このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



act.1 〜a bedside〜






何度この地図を見たんだろう。ましてガイドブックを読み返した回数なんて、覚えていない。

それでも、どうしてもまた読み出してしまいます。

むしろ読み返すと、さっきは気付かなかった囲み記事や、欄外の一口メモを見付けてしまいます。

浮かれていた私が見落としていた、ということなのかな?

それでもやっぱり、明日の「遊園地へカップルでデート」という現実に浮かれている自分がいます。

遠足を待つ子供みたいに、寝付けない私がいます。

なんだか大人気ない気もします。

でも、やっぱり嬉しいことだから。

ベットの上でギュッとガイドブックを抱きしめてしまう自分が、微笑ましいとすら思えます。

これって、末期症状ですか?




コンコンと、ドアがノックされました。

こんな時間に? お姉ちゃん、だよね?

『栞・・・。まだ起きてるの? 入るわよ』

ちょっ・・・とりあえず、ガイドブックは枕の下にでも。

でも隠す必要って、あるのかな?




「何読んでたの、栞。こんな時間まで」

パジャマに着替えていたお姉ちゃんは、後ろ手にドアを閉めました。

「おっ、お姉ちゃんこそ。まだ起きてていいの? もう1時だよ」

お姉ちゃん、ノックしてからが速いよ。

もうとっくに寝ちゃったと思っていたんだけれども。

「何・・・ガイドブック? ふ〜ん。明日相沢君と行く所のね」

私のベッドに近づく前に、こう言い切ったお姉ちゃん。

「なっ! 何でわかるの?」

あの一瞬で見えたの?

別に隠すようなことじゃないけれど、図星だったから驚いちゃった。

「経験ね。夕食後に栞がお弁当の下ごしらえをした」

「う・・・うん」

「お風呂も早めに済ませた。たぶん明日の為に早く寝ようとしてのことね」

そう言いながらお姉ちゃんは私のベットに腰掛けて、話を続けました。

「12時を回っても部屋の電気が灯いたまま。耳を澄ませば何かゴソゴソと布団の上で転がるような音。

きっと寝付けなくて本でも読んで、でも集中できていないってことよね」

どうして見ていたかのように言えるの?

「もしかしてお姉ちゃん、ストーカー?」



ゴンッ!!



「一体何年栞の姉をやっていると思っているの?」

星が3つくらい頭から飛んだよ。ちょっとまだクラクラするよ、お姉ちゃん。

「痛いよお姉ちゃん。そんなことするなんて、酷いよ」

「明日の栞の体を案じて、早く寝るように言いに来たんだけれども」

お姉ちゃんは少し呆れたような顔をして、肩を落としました。

「そんなことより、朝寝坊しても知らないわよ。お弁当が間に合わなくなっても知らないからね」

「大丈夫だよ。いざって時はお姉ちゃんが手伝ってくれるから」

「もう一回、欲しいのかしら?」

もう右手には握りこぶしができているよ、お姉ちゃん。

「遠慮しておきます。そんなお姉ちゃんなんか嫌いだよ・・・」

プイッと、お姉ちゃんから顔を逸らしてみました。

「聞き分けが良い栞には、優しい姉よ。明日が楽しいのは分かるけど、もう寝なさい」

「は〜い」

「それとお弁当の用意だけども。本当に時間が間に合わなくて、なおかつ私が起きていたなら、考えてもいいわ」

「本当?」

「相沢君へのお弁当の殆どを、私が作ることのないようにね」

こう言ってウィンクするお姉ちゃん。しっかり釘は刺されました。

でも、最後は助けてくれるところって、やっぱりお姉ちゃんだよね。




「さぁ、もう寝なさい。大学生にもなって、姉に寝かしつけられるのは恥ずかしくないの?」

「恋する乙女は、いくつになってもドキドキなんですよ」

「はいはい。お医者様でも草津の湯でも治せないというのは、本当のようね」

それこそドラマでしか見られないような「あついあつい」という仕草をしながらのお姉ちゃん。

お姉ちゃんも、誰かに恋したらもう少し優しくなれると思うんだけれどもなぁ。

意外とお姉ちゃんって独占欲が強いから、私なんか目に入らなくなるかも。

「何かよからぬことを考えているみたいだけれども。まぁいいわ、お休み栞」

私の髪を撫でながら言ったお姉ちゃんは、ベットから立ち上がり、ドアへと向かう。

「お休みなさい、お姉ちゃん」

「お休み、栞」

私が返事をしたのを確認してから、お姉ちゃんは部屋の電気を消してドアを閉めました。




「ふふっ。だんだん相沢君に似てきたわね、あの子」

ドアが閉まってから聞こえてきた、お姉ちゃんが漏らした言葉。

そんなに私と祐一さんって、似ているのかなぁ?

確かに付き合いだしてからもう3年になるけれども、そんなものなのかなぁ?

『ガチッ』と、お姉ちゃんの部屋のドアが閉まる音が聞こえました。

「お休みなさい、お姉ちゃん」




しばらくすると、なんだか少し眠たくなってきました。

はしゃいだり、お姉ちゃんと話したりした所為?

げんこつはちょっと痛かったけど、でもお姉ちゃんのおかげだよね。

「ありがとう、お姉ちゃん」

万が一朝寝坊していたら、叩き起こして泣きついちゃうかもしれないけれども。

お休みなさい、お姉ちゃん。きっと明日は楽しくなるよね・・・。




あとがき

とりあえず3月1日は、美坂香里さんの誕生日おめでとうございますということで。
えっ、違いますか!? 間違いはないなずですが。

それはさておき。本作はオフラインで発表した、KanonのSS「G線上のアリス 1」のサイドストーリーと言いますか、ショートショートです。
「G線上のアリス 1」をお手に取って頂いけた方にはバレバレかも知れませんが、本編の前日の栞を書いてみました。
私も遠出やイベントなどの前日は、たまに寝付けないこともありますので、そんな夜をイメージしてみました。
あと、本編のネタバレになりかねないので多くは書けませんが、香里と栞のスタンスも注意した点です。

本編の続きである「G線上のアリス 2」が未発表であることや、「G線上のアリス 1」自体がオンライン上では公開していない点など。
申し訳ありませんがもうしばらくお待ち下さい(いつかはオンラインでも・・・)。
なお「G線上のアリス 2」は3月中旬(!?)の発表に向けて、現在難航中です(汗)。
更に、8月には上下作をまとめた本を刊行予定。
しかも、それだけでは終われない勢いです。かなり主人公達が頭の中で動いてくれています。
それだけに、本作のようなサイドストーリーは何本か書きそうな気がします。
多分次回は、香里(30%)か祐一(70%)のどちらかにスポットが当たるでしょう。

最後まで目を通して下さいまして、ありがとうございました。
長らく新作をお待たせしてしまいましたが、ゆっくりながらも発表していけると思います。
ではまたどこかでお目にかかれますように。
March 02 2003. 小山内徹




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