いでいる。苔に覆われた地面は、大量の水を蓄え、その水は沢をくだり、森全体を潤している。温暖な気候、豊かな水の恵み、複雑な地形が変化に富んだやんばるの森をつくっているのだ。 |
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| | | 一月
春の兆しを見せる1月。やんばるの森はカンヒザクラが開花し、薄紅色の花が山裾を彩る。最低気温は5度を下らず、山肌は、冬も深い緑に覆われている。
活発に動く生き物がいる。闇に包まれるころ、沢筋から大きな鳴き声がきこえる。イシカワガエルやハナサキガエルなどのカエルが繁殖期を迎えているのだ。その鳴き声は、オスがメスを呼ぶ鳴き声である。
ハナサキガエルは、やんばる固有種である。森に暮らしているが、年に一度、沢筋に集まり、オスが小鳥のような鳴き声でメスを呼んでいる。この時期になると、カエルの天敵ヒメハブがトグロを巻いてカエルを待ち伏せしている。
三月
3月になると森は一変する。芽吹きの季節を迎え、濃い森がいくつもの色に染まっていく。スダジイの黄色い若葉、イジュの赤い新芽、タブの赤い若葉、シロダモの若葉など。様々な木々が茂るやんばるの森は、自然の豊かさを物語っている。
やがて森は栗の花に似た香りに包まれる。スダジイの花が咲き、虫が寄ってくる。幹にも地衣類を食べるヤンバルヤマナメクジやカタツムリなどの生き物がうごめく。
本島と周辺の島のみに棲むホントウアカヒゲが崖の中腹の窪みに巣をつくる。背中のほうは赤いが、オスは顔から胸にかけて黒いのでアカヒゲと呼ばれているようだ。面白い習性がある。ヒナが親鳥からエサをもらうと、ヒナは親鳥に尻を向けて白い花びらのような糞を渡すのだ。それを親鳥は嘴にくわえて、沢まで捨てに行くのだ。これは、天敵の蛇に鳥の匂いをさとられないようにするための知恵のようだ。
現在も謎の多いやんばるの森である。1981年に、ヤンバルクイナが発見された。夜明けに鋭い声を発し、飛べない鳥で胸が縞模様になっており、成長すると嘴が赤く変わる。その2年後の1983年にはヤンバルテナガコガネが発見された。日本最大のコガネムシでオスの前足は8センチにもなる。
不思議な鳥がスダジイの大木にいる。1888年(明治20年)に発見されたキツツキの仲間であるノグチゲラ。原始的なキツツキの特徴をもつ生きた化石とよばれる鳥である。名称は、野口氏が捕らえたことに由来している。スダジイの古木の幹に穴をあけ、木クズを取り出して巣作りをする。谷沿いの斜面にあって、朽ちかけた大木の傾いた幹の下側に、オスとメスが交替で仲良く、1ヶ月もかけて巣をつくる。
枯葉が積もる地面にも、変わった生き物がいる。水辺を離れたリュウキュウヤマガメである。沖縄方言ではヤンバルガーミーと呼ばれる。ミミズなどを餌にし、本島、久米島、渡名喜島だけに棲んでいる。その近種が中国南部、ベトナム、マレーシアに棲んでいるという。
他に変わった生き物としてイボイモリがいる。両生類と爬虫類の双方の特徴をもっている。背中に盛り上がった肋骨が見える。近種が中国南部、ヒマラヤ奥地に棲んでいる。
こうした分布の要因は、琉球列島誕生の歴史にあるようだ。島は、大陸島と海島に分類される。古くは大陸の一部だった島を大陸島といい、一度も大陸につながったことのない島を海島という。琉球列島は、大東島諸島を除き、すべて大陸島である。琉球列島が大陸の一部だった頃、リュウキュウヤマガメやイボイモリなどが渡ってきて、大陸と離れて取り残され、独自の進化をしてきたのであろう。
五月
ゴールデンウイークが終わる頃、梅雨入りとなる。森は装いを変える。イジュの白い花が、一斉に開花する。山肌は、ブロッコリーような模様を見せる。甘い花の香りに包まれ、谷間の小さな池のまわりでイボイモリが生まれる。ノグチゲラも巣作りから2ヶ月、ヒナがかえり、親鳥は、エサを運ぶのに忙しくなる。
やんばるには5つのダムが建設され、広い面積の森が沈んだ。今もダムは建設中である。林道も整備され、森は分断され、乾燥させられている。また希少生物が道に出てきて、事故に遭遇しているのも数多い。森の全伐採による植林・農地化、下生え伐採などにもより、森は乾燥し、赤土汚染の発生源にもなっている。今後、エコツアーが盛んになるようだから、森の破壊をしないようなルールづくりも早急にされなければならない。
肉食動物のマングースや野猫が問題になっている。マングースは90年前に、ハブやネズミを駆除するために野に放たれた。今では、やんばるの森にも出現し、ヤンバルクイナを捕食している。捨てられた野猫も、ヤンバルクイナやオキナワトゲネズミ、ホントウアカヒゲなどを捕食している。これらの希少生物は、長い間、天敵なしで暮らしてきたから逃げる術をしらないのだ。
六月
森は夏の装い。スダジイの古木からノグチゲラは巣立つ。
やんばるの森の生き物たちは、長い間、森に守られて種を保存し進化してきたのだ。森がなくなれば、それらの固有の生き物は滅んでしまうだろう。
参考資料:
「沖縄やんばる〜生命輝く原始の森〜」:NHK総合テレビ、2000年12月放映
「やんばるの森〜輝く沖縄のいきものたち〜」:日本野鳥の会やんばる支部編、東洋館出版社
「沖縄やんばるの森」:伊藤嘉昭、岩波書店 |
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