このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
act.2 〜the roadside〜
「ふぅ、こんなもんだろう。洗車終了」
スポンジをワックスの缶に納めながら、愛車に拭き残しが無いかを確認する。
「拭き残しは無いんだけれども、なぁ」
車を一周してから、改めて右フェンダーとAピラーの付け根の付近を覗き込んだら、思わずため息が出てしまった。
以前に峠を攻め込んでいた時のハードバンプが原因なのだが。
「樹脂製フェンダーとはいえ、やはりちょっと情けないなぁ」
そう言って俺はフェンダーが割れ・欠けてしまっている所を撫でる。
特に走行上の問題は無いのだが、やっぱり愛車が傷付いたり凹んだりするのは、オーナー自身も凹むものだ。
黒いボディカラーだけにパッと見は気付かないものの、目を凝らすとヤッパリ分かってしまう。
「ヤフオクかどっかで、換えのフェンダーを見つけないとなぁ」
洗車道具を水気を切ったバケツにまとめ、俺はそれを車止めの側に置いて汗を拭った。
「解体屋じゃパーツが出てこないからなぁ」
ついつい愚痴が出てしまう。明日は気をつけないと。
「さて、今度は車内の掃除といきますか」
運良く両サイドに車がいないので、俺は両方のドアを開ききる。
そして俺は洗車場に備え付けの掃除機(8分200円)に百円玉を2枚入れる。
ノズルを持ち、普段は運転席のフロアマットで隠れている部分に向ける。
「まめに気にしてはいるものの、結構石があるもんだ」
ペダルで入り難い奥も入念に。そしてシートの腰下の窪みもしっかりと吸い取り、運転席全体にノズルを向ける。
サッと助手席側に移動し、同様に石やら細かいゴミを吸い取っていく。
自分の部屋でもここまでやらないだろうなと思い、つい笑ってしまう。
まぁ今日が初めてという訳じゃないし、毎回こうだという訳でもないが、ついつい前日は気合が入ってしまう。
助手席の後ろに回り、後席のカーペット下や1マイルシートに掃除機をかける。
運転席の後ろはフルバケットシートで潰されている為、掃除機のノズルが非常に入りずらい。
周りをしっかりと吸い取ったので、今度はトランクへと移動しよう。
掃除機の表示を見ると、まだ2分は時間が残っている。
北川のインプレッサじゃ、こうはいかないよな。
急ごう、もう200円は勿体無い。
とはいえ、若干下り坂になっている洗車場。
リアハッチのへたったCR-Xでは、持ち上げながらの作業になるのが辛い。
ここもなんとかしたいんだがなぁ。ふぅ、いっそ汗もこいつで吸い込んだろか。
夏休みとはいえ平日。洗車場が混んでいる訳もなく、掃除機がけのクライマックスも怪しまれずに済んだ。
ただ子供・・・小学生だろうな。こいつが洗車場をウロチョロしているのがちょっと気が気でなかった。
まぁ、この車を傷付けることがなかったので良しとしよう。
しかし何だな。この車、あのガキンチョよりも年寄りなんだよな。改めて考えるとショックだ。
1985年3月(頃)生まれで、現在18歳。今日もCR-X Siは元気です。素晴らしい!
一旦車のドアを閉め、ロックをして、俺は自動販売機に向かう。
「夏はやっぱり500缶だよなっ!」
ということで、コ○コーラの500ml缶を迷わず購入。
戻りながらプルタブを開ける。この刺激がたまんないのよ、本当。
誰だ? 量が多いからだろうなんて言っているやつは。
いいんだよ。エアコンレスのこの硬派な車に乗るには、水分補給は重要なんだぞ。
壊れたなら直せって? 簡単に言ってくれるよな。殆どワンオフで作るしかないんだぞ、まったく。
「という訳で。涼ませろ、北川」
CR-Xの隣にインプレッサを停め、車から降りている北川は、「外は暑いぞ、全く」といった仕草で俺を挑発した。
「今の今まで無視しておいてそれか。お前の車が居たから寄ってみれば・・・」
そう言いながら北川はCR-Xのボンネット、塗装面をじっくりと覗き込んだ。
「はっはっは・・・それが良いか悪いか。それはさておき、エアコンが来た訳だから、涼ませろ」
俺は笑顔で北川の肩を2回叩いた。
「俺の車はエアコン呼ばわりかよ。ったく、鍵なら開いてる、俺も何か買ってくるよ」
そう言って北川は自販機に小走りした。
暑いなら走らん方がいいぞ〜。軟弱者のエアコンオーナー君。
「で、今日はルーティンの洗車か? それとも今夜か明日にデートか? このっ!」
北川のインプレッサの車内はおおよそ25度くらいになっている。
まったく文明の利器というやつは。こうもオーナーまでも骨抜きにしてしまうものなのか?
「なんでそうなるかね? 北川君」
俺は残りのコーラを飲み切ってから言った。ちなみに北川はアクエリアス。お前も500ml缶じゃないか。
「念入りに車内に掃除機をかけていただろう。さしずめこの後は車内の水拭きとファ○リーズか?」
北川が缶をカップホルダーに入れながら言ったその『ファ○リーズ』、俺はある忘れ物を思い出した。
「そうか! 消臭剤を買い忘れていたんだ!!」
「汗臭い車は嫌われるからな」
ゴンッ!!
軟弱者に渇を入れておいた。まったく、なんてことを言いだすのかね君は。
「よし。残りの洗車が終わったらオート○ックスに行くぞ」
とりあえず諸悪の根源は巻き込んでおこう。
「いたたたた。その辺のスーパーでも買えるだろうに」
思いのほかミートしたらしい。珍しく北川が頭を抱えている。
「まぁ、ついでにカー用品も見ておきたいのが本音だ」
なにか新しい物が入っているかも知れないからな。
「つまり、この時間からオート○ックスに行く時間があるってことは、デートは明日だな」
もう立ち直ったのか。さすがに5年も香里を追いかけ続けているだけのことはあるな。
「さて、暗くならない内に仕上げにかかるか」
そう言い捨てて、俺は北川の車を後にした。デートのことをお前が知ってどうするというんだか。
「待てっ、相沢。缶を置いていくな!」
北川が助手席の窓を開けて叫んでいる。
「安心しろ。罰ゲームだ」
大丈夫。毒は入いっていないからな。
その後は車内でダッシュボード等を水拭きして、北川とオート○ックスに向かった。
北川とふざけながら店内を見て回って、結局俺は無香○間とファ○リーズみたいな物(車専用品)を買った。
その場で北川と別れて、今度はガソリンスタンドに向かい、ガソリンを満タンにして、タイヤの空気圧をチェック・修正した。
なんだかんだとしている内にすっかり日は暮れてしまい、肝心の俺自身の明日の用意ができていないという有様だ。
とりあえず家に帰ってから晩飯の準備は、時間がかかりすぎて面倒くさいので、帰りがてらに食べるしかない。
そんな訳で、街中を車で流して彷徨っているところだ。
きっと明日は栞の弁当が食べられるだろうから、今夜豪勢に食べる必要はない。
かといって、この辺りの店はあらかた入り尽くしているしなぁ。
「栞がうちに来て、何か作ってくれると嬉しいんだけどな」
とりあえず、このまま流すか・・・。
その後、綺麗になった車と夜風が気持ち良くて、ついつい走りこんでしまったのは栞には秘密だ。
「ふぅ・・・帰る前にもう10L、ガソリンを継ぎ足しておくか」
このまま寝不足にならなければいいが。
あとがき
3月3日はいつもお世話になっているkojiさんのお誕生日です。
世間ではひな祭りということですが、当サイトではkojiさんのお誕生日をお祝いさせていただきます。
え〜っと、本編を書こうと思っていたのですが・・・。ご覧頂いた物が、出来上がった物です。
なんだか外伝やらサイドストーリーの方が書き易いっていうのも問題ですね。
まるで大学の同期の友人、某兄のようです。って内輪ネタで済みません(笑)。
さて、祐一と北川の両名については、かなり具体的なモデルが存在します。
おかげで栞・香里を書くのと比べて書き易いこと書き易いこと。本作はあっさり書き上がりました。
祐一のモデルは、黒の1985年式 CR-X Siを駆る、知る人ぞ知るあの人が。
北川のモデルは、黒のランティス乗りの大学同期の友人がモデルです。
北川の愛車は、この友人がマイカー購入の際に最後の最後まで悩んでいたもう1台をセレクト。
5ドア・AT車とはいえ、インプレッサWRXの方が走りのイメージが強いですからね。
でも同じ本田技研の新旧対決ということで、あえてシビック・フェリオRSにしても良かったかも(笑)。
祐一に「VTECはZCがあったからこそ。それを思い知らせてやる!」と言わせてみても、面白いかもしれませんね。
(現行のシビック・フェリオRSは、シングルカムの非VTECエンジンですが・・・これに乗っている友人もいるもので、つい)
そんな訳で、友人たちがこれを読んだらどんな反応を返してくれるのか、それが楽しみな今日この頃でもあります。
えっ、私の車ですか? そうですねぇ、どこかで登場させられたら良いかなぁと、漠然と考えてます。
スポーティであっても、スポーツカーではないので、本格峠物には不向きですからね。
きっと私の車よりも、別な人の車の方が本編で登場することでしょう。
かなり車に偏ったお話で恐縮でしたが、またどこかでお目にかかりましょう。
March 03 2003.
これを読んでくれた友人が、「なぜ知っている?(>掃除機で汗を吸ったこと)」と驚いていました。
彼ならやりかねないと思って書いたのですけども、まさか本当にやったことがあるとは。
ちょっとビックリした小山内です。事実は小説より奇なり。って、ちょっと違いますか。
March 04 2003.
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