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「ねぇ大輔・・・。私って、そんなに可愛くないのかな?」
学校帰り。2人きりになった直後、不意に恋が言い始めた。
「素直じゃないっていうのは・・・悔しいけど、この際認めるわ。
でも、大輔に私だけを見ていて欲しいって願うのは、そんなに我が侭なのかな?」
約20Cmの身長差もあるが、上目使いで真剣に言う恋を前にした大輔。
普段の恋をからかう調子は全くなかった。
恋のその話し方から余裕は感じられず、本心からの告白なのだと大輔は感じ取った。

「そりゃ大輔がもてるのは、彼女としては決して嫌なことじゃないわよ。
こんなに可愛い恋ちゃんと付き合うには、そのくらいの人とじゃないと釣り合わないしね。
でも、大輔があんまり誰にでも優しいから、私が心配になっちゃうことにも気付いて欲しいの」
そう言って大輔の顔を見てから、恋は言葉を続けた。
「ううん。そんなの無理よね。
今迄だって、一度もそんなこと話したことなかったし、鈍感な大輔に分かるはず無いよね。
でもね、いくら平気そうな妹役を演じているとはいえ、やっぱり気が気じゃ無くなる時があるの」
そう言う恋の表情は、どんどん暗くなっていった。
大輔にはかける言葉が見付からず、恋の次の言葉を待つだけだった。
しかし恋はなかなか口を開こうとはしなかった。
大輔はその姿に、恋は何かを言いよどんでいるようにも感じられた。

実際2分もない空白だったが、それは大輔には5分にも10分にも感じられた。
そして、ゆっくりと恋は話し始めた。
「大輔が橘先輩や篠宮先生とは昔からの仲とはいえ、やっぱり一緒にいると心配・・・。
私が横にいながら楽しそうな大輔の笑顔を見ていると、どうしてだか苦しくなるの。
大輔を信頼していない訳じゃないよ。でも、心が苦しいの。
藍がそんな事をするなんて絶対思っていないけど、でも大輔があんまりにも優しいから・・・。
駄目だよね。こんなんじゃ親友失格だよね」
最後の言葉を力無く笑いながら言う恋の瞳には、薄く涙が光っていた。
大輔には何気ない日常のつもりが、いつも隣にいる恋には心休まらない日々だった。
そんな事実に大輔はショックを感じずにはいられなかった。
恋のことをあたりまえのように、いつも隣にいるものとしていた。
恋のことを誰よりも愛しているのに、そのことをちっとも形や態度にしてこなかった。
いつだったか藍に笑顔で言われた『お兄様も、意外と素直じゃありませんわね』の言葉。
そのことを今、大輔は痛感していた。

「あははっ、大輔も幻滅した? 可愛い妹の正体が、こんな嫉妬深い女の子だったなんて。
私自身、自分がこんなに嫉妬深かったなんてびっくりしてるくらいよ」
涙を隠すように、自嘲気味に言い放った言葉が大輔を貫いた。
「でも・・・、もう駄目。妹なんかじゃいられないの。
みんなに冷たくしろなんて言っていないけど、でも私は大輔の一番でいたいの。
誰にでも優しい大輔でいて欲しいけど。お願い・・・私を忘れないで・・・!?」
そんな恋の言葉を止めるべく、大輔は恋の唇を強引に奪った。
直後は体を強張らせた恋だが、すぐに力は抜けて表情も和らいだ。
大輔に体重を預けて、腕をそっとまわし、いつしかその腕には力も込められていた。
もう恋の瞳から、溢れる涙は止まらなかった。

「ひどいよ・・・。ずるいよ、こんな時だけ強引になるなんて。
こんなに優しくされたんじゃ・・・私。耐えられる訳無いじゃない・・・」
そう言いながらも嬉しそうな表情の恋は、大輔の口にそっと人差し指を当てた。
「何を言っても駄目よ。もう、一生許してあげないんだから」
そうしてもう一度、道端であることを気にせずに抱き合った。



九品仏大志のカメラ狂室「入門編」
〜間奏〜



「と、言う感じで描こうと思うんだが、瑞希はどう思う?」
和樹は冬こみに向けた新刊のあらすじを説明し、プロットを瑞希に手渡しながら言った。
瑞希は受け取ったプロットを見ながら、和樹が次回は『Canvas』の二次創作をやることを理解した。
「へぇ。今度は『Canvas』で描くんだ。オリジナルじゃないのね」
「まぁ久しぶりに二次創作でも良いかな? ってことさ。このネタで描きたくなったからな」
「で、これは全年齢対象なの? それとも・・・」
「その辺を決め兼ねているんだが。実際・・・」
和樹の表情を読み取った瑞希は、その辺りの決定権が意外と自分にあるのでは? と考えて読み始めた。
瑞希がプロットに目を通している間、和樹は椅子の上で腕を伸ばしてストレッチをしていた。
何にもまして、瑞希の感想や意見を聞きたかったからだ。
和樹にとってゲームや漫画にそれほど詳しくない瑞希の評価は、ストレートかつシンプルな物だったので、大志の意見と同じくらい重要視していたのだった。

街の陽も暮れて、外が薄暗くなってきた頃。
和樹は窓から入る空気が少し冷たくなってきたと思い、腕を伸ばして机の前の窓を軽く閉めた。
そして新刊の表紙のスケッチを始めて3分が過ぎた頃。
プルルルルルル・・・。
部屋の電話が鳴り出したので、和樹は子機を手に取った。
『愛しのマィハニーよ。冬の原稿の・・・』
ガチャッ! 和樹は素早く受話器をオフにした。
その様子を見た瑞希は心配そうな表情で和樹の表情をうかがった。
プルルルルルル・・・。
今度は和樹の携帯電話に着信が入った。
ディスプレイの発信者名を見た和樹は呆れたような表情をして、通話ボタンを押すなり話し始めた。
「悪いが、今原稿で立て込んでいるから、後にしてくれ」
これだけ言って、返事を待たずに電話を切ったその時。
「そうはいかんざき!」
突然和樹の机の前の窓がバン!と音を立てて開き、そこから大志が乗り込んで来た。
あまりの突然の事態・・・のはずだが、和樹も瑞希も特に驚く様子もなく作業を続け始めた。
「むぅ。確かにお取り込み中と見た。しかし、いくらなんでもその反応は冷たいと思わんかね?」
部屋の様子と2人の反応を見取った大志の発言だった。
「お前なぁ、参院選が終わってから何ヵ月経ったと思っているんだ?
CMネタは風化が早いから止めておけって言ってたのはお前だぞ。
ついでを言うなら、俺の部屋にはちゃんと玄関があるからそっちから入って来い」
正面から正論を言われた大志は少し考える仕草をした。
「ならば仕方が無い」
そう言って上半身を窓から引っ込めた大志は、風切音をたてて即座に玄関に回って戸を叩いた。
「開門〜! 開門〜!」
「あの男は・・・」
折角の2人だけの時間を台無しにされた瑞希は、見るからにご機嫌斜めであった。


「さて、今日ここに来たのは決して遊びに来た訳ではない。そのことは我輩の目を見れば判るだろう」
部屋のど真ん中に座り込んだ大志は両手を大きく広げて話し出したが、2人の反応は冷たかった。
「どうせ何か厄介事だろうさ」
「いつものことよ・・・」
そして2人は作業に戻ろうとした。
「仕方がない、本題から入るとしよう。
明後日の日曜午前10時、駅前は大学側の改札口付近にて集合すること」
「「日曜日!?」」
「うむ。玲子君には連絡してあるのだが。つまりだ、一眼レフカメラの使い勝手をレクチャーしようと思う。
言わば私服撮影会と言ったところだな。
大学内を撮影会上に見立て、玲子君のカメラ選びの参考とまぃ同志の基本確認を行おうというものだ」
この唐突な提案に和樹と瑞希は互いの顔を見合わせた。
「何でまた明後日に?」
「玲子君が冬コミまでにカメラを買いたいと言うのが最大の理由。
まぃ同志はこの機会を利用してまぃしすたぁに表紙の構図やポーズのモデルになって貰うのも手であろう」
「うっ! 痛い所を突いてきたな」
和樹は如何にも図星といった表情だった。
「先程のラフは表紙の為だったのであろう?」
大志は自信満々の表情で勝ち誇った。
「まぁな。でもそれだったら今、瑞希にデッサンモデルになってもらうのも良いんだが・・・長時間同じポーズは疲れるよな」
「私は別に構わないけども」
プロットをテーブルの上に置きながら瑞希が答えた。
和樹は表紙用のラフを日曜日を使って考えようと思っていたし、瑞希は瑞希で特に用事もなかった。
2人とも断る理由がなかったし、それならと瑞希には一つ考えが浮かんでいた。
「それにだ。もう玲子ちゃんには話がついているんだろ? だったらやるしかないんだろうな」
和樹は四の五の考えるのを止めて、椅子の背もたれに寄りかかりながら溜め息をついた。
「それでこそまぃ同志と言うものだ! お前がこの企画を蹴る理由など一つも存在しないのだからな。
ところでお茶の一つでも貰えんかね? 確かそこの戸棚の下にお茶っ葉が常備されていたはずだが」
勝ち誇った大志は大きな態度に出た。
「そこまで知っているなら自分で煎れればいいでしょうが。
まったく・・・。ねぇ和樹、このポットのお湯はいつ沸かしたの?」
「瑞希が来る30分位前だから、問題無いだろう」
「うん。和樹も飲むでしょ?」
「ああ」
そうして瑞希は番茶を煎れ始めた。


「ねぇ、和樹。『Canvas』の原画集とかファンブックって無い?」
プロットに目を通した瑞希は、感想を言う前にこう切り出した。
「ふっ。まぃ同志の助けになろうと我輩が持参しているが。『Canvas』に興味を持ったのかね?」
大志は鞄の中から2冊の本を取り出し、訳知り顔で瑞希の前に差し出した。
「まぁ、そんなところよ」
「なぁ、瑞希。今度の話はどうだったかな?」
瑞希にしては珍しく読み終わってからすぐに感想を聞かせなかったので、和樹は自分から聞いてみることにした。
「あっ、うん。ちょっと切なくて、でもラブラブなストーリーだけど、私には少し痛いかな」
瑞希は少し俯くようにして感想を言った。
「う〜ん、そうか。もう少し考え直してみるか」
「ストーリーはそのままで良いと思うよ。嘘はついていないからね」
少し考えるような表情を見せた和樹を見て、あわてて瑞希はフォローを入れた。
「ねぇ、大志。この2冊を日曜日まで借りても良いかな?」
「別に問題はないが。なんだったらゲームも持って行くかね? この通り、初版物だ」
瑞希が積極的なのを見て大志はPCソフトを鞄から取り出した。
「あ、ありがとう」
「何、礼には及ばん。まぃしすたぁがまぃ同志の助けになってくれるというのならば。
この九品仏大志。喜んで協力しようではぬわぃか!」
そう言って立ち上がりながら叫ぶ姿に、2人は溜め息をついた。
そして瑞希は腕時計を見、納得した表情で大志から借りた物をリュックに詰めた。
「それじゃあ私は今日はこの辺で帰るわ。後は2人で仲良くしてなさい」
「日曜日は10時に大学側の改札口であるぞ」
「べ〜っだ!」
玄関から外に出る際に、瑞希は大志の言葉をあっかんべぇで返し、和樹に手を振った。
「それじゃ和樹。あんまり根を詰めちゃ駄目よ。ばいばい」
ガチャッとドアが閉まった時、大志のヘッドロッキングが和樹に決まった。
「ふむ、この色男め! 皆まで言わなくとも我輩にはお見通しである」
「いてててて。何がだよ、こら大志」
「新刊のプロットのことである。きっと無意識の内に滲み出たのであろうな」
大志は和樹を開放して、先程まで瑞希が読んでいたプロットを手に取った。
和樹は首を回して関節をほぐし、自分の机に向かってラフスケッチの続きを始めた。
一方その頃瑞希は家には向かわず、駅前商店街の方へ歩きながら電話をしていた。
「あっ、もしもし。瑞希です。あのね、在庫についてちょっと聞きたいんだけれども・・・」



一つの物語が読み手を感化することがある。
一つの物語に気付かされることもある。
作り込まれた物語も、即興的に作られた物語でも。
何かがある時、その物語は大きな影響力を持つ。
その影響がきっかけに過ぎないとも知らずに。

『次回 九品仏大志のカメラ狂室「入門編」〜第三幕〜きっと分かり合える』

和樹「今回って、一体何だったんだ? 第三幕じゃなかったのか?」
由宇「あまりに長くなりそうやったから、間奏みたいにしたんやて」
和樹「って、やっぱり続くのか?」
由宇「らしいで。ちゃんとまとまるかどうかが見物やな」



〜あとがきらしきもの〜




どうにも構成的に分割した方が読みやすくなるのでは?
と思いましたので、第三幕に行く前に導入部を設けさせてもらいました。
まぁ、近頃更新のすっかり滞っている先生のサイトの為にも、分割されたという噂も。
「近頃夜が弱いの〜」
それはまぁ認めますが。
その割には閉店間際の馬●道へ向かったり、我が家を襲撃したりと、動くには動いていますよね。
「大丈夫な時もあるの〜」
そんな時こそ更新しておくべきでしょう?
「最近デスクトップがちゃんと立ち上がらないの〜。一度再構築しないとなの〜」
それこそ早く片づけて下さいよ。順番が狂ってますよ。
「ほら、この話。狂室だから」
全然洒落になってませんって。
「時間なの〜。寝るの〜」
あぁ〜。またそうやって逃げる!
(バタッ)
せめて頼まれているリンクの張り替えくらいはやりましょうよ。
「あ、それはもうアップしてあるの〜」
はぁ、しっかりお願いしますよ。
(Zzzz・・・)

では、また機会がありましたらお目にかかることが・・・あるかも知れません。
そうなったら良いなって思う方、手を挙げて下さいね。

October 21 2001. 初版完成
November 20 2001. 完成版送付
November 26 2001. 暫定的公開
December 21 2001. 劇中劇追加



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