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All About You






私、今こんなにドキドキしています。
今はただ祐一さんと一緒に歩いているだけかもしれない。
でも。でもやっぱり嬉しいんです。

私、少し我侭なのかもしれません。
こうして一緒にいられるのに、ちょっと物足りないんです。
もっと・・・そぅ、祐一さんにもドキドキして欲しいんです。

私だけって、少し不公平じゃないですか。
祐一さんは私の気持ちを知ってか知らずか、いつも飄々としています。
それが逆に、私は不満というか不安です。

私、少し臆病なのかもしれません。
こんなに近くに祐一さんの手があるのに、握る勇気が出せないんです。
もっと彼女らしいことをしたいのに。
私が夢見ているだけですか?


〜All About You〜


「どうした栞。何をボ〜ッとしてる」
「えっ、あ、はい!」
自分で言うのもなんですが・・・今の私、祐一さんの話は全然耳に入っていませんでした。
そんな私を不思議に思ったのでしょうか?
商店街の真ん中で、祐一さんは不意に足を止めました。
ちょっと赤みを帯びてきた夕日に照らされる祐一さんが、私の顔を不思議そうに覗き込んでいます。
「な、何でもないですよ」
まさか『考え事をしていた』なんて言えませんから、誤魔化しちゃいました。
祐一さん、ごめんなさい。
でも、こういう風に祐一さんの顔が見られるのも、珍しいですね。
「そうか。ならいいけど」
納得してくれたのでしょうか。祐一さんはまた歩き始めました。


さっきまで、一緒にブティックに行ってきました。祐一さんに服をみてもらっていたんですよ。
やっと祐一さんとこんなお店に入ることができたので、本当に嬉しかったんです。
祐一さんったら、いつも恥ずかしがって一緒に入ってくれないんです。酷いですよね。

でも、それでもまだ。いつまで待っても私の手を握ってくれないんです。
私たち、少しずつカップルらしいことをしていっています。
でも私、やっぱりもっと祐一さんの近くに行きたいんですよ。
手を繋いで、一つのアイスを二人で食べたり。
カップルとしてはすごくありがちですけど、そんなドラマみたいなお約束も、悪くないじゃないですか。

「それよりも祐一さん。次はどこに行きましょうか」
祐一さん。少しだけ眉をひそめて、なんだか難しい顔をしています。
そうですね。こんな時女の子は食事に誘ってもらえると、嬉しいんですよ。
「そう、だな・・・」
二人でゆっくりと歩きながら、私はじっと祐一さんの答えを待っています。
祐一さんが誘ってくれるなら、どこだって嬉しいんですから。
あゆさんお勧めのタイヤキ屋さんでも、名雪さん絶賛の百花屋のイチゴサンデーでも。
祐一さんが誘ってくれるなら、どこだって嬉しいんですよ。
もちろん、ムードのあるお店だったら最高ですけどね。

「栞の服も見たことだし、何か軽く食べに行くか」
祐一さんはこっちを向いて、笑って言ってくれました。
うれしい! わかってくれたみたいです。
「はいっ」

私たちはブティックを出てからは、ブラブラと表通りに沿って歩いていました。
そうです。ここまで言えばわかってくれますよね。
今日は祐一さんと、放課後のデートなのです。
快晴・・・とまではいきませんが、それでも一応天気は晴れてくれました。
そして今日は祐一さんのエスコートにお任せです。
そんな祐一さんはゆっくりと、歩くペースを私に合わせてくれます。
ちょっと道が混んでいると、私の歩くスペースを空けてくれたりもします。
こんなちょっとした気配りが、きっと水瀬先輩たちの心をひきつけるんでしょうね。
とってもイジワルだったりしますけど。

「なぁ、栞。あれ、食べてみるか?」
「はいっ?」
また考え事をしていた私は、祐一さんの声に生返事してしまいました。
いけませんよね、こんなことじゃ。
デートしているんですから、もっと祐一さんと楽しまなくちゃ損なのに。
でも、祐一さんのことばかり考えている私がいます。
「いやな。ここの店で個数限定のカップケーキを販売するっていうんでな」
「本当ですか?」
あっ・・・私、ついつい食べ物に釣られてしまいました。
祐一さん笑ってます。酷いです。

よく見てみると、普通のケーキ屋さんのようですが、既に十人位の列ができています。
もしかして最近噂のケーキ屋さんのことなのかもしれません。
「その顔なら食べるようだな。よし、んじゃ並ぶか」
「そんな顔ってどんな顔なんですか?」
どうしてそんなこと言うんですか。思わずちょっと膨れちゃいましたよ。
「それじゃどこか行こうか」
そう言って列とは違う方に歩き出さないで下さい!
「わっわっわっ・・・。どうしてそんなこと言うんですか」
「ははは。いや、栞の反応が楽しくてな」
もう。いつもこんな感じで遊ばれちゃいます。


結局、ケーキ屋さんの店頭販売の列に並ぶことになりました。
このカップパフェ。ケーキというよりは、パフェでした。
百花屋のパフェにも負けないくらいの美味しさでした。
この味がテイクアウトできるなら、確かに列が出来るのも肯けます。
それにカップルでしたら、こうやって祐一さんと歩きながら食べることが出来るのですから。


でも、いつも祐一さんはこんな調子です。私は軽くあしらわれちゃいます。
祐一さんの方が一枚上手・・・ということなんでしょうか?
でも私。祐一さんがドキドキしているところも見てみたいんです。
もしかして私だけなんですか? こんなにドキドキしているのは。
私だけドキドキしているなんて、やっぱり不公平ですよ。
祐一さんの一言一言が私には大事件なのに、祐一さんには私の一言一言はどう届いているんですか?
私は一緒にいるだけでも嬉しいんですよ。
勿論手を繋いだり、ドラマみたいなデートをしてみたいなんて、思っていますよ。
でも。祐一さんが態度に出してくれないと私、不安になっちゃうんですよ。
一緒にいても時々心細くなっちゃうこともあるんですよ。
祐一さんは私のこと、どう思ってくれているのかなぁ?


「何を考えているのかしら?」
「お、お姉ちゃん!?」
放課後の教室で私が昨日のことを考えていたら、いきなり目の前にお姉ちゃんがいるじゃないですか。
「アイスくわえたままで、何をここで考え込んでいたのかしら?」
『どうして?』っと考えるよりも前に、私の前の席に座ろうとします。
「えっ。そんなことないよ」
お姉ちゃんに言われて気付いたけど、スプーンをくわえたままでした。
もぅ、あわてて下ろしましたよ。

「ふ〜ん。放課後にねぇ。どういうことかしら?」
こういう時のおねえちゃんの目は、何もかもお見通しのような感じがするの。
どこか見透かされているような、全部お見通しのような。そんな感じが。
やっぱりお姉ちゃんには、隠し事はできないのかな?
あ、別に隠している訳じゃないんだけども。大っぴらにすることじゃないし。
「お昼に食堂で待っていても来ないし。また具合でも悪くなったんじゃないかって来てみれば。
何を一人教室でボーっとしているのかしら?」
確かにみんなが教室からいなくなってから、購買でアイスを買ってきて考え事を始めたけど。
子供じゃないんだから、ほっぺた突っつくのはやめてよぅ。
「そんなことは、ないけれども」
「そぅ? でも、みんな心配していたわよ」
もし本当にそう考えてくれたなら、祐一さんが来てくれてもいいですよね。
「まぁ、そんな心配はなかったみたいね。
相沢君なんか、『きっと寝てるか、アイス食いながら考え事さ』って言ったわよ」
そう言ってお姉ちゃんはクスクスと笑い始めました。
「もぅ・・・。祐一さんもお姉ちゃんも」
どうしてこう、子供扱いされるのかなぁ?
決してそんなことはないはずなのに。

「なるほどね、どうやら相沢君のことを考えていたみたいね」
いきなりそんなこと言うの? ・・・図星だけれども。
もしかして、顔に出ていたのかな?
「いいのよ、いいの。それ以外、今の栞が悩むことなんかないんだから」
そういってお姉ちゃんは突然私の頭を撫ではじめました。
「も、もぅ。お姉ちゃんったら」
なんだか馬鹿にされたような気がするけど・・・。
でも優しくて気持ちよくて、お姉ちゃんにこうしてもらうとやっぱりホッとします。
別に姉妹なんだから、これくらいいいよね?
「まぁ、詳しい話はゆっくり聞いてあげるわ。みんなもう帰っちゃっているんだしね」
「え゛っ?」
今何か、ショックなことを言われたような気が。
「今頃相沢君と名雪は百花屋でお茶している頃ね。帰り際の名雪、すごく嬉しそうだったわよ」
「ちょ、ちょっと待って! お、お姉ちゃん〜」

「大丈夫よ、大丈夫。そんな泣き顔にならなくても。
『栞の様子を見るから先に帰ってね』って、私が相沢君に言ったのよ」
「でも、でも・・・」
それでもやっぱり納得いかないです。
「どうしてお姉ちゃんが来て、祐一さんが来てくれないの?」
お姉ちゃんには悪いけど、やっぱり祐一さんに来て欲しかった。
「ふぅ。私も嫌われたものね。」
お姉ちゃんは見てわかるくらいに、ガックリと肩を落としました。
「そ、そんなことはないけど」
「それともなにかしら、私じゃ役不足なの?」
ニッコリと笑うお姉ちゃんですが、その笑顔はちょっと怖いです。
「そうね。今頃名雪が相沢君に猛烈にアタックをかけている頃かしら」
「えっ?」
「だって7年間の想いの人を栞に取られちゃった訳だからね。
ここぞとばかりに・・・はいはい。この話はやめるわよ」
さすがに今の話には、自分が泣きそうになるのがわかりました。
「もう、お姉ちゃんの意地悪」
なんだか、いじめられっぱなしです。
こんなんじゃ、考えなんかまとまらないです。


「なるほどね。相沢君にもっとドキドキして欲しいのね」
そう言ったお姉ちゃんは、少しだけ考えるような顔をしました。
私が悩んでいることを、お姉ちゃんに素直にぶつけてみたんです。
このままじゃいじめられるだけだし、それにお姉ちゃんなら何か知っているかもしれないから。
「祐一さんの反応があまりないから、私ちょっと不安になるの」
祐一さんのことを相談できる人は、やっぱりお姉ちゃんしかいないから。
水瀬先輩、倉田先輩、川澄先輩、そしてあゆさん・・・。
よくよく考えてみたら、私の周りの人たちはみんな祐一さんに惹かれています。
それが痛いほど解るから、余計に心細いんです。

「でもね。栞の発想って、『女の子の立場ならでは』らしいのよ」
そう言ってお姉ちゃんは小さく笑います。
「男子って、デートとかでは出来るだけ冷静に、大人っぽく。紳士的に振る舞いたいんだって」
お姉ちゃんの言葉の最後には、『わかる?』ってこめられていたような気がします。
「それは・・・。北川先輩の言葉?」
確かにお姉ちゃんは物知りだけれども、どうしてこんなことまで知っているの?
「そうね。子供っぽいって言えば、子供っぽいわね。
でも、相沢君は言葉に出していないけど、おおむね傾向は同じね」
「それって」
思わず聞かずにはいられません。
「そう。男子は言動に表していないだけで、実際のところそれはそれでドキドキの連続らしいわよ」
「本当?」
「それは間違いないわよ。前に相沢君からちょっとだけ聞いたことがあるから。
それで体面を繕う為にも、ちょっとクールに接しているんだと思うわよ」
私を安心させてくれるはずのその言葉に、嫉妬を感じたのは、ここだけの秘密です。

私の知らない祐一さんを知っている。祐一さんと同じクラスのお姉ちゃん。
「なにその顔? 安心していいわよ。相沢君に栞のことを聞かれただけなんだから」
そういってお姉ちゃんはまた、私の頬を軽くつついてきました。
「私のこと?」
「そう。栞の好み全般ね。服や食べ物に音楽。まぁそんなところかしら」
姉妹とはいえ、お姉ちゃんは随分と私のことを良く見ているんだね。
「お姉ちゃんに?」
ダメ。言わなくても良いのに、どうしても聞きたいの。
「なになに? やっぱり嫉妬ね」
降参。もう、隠せないよ。
「そ、そんなことはないけれども」
「『名雪に聞いても、女の子全般の答えしか返ってこなかった』だって。
さすがに栞の細かい好みまでは知らないわよね」
正直ほっとしました。でもこんな私って、嫌な子。
お姉ちゃんが心配してくれているのに、そのお姉ちゃんに嫉妬している自分。
でも抑えられなくなったら、どうすればいいの?


「そうそう。その時の名雪って、最初は自分の好みばっかり話したんだって」
意地悪なお姉ちゃんです。そのことをあえて言ってくるなんて。
「うんうん。相沢君の『栞はバニラアイス以外だと、何が好きか知っているか?』に対して、
『女の子なら、みんなイチゴが好きだよ〜』って。素で返したんだって」
なんだかお姉ちゃん。本当に楽しそうに思い出して言っています。
「そうなんだ。水瀬先輩らしいね」
感情を隠そうと、ちょっと抑えた感じで言ってみました。
「そんなこと言って、見ない振りをしていると名雪に相沢君を取られるわよ」
漫画で描くなら『ふふ〜ん』という台詞がピッタリでした。
「ゆ、祐一さんに限って、そんなことないよ」
私が冷静でいようと勤めても、許してくれないお姉ちゃん。やっぱり意地悪です。
「あらっ、どうかしらね。今だって二人きりよね。きっと」
そう言ってお姉ちゃんは教室の窓から遠くを見ました。
「酷いよ・・・お姉ちゃん」
やっぱりダメです。冷静にも、泣かずにもいられません。
どうしてお姉ちゃんはこうも的確に、私の痛いところを突いてくるんだろう?
姉妹だから? 本当にそれだけなのかな?
どうしてそんなに核心を突いてくるの?

「まぁ、かわいい妹にアドバイスの一つでも送ってあげようかしら」
私の頭を抱きかかえながらお姉ちゃんは言いました。
「何? 苦しいよ、お姉ちゃん」
ちょっと息が苦しいです。ロ・・・ロープ、ロープです!
「いい栞? 栞から手をつなぐのよ」
「えっ!!」
またなにか凄いことを言われたような。お姉ちゃん、本気なの?
お姉ちゃんの腕の中で、なんとか首を回してお姉ちゃんを見ると、
「相沢君も『自分からは気恥ずかしいし、いつ繋いで良いものかわからない』って、言ってたからね」
そう言って、私の頭をコンコンと、小突いてきました。
痛いよ、お姉ちゃん。
「それは本当? 祐一さん、いつ言ってたの?」
こんなことを知っているお姉ちゃんには、やっぱり私は嫉妬しちゃうよ。
同じ学年で同じクラス。学園内では、いつも祐一さんと一緒。
やっぱり羨ましいよ。ずるいよ。
「本当よ。そうね、いつだったかは相沢君の名誉のためにノーコメントにしておきましょうか」
そして私を解放してくれました。
「そんなこと言うお姉ちゃんなんか嫌いだよぅ」
いいもん。お姉ちゃんの意地悪。
「いいのよ、嫌われても。
そうね、栞にアドバイスも出来なくなるし・・・いっそ名雪の味方に回っちゃおうかしら」
「お姉ちゃん〜!!」
もしかしたら私は本気で半分泣いていたかもしれません。
お姉ちゃんには勝てないよ。もう・・・。
「冗談よ、冗談。でも、ありえないとは言い切れないわね」
その口調。少し昔にCMで聞いたような気が・・・。

「う〜」
「まぁ、それはさておき。ようするにタイミングよね」
「う、うん」
いつも外してばかりだから。今度こそは。
「相沢君も栞のことを気にして、腕を伸ばしたり手を広げたりしているらいいわよ。
でも、どうやらそれも裏目に出ているみたいね」
確かに、ずっと同じところに祐一さんの手があってくれた方が楽かもしれない。
そうすれば、『エイッ!』って、触れられるような気がするの。
「私、祐一さんの顔と手ばっかり交互に見ていたから」
「でもね、相沢君が言っていたんだから、本当よ」
「で、でも」
本当に私からそれができるかなぁ?
いっそ祐一さんから握ってくれれば、こんなにも悩んだりしないのに。
「だからね、栞の手が相沢君に触れれば、彼も握り返してくれるわよ」
そして私の手を、お姉ちゃんは握り締めました。
「う、うん」
ちょっと痛いけど、私も握り返しました。
今度は祐一さんと・・・。きっとそうなれるから。


「そしてですね、祐一さん」
今日もまた、放課後に祐一さんとデートです。
昨日お姉ちゃんに言われたことを実践しようと思って、思い切ってお昼休みに誘ってみました。
祐一さんもすぐにOKしてくれたので、行動あるのみです。
でも・・・。
でも、どうしてなんでしょう?
すぐそこに祐一さんの手があるというのに、やっぱり触れることができません。
なんとか手を伸ばしてみるのですが。
「あっ・・・」
手が触れる前に、ちょっとした祐一さんの仕草で、その手が離れてしまいます。
あとちょっと。もう少しで手が届くのに、そのちょっとが遠くて。
どうしてかな? 祐一さんの手に触れたいのに、触れるのが怖いような自分がいます。

「栞。今日は百花屋にしようか?」
祐一さんは、私の気持ちには気付いていますか?
そんなこと、わかるはずもないですよね。
祐一さんはさらっと、でもしっかりと私をリードしてくれます。
でも、できるなら私の手を引いていって欲しいんですよ。
この手をきつく、離れることのないように。
「はい。いいですね」
今までの私なら、こう答えて終わりだったかも。
でも今日はもうちょっとだけ、頑張ってみます。
お姉ちゃんにも言われたように、私から頑張ってみます。
だから祐一さん。いいですよね?

『ギュッ』
やっとのことで、祐一さんの上着の裾をつかんでみました。
もしかすると、迷子の子供のような情けない格好かもしれません。
ちょっと情けなく思えてきました。
でも、放したくないんです。
やっと、自分から祐一さんを捕まえることができたんです。
「ちょっと、待ってな」
そう言って祐一さんは私の手首を掴んで、その手を私の手に重ねてくれました。
やっぱり温かい。
「祐一さん・・・」
私は嬉しくて、祐一さんの手を握り返しました。
大きくて温かくって、ちょっと硬い感じの手です。
「じゃあ、行くぞ」
祐一さん、照れ隠しなのでしょうか。
顔も合わさずに、ぶっきらぼうに言いわれちゃいました。
でも、ちゃんと私の手を握り返してくれました。

これって、どれ程女の子にとって嬉しいことだと思います?
お姉ちゃんもやっぱり誰かと、同じような思いをしているのかな?
お姉ちゃん、ありがとう。今、私幸せだよっ。
「ねぇ祐一さん。これからも祐一さんの手を、握っていてもいいですか?」
この手を放したくなくて、思わず言ってしまいました。
ちょっと大胆だったかな?
「ん? そうだなぁ、さすがに学校内では恥ずかしいものがあるな」
右手で頬をかいて、祐一さんはちょっと照れたように言いました。
でも、恥ずかしいのは私も一緒ですよ。
「それはまぁ、そうですけど」
これで少しは祐一さんの答えを誘導できたでしょうか?
嫌な子かも知れませんが、でも逃すわけにはいかないんです。
「でもまぁ、栞が望むなら別にいつでもいいぞ」
「はいっ!」
ありがとう祐一さん。その言葉が聞きたかったんです。
やっぱり嬉しくって、祐一さんの腕に抱きついちゃいました。
今思えば、さっきまでの手を繋ぐことよりも、もっと凄いことなんですよね。
でもこんなことができちゃうくらい、私は嬉しいんですよ。
祐一さんが応えてくれたことが。そして、お姉ちゃんに背中を押してもらえたことが。



ねぇ祐一さん。もう少しこうしていてもいいですか?

こんな幸せを逃したくないって、願っていてもいいですか?

だってやっぱり、あなたの隣にいたいから。

ねぇお姉ちゃん。私ってわがままなのかなぁ?


あとがき

これは去年のサンクリに委託といいますか、ゲストで書いたものなのです。
今見ても恥ずかしい内容というか、正直「こっぱずかしい」ですね。

さて、カップルの微妙な駆け引きを栞の視点から書いてみたのですが。
実際、女性は隣でどんなことを考えているものなのでしょう?
反面、女性も隣で男性が何を考えているかを疑問に思うのでしょうね。
恋愛の永遠の謎。怖いくらいに奥深いものです。
March 12 2003. 小山内徹




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