このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
里見電鉄四季物語 〜如月〜 「梅香町駅」
1 静谷学園高校 2年A組教室
かすみは教室から外を眺めていた。2年A組の教室からは校内に3本だけ植えられた梅の木を見る事が出来る。見事に咲いた白梅を見ながら、かすみはあることを想い出していた。そんなかすみに声をかけた娘がいた。川越文香。かすみのクラスメートであり、そして友人。
「かすみさん、どうかしましたか?」
「少し、去年のことを想い出して・・・」
「そうですか・・・」
そう言うと文香も梅の花を眺めだした。かすみと同じように・・・
2 喫茶「微風の通り道」
月が如月に変わり数日経った日。空が夕闇に染まり始めた頃、店内では1人の少女が、洗い物をしていた。シンプルなエプロンをつけた可愛い少女。手っ取り早く言えばかすみである。その横では店長の榛名がコップを磨いていた。お客さんが途切れ、店内はゆっくりと時間が過ぎていく。そんな店内に不意に電話のベルが響いた。
「私が出ましょうか?店長」
かすみが手を休めて聞いてきたが、
「いや、良いよ。お客さんが来たら頼むよ」
そう言うと、榛名はカウンターの隣の出札室。−−−この建物が只の喫茶店でなく駅でもあることを示す数少ない場所に行った。
「はい、もしもし。こちら里見電鉄里見信乃駅、喫茶「微風の・・って、めぐみちゃん?かすみちゃんに何か用?−−−えっ私に用?−−−あぁ、そうだったね。それで?−−−わかった。大丈夫だよ」
電話が終わったらしくカウンターに戻ってきた榛名に、かすみは「誰からだったんですか」と、尋ねた。しかし榛名は「大した用じゃないよ」と、一言だけ言った。かすみはその口調に少し引っかかったが、もう一度尋ねる前にお客さんが来て、かすみは注文を取りに行き、電話の話をする時機を逸してしまった。
3 静谷学園高校 屋上
数日後のお昼休み。かすみとその友達は屋上で食事をしていた。女の子のお弁当箱と言えば小さい物だが、その中でも一番小さそうなお弁当箱を開けながら文香が、話しかけてきた。
「あの、皆さん今度、梅の花を見に行きませんか?」
「もう、そんな季節なんだ」
文香の話にかすみが答える。
「良いじゃないかな?あたしは別にかまわないよ」
女の子にしては少々大きめなお弁当箱を開け、おむすびを片手にめぐみが答える。
「私も賛成」
かすみもパンの袋を開けながら答える。
「あー、かすみ。焼きそばパン買えたんだぁ」
素っ頓狂な大声を出したのは由加里だ。いかにも欲しそうな表情にかすみは、
「欲しいのだったらあげるよ。まだパン有るし」
と、言って由加里にパンを差し出す。由加里は、
「ありがとっ。替わりにどれか食べてよ」
と、パンを見せるが、かすみは実際に選んだときの由加里の反応が予測でき・・・
「良いって、別に。これだけでも十分だから。で、由加里はどうするの?」
「みんな行くなら、わたしも行くよ。それにしてもかすみがお弁当じゃないって珍しいね」
「ちょっと寝坊しちゃって」
「じゃ、皆さん良いみたいですね。楽しみですね」
文香がそう言うと、4人はおしゃべりしながらお昼を楽しんだ。
4 里見電鉄梅香町駅
屋上での話があった週の日曜日、かすみ達4人は梅香町駅の近くにある公園にやってきた。公園と言っても元々とある邸宅の跡で、公園と言うより庭園と呼ぶべき物であった。公園の白梅、紅梅ともに満開に咲き、美しさを競っている。
「やっぱり、来て良かったですね」
「そうだね」
文香の声にかすみも相づちを打つ。
「あっ、お餅を売っている。わたし、買って来るっ!」
「由加里は、相変わらず花より団子か」
由加里の行動にめぐみは呆れている。
「まぁ、いつものことじゃない」
かすみも苦笑している。由加里はそんなこととはつゆ知らず
「買ってきたよ。みんなの分もあるよ」
「あぁ、由加里さん済みません」
「頂きっ」
あんなことを言ってながら、めぐみもしっかり手を出す。しばらく4人はおやつを楽しんだのでした。
5 喫茶「微風の通り道」
夕方、かすみ達4人は里見信乃駅に降り立った。これから起こることをかすみだけが知らない。かすみがお店の入り口を開けた途端、クラッカーの音が響き、榛名が、
「お誕生日おめでとう。かすみちゃん!」
と、言った。驚くかすみに、
「少し早いけど、お誕生日おめでとう。かすみ」
「お誕生日おめでとう御座います。かすみさん」
「おめでとっ、かすみっ!」
榛名に続いて、めぐみ、文香、由加里も口々に言う。
「えっと、あのっ、えっと・・・」
余りにも急な展開に頭が追いつかないのか、かすみの言葉は意味を成していない。
「はい、はい。取り敢えず席に着いてね。めぐみちゃん、ちょっと手伝って」
「あっ私が、」
「あのね、主役が準備してどうするのよ。あたしに任せなよ。それとも、あたしじゃ不安?」
「そうじゃないけど・・・。でも、私はここの・・・」
「今日のかすみちゃんは只のお客さん。分かった?素直に座りなさい」
なお言い募るかすみに榛名がたしなめる。しばらくすると4人席のテーブルにいろとりどりの飲み物、食べ物がならんだ。そして最後に、榛名が大きなケーキを持ってきた。
「あっ、それ手作りですか?」
文香が尋ねた。榛名は、
「そうだよ。慣れないことはするもんじゃないな。えらく手間がかかったよ。めぐみちゃん、こんな面倒な注文、2度と無しだからね」
本当にたまんないと言いたげな口調で言った。でも、めぐみは、
「でも、綺麗に出来てるし、良いじゃないですか」
と、余り気にしていない見たい。一方、かすみは、
「私のために済みません」
「良いって、良いって。さっ、ケーキにロウソクをつけるから・・・」
数分後、かすみはロウソクの火を吹き消した・・・
「里見電鉄四季物語」に戻る
「弥生 里見駅」に行く
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |