このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



〜続 All About You〜






「はぁ。私、何をやっているんだろう?」
香里は一人本屋の外壁の影に身を潜め、人に気付かれないようにしていた。
「昨日言ったことを早速やって、上手くいったみたいね」
笑みの見られたその顔は、じきに影を落とすことになった。
壁からこっそりと顔を出して、二人が笑い合っているのを見ては、また身を潜めていた。
「どうして隠れなきゃいけないのかしら。全く、私らしくないわね」
自嘲気味に言いながらも、香里は様子を見ることを止めなかった。


〜続 All About You〜


香里は一人本屋の影に残ったまま、二人が通りから去るのをじっと待った。
「栞と相沢君。このまま上手くいくのかしら?
姉としては、そうあって欲しいわよね」
視界から二人がいなくなったのを確認すると、香里は表通りに出て、改めて辺りを見回した。
「名雪はこの場にいなくて正解よね。
いくら言葉で分かっているからと言っても、やっぱり目の当たりにすると辛いわよね」
そういって肩を落とす香里には、言葉とは違った感情も湧き出ていた。
そんな感情が二人と鉢合わせないようにという配慮と重なり合って、まだ歩き出せずにいた。

「人を好きになるって、一方では知らず知らず誰かを傷つけたりするのよね。
名雪は相沢君のことを七年間想い続けていた。そしてその想いは今でも変わっていないはず。
川澄先輩も。あの様子だと・・・きっと倉田先輩も、相沢君の事を好きなのよね。
でも、今は相沢君と栞の二人の間には誰も入れないし、誰もが入っていくのを恐れているようにも見える」
段々と日が傾いていく街角で、赤く染まる世界の中で香里はまだ歩き出せずに留まっていた。
「自分が傷つくのを恐れたら、誰もその中に割って入ることはできないし、入ろうとしない。
その間は栞も・・・安泰ということなのかしら?
でも、栞が思い切って動き出したように、いつか誰かが均衡を破ることもあるかもしれない」
香里は商店街を赤く染める夕日をまっすぐに見て、その眩しさに顔をしかめた。
しかしその太陽の中に何かを見たかのように、すぐに吹っ切ったように歩き始めた。
その歩みは単に家に帰るようであり、何かを決心したようでもあった。


「人を好きになるってことは、素晴らしいことだと思うし、物凄く大変なことだと思う。
栞はその渦の中で、今は上手く波に乗れているということかしら。
でも、誰かがその流れを断ち切ったとしたら。
仮に私がそれを断ち切ったらどうなるのかしらね?」
歩きながら自嘲気味に笑う香里だったが、意外とその表情は暗くはなかった。
「もしかしたら、このままじゃ良い姉ではいられなくなるかもね。
まぁ、その時は栞に隙があったということかしら。
でも、自分の気持ちを持て余している私なんかじゃ、まだまだよね」
そして栞が家に帰る前に戻ろうと、少しだけ早歩きで進みだした。
その早歩きの意味は、香里自身掴みきれていなかった。


栞が帰宅するのを家で待つ香里。
その姿は普通の家庭で見受けられるものだが、今日はどこか空気が違っていた。
それに栞が気付いた時、もう一つの物語が始るのだろうか。
持て余した想いを実現させたいと願うのは、決して一人だけではないのだから。

姉として、女として。過ごした時間の長ささえも覆してしまう、想いの力。
良く知った人物がライバルに。
時として友情や血縁とは、残酷なものである。


あとがき

もしこのまま続きを書くことがあるとしたら、それは死を決意したも同然ですね。
栞にとって香里とは、姉であり最高の協力者であり、最大のライバル。
きっとそんな存在なのではないでしょうか?
そんなことを考えていいたら、こういうことになりました。
もう、逃げるが勝ちです。ではっ!!
March 25 2003. 小山内徹




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