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まごころツアー12

2000(平成12)年7月27日(木)

まごころ旅行記12

担当 後田紘一


はじめに
 福岡市には、既に「空港線」「箱崎線」という2線の地下鉄が運行されています。「空港線」は福岡空港から博多駅、中洲川端、天神、西新、姪浜へと走り、その先は西唐津まで、JR筑肥線に乗り入れています。「箱崎線」は西鉄宮地岳線と接続する貝塚から、大学・官公庁が建ち並ぶ箱崎地区を通過し、中洲川端で空港線に接する路線です。どちらの路線も、市内での迅速な移動や、空港アクセス、通勤・通学など多岐に渡って利用されています。
 今回私達が見学した「地下鉄3号線」というのは、宅地開発が進んだにもかかわらず交通事情の悪い福岡市西南部地区から市中心部へのルートを確立すべく、平成17年度の完成を目指して工事が進んでいるものです。福岡市西南部地区から市中心部へのアクセスは、今のところ自家用車かバスに頼るほかなく、道路事情もさほど良くないために、朝や夕方には幹線道路で広域に渡り、慢性的な交通渋滞が発生しているのです。
 「3号線」のルート・駅名(仮称)を簡単に紹介すると、福岡市西区の橋本から、「外環状線」沿いに次郎丸賀茂野芥(のけ)梅林、ここでカーブして福大前七隈金山茶山別府(べふ)六本松、ここから城南線沿いに桜坂薬院西薬院渡辺通、そして渡辺通を北上し、天神に至る、12km、16駅の路線です。車両基地は橋本に地上式のものが設置されます。輸送需要に合わせ、「ミニ地下鉄」方式で、軌間1,435mm、直流1500Vで鉄輪式リニアモーター駆動の車両が走ることになっています。将来的には、天神からさらに博多ふ頭・中央ふ頭などウォーターフロント地区、また薬院から分岐して博多駅方面へ延伸する計画もあります。西南部地区から都心へのアクセスが格段に良くなることが期待されています。


旅行(?)記
 7月27日午後、我々模型同好会の有志+αは、六本松に集結していた。参加メンバーは、OBの北方さん、3年生のさん、2年生の岸原近藤後田、1年生の中野、そして既に入会が内定している附属中学3年生の門司の7名である。顧問の大塚先生は先回りをして、関係者の方と話をしに行っていた。そもそも今回の企画、「地下鉄の工事現場を見学する」などという、普通に考えたら突拍子もない内容である。なぜこのような企画が実現したかというと、大塚先生がさるスジを通じて、六本松付近の工事を担当しているJV(共同企業体)の所長氏と知り合いになり、「実は…」という話から、とんとん拍子に見学が実現したものらしい。やはり、大塚先生さまさまである。
JV六本松工事事務所にて
JV六本松工事事務所にて。地下鉄の工事現場が見学できるとあって、本同好会の鉄系大集合です。
 大塚先生と合流し、「さるスジ」の方々とも合流した我々は、樋井川沿いのビルの中にある、「福岡市高速鉄道3号線六本松工事事務所」に入った。各種機器や図面が並ぶ事務所の一隅に長テーブルが置かれ、その上にパンフレットとヘルメットなどが並べられていた。正面には平面図や断面図など、この付近の工事内容の図面が貼られていた。まず、所長である菰田さんと副所長の  さんから、説明を受けた。福岡市が製作したVTRを見せていただき、それからパンフレットと図面を前に、細かな説明をしていただいた。
 地下鉄3号線の概要・建設目的は上にも書いた通りである。当初は平成18年度開業予定だったそうだが、前倒しで平成17年度中には開業する予定、とのことであった。全長12kmの工事区間を20工区に分けて工事を行っているそうで、我々の行った場所はそのうちの「六本松工区」である。六本松工区の全長は896.5m、「六本松駅」を中心とした前後の区間である。地上でいうと、別府大橋の西詰(「別府駅」の東端にあたる)から樋井川をくぐり、城南線に入ってすぐの美容室の前ぐらいまでがこの区間にあたる。
 3号線で使われている工法は、大きく分けると「トンネル工法」と「開削工法」の2つがある。「トンネル工法」には2種類あって、土砂部を地中から機械で掘り進んでいく「シールド工法」、そして主に岩盤部を地中からくりぬいていく「山岳トンネル(ナトム)工法」がある。「開削工法」は、主に駅部で行われ、地表ら地面を掘り下げ、鉄板でフタをしておいて中の工事をするものである。基本的に、鉄板が敷いてある区間がこの「開削工法」なのだそうだ。六本松工区の場合、別府大橋西詰から六本松駅西端までの606.5mが「シールド工法(単線並列シールド)」、六本松駅部の221.6mが「開削工法」、六本松駅東端から工区の終点までの68.4mが「ナトム工法」の区間となっている。このうち工事が行われているのは駅部の「開削工法」の部分だけで、ナトム部は今年の11月、シールド部は来年3月から掘進を開始する予定だそうだ。
 そのほか六本松工区の特徴として、樋井川・別府大橋の下をくぐることが挙げられる。別府橋と別府大橋という連続した橋脚の基礎くいが地下深くまで打ちこんであるため、さらにその下を掘らなくてはならない。そのため別府大橋の下の区間は圧力に強いシールド工法が採用され、しかも3.6%という3号線で最も急な勾配のある区間となったそうである。地表が丘になっていて、アップダウンが激しそうな桜坂付近より、さらにきつい勾配が設置される、ということであった。
 このような説明を受けた後、実際に現場に行くことになった。「JV」と記されたワインレッドのヘルメットをかぶり、軍手をはめて九大教養部前の「入坑口」まで歩く。通過するバスの車内から好奇の視線が集まっていたことは言うまでもない。天候は薄曇り、風が吹いていてさほど暑い日ではなかった。カラーコーンとポールで歩道と区切られた工事域の中に入ると、地下が望める格子状の鉄板があった。そこから足元を覗き込むと、かなり深いところまで掘り下げられていることがわかる。思わず足がすくんでしまった。…いよいよ、入坑である。

 比較的急な階段を下ると、そこは地中である(当然だが)。数十cmの鉄板を隔てて、地上とは全く様相を異にする世界であった。「ゴールドパーク串木野」か、はたまた鍾乳洞の内部か、という感覚だ。地上からはとても想像できない。壁面は「土留め壁」と呼ばれる、土とコンクリートを混ぜたソイルモルタルで覆われ、そこに垂直にさし込まれた鋼材が見え隠れしている。目の前に広がる光景は、縦横無尽に走る鋼材と要所に設置された照明の連続で、ビルの建築現場にも似ていた。内部は思いのほか広く、また明るかった。説明を受けながら、徐々に階段を下って行く。最下部が地表から12〜3mの深さというから、ビル4階分の深さがあるわけだ。およそ10mほど降り、きちんと通路になっている足場(「安全通路」と書かれていた。)に沿って構内を一巡する。何より凄かったのは、騒音であった。それも、工事の騒音ではない。地上の「鉄板」の上を通るバスや自動車の通過音がものすごいのである。地下鉄が進入してくる時の音の2、3倍はあろうかという騒音が構内中に響き渡っていた。
magokoro12-02.jpg
ここが「入坑口」。この先には我々の想像を絶する世界が広がっていた。
 六本松工区はまだ「開削工法」の部分しか着手していない。従って、構内は駅部分のみである。「開削工法」の手順をもう少し詳しく説明すると、沿道調査に始まり、試掘、鋼杭打設、土留壁設置、路面覆設置、埋設物防護、掘削、トンネル部構築、埋め戻し、埋設物復旧、路面覆撤去、路面復旧…という順序である。調査して、杭を打ち、土留め壁・路面の「鉄板」を設置した後土砂を掘削、掘削が済むとコンクリートを注入して駅部の箱型トンネル、コンコース部などを構築し、埋め戻す…。という手順になるわけである。この時の進捗状況は、「トンネル部構築」に入ったところであった。鉄筋が並べられ、コンクリートが打ちこまれて、「地下鉄駅」の形をなし始めた、という感じだ。「あの部分が島式ホーム」「あの部分が線路部」と説明されると、将来の姿を思い浮かべて、非常に感慨深いものがあった。また、六本松駅には南側に待避線が設置されるらしく、そのため構内が広くなっている、ということだった。
現場の様子現場の様子現場の様子
これが地下鉄工事現場だ。鋼材に囲まれた光景は、ビルの工事現場をすっぽりと地下に埋め込んだという印象だ。
 よく見ると、底部の工事中の部分に水が溜まっている。これは先日の雨が流入したもので、まだ本格的なポンプ設備が完成していないために排水が間に合っていない、ということであった。トンネル工事、特に地下鉄工事は水との戦いなのだそうだ。今のところトンネル底部のコンクリートを設置している状態だが、今後、トンネルの側壁、そして上部…と、内部で足場を組みながら工事が進むということであった。頭上、地表近くを見上げると、NTTの電話線や九州電力の送電ケーブル、また水道管などが「吊って」あった。ガス管はさすがに危険なので、あらかじめ工区の「外」に出しているそうだ。この辺の手間は開削工法ならではのもので、先に挙げた工法のうち、開削工法が最も時間がかかるそうである。
 構内を一巡すると、再びもとの階段から地上に出た。先ほどから思っていたのだが、構内は非常に「暑い」のであった。夏だから気温が高いのは当然だが、いくつか空気採りの穴があるとは言えほとんど密閉された空間、その中で照明の発する熱と溜まった水による湿度、そしてあの騒音が…。あの中で作業をされている方々には、本当に頭が下がる思いである。地上に出たときに外が「涼し」かったのが印象的であった。どんよりと曇った空からは雨粒が落ち始めており、また水との闘いが熾烈を極めるのだな……そう思った。地底人?いえ、大塚先生です
地底人?いえ、大塚先生です
六本松交差点
六本松交差点。この地下にあの現場があるのである。
 工事事務所に戻り、冷たい飲み物をいただいた。(実は、先ほどもお茶をいただいていたのである。)ヘルメットを置き、あれこれと質問をする。掘った土はどうするのか、とか、文化遺産が埋まっていたらどうなるのか、などなど。所長さんは昔「市営1号線」(今の「空港線」)を、副所長さんは東京の地下鉄を経験されているそうで、どの質問にも丁寧に、詳しく答えて下さった。我々にとって、大変にためになるお話だった。「興味のある方は、ぜひ土木屋になってください」そんな所長さんの言葉に、気持ちを新たにした我々であった。

 工事事務所を後にして、再び六本松の道路を歩く。この下にあれだけの空間がある…いささか信じられない思いである。少なくとも、将来地下鉄が完成したあとでは絶対に想像できない世界である。しかし我々は、地下鉄に乗るたびに思い出さずにはいられないだろう、そう思った。
 最後になりましたが、我々を快く受け入れてくださった所長の菰田さんはじめ工事事務所の皆さんにこの場をお借りしてお礼を申し上げます。ありがとうございました。
参考資料:福岡市交通局発行 パンフレット「地下鉄3号線」
福岡市高速鉄道3号線六本松工区概略図
他、新聞記事など


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