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太平洋戦記
第2回 星条旗今破れたり

●大日本帝國海軍第1航空艦隊 ハワイ沖 アメリカ合衆国ハワイ準州
 1941年12月8日(第3ターン)
     
 ハワイ沖の海上。昇る太陽を旗印にした艦隊が航行していた。戦艦、巡洋艦、駆逐艦に守られる6隻の空母。日本帝國海軍第1航空艦隊。史上初、そして当時最強の空母機動部隊。その艦隊の旗艦、戦艦「比叡」に座乗する艦隊司令官小沢治三郎中将は、「無事此処まで来られたな」と一言言うと、凛とした声で、
「航空機発艦準備を開始せよ」
と、命じた。小沢の命令は「比叡」の航海灯の点滅で、6隻の空母に伝えられる。6隻の空母の飛行甲板に航空機が並べられる。参謀が司令官に報告する。
「航空機発艦準備完了。時間ですが中止命令はありませんでした」
ぎりぎりまで行われた日米交渉。ほぼ解決不可能と思われていたが、可能な限りの避戦を望んだ昭和帝の希望により開戦直前まで交渉は続けられていた。そして万が一交渉が成立した場合は、直ちに艦隊は横須賀に帰投することになっていた。中止命令を聞き落とさないように、艦橋が低く通信を受信しにくい空母「赤城」から、艦橋が高く受信しやすい上に「大和」級のテストのために、通信機を含む各種新鋭機器を積み込まれた戦艦「比叡」に小沢中将は旗艦を移していた。
「戦闘旗及びZ旗掲揚」
戦艦「比叡」にZ旗が掲揚された。帝國海軍で「皇国ノ興廃、此ノ一戦ニ有リ、各員一層奮励努力セヨ」を示す信号旗は、日露戦争の日本海海戦で初めて掲げられて以来、国家を左右するほどの決戦のさいに、その決戦に参加する艦隊の旗艦に掲げられていくことになる。第1航空艦隊がこれから行う戦いは、ハワイオアフ島にあるアメリカ合衆国海軍太平洋艦隊の根拠地、真珠湾の奇襲攻撃であった。もし成功すればアメリカ海軍太平洋艦隊を半年はハワイに釘付けできる。しかし失敗すれば帝國にとって至宝とも言うべき高速戦艦の半分と、正規航空母艦の全てを失う。もし空母を失えば再建までに最低1年はかかる。その間は、戦力として数えるには余りにも頼りない軽空母「鳳翔」を含めても4隻の軽空母、護衛空母で戦わないといけない。しかし、はっきり言って博打に近い作戦だった。しかし帝國と米国の差は、開戦壁頭にいきなり博打的な作戦でもしない限り、どうしようもないほど開いている。
 「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」6隻の空母は、風上に向かって舵を取る。甲板に流れる蒸気の帯を操舵員は見つめそれが艦と平行になるよう空母を動かしていく。そして加速していく。発艦準備が整った。現地時間午前6時。
「航空機発艦始め」
小沢の命令を受け発着艦指揮所から青ランプ(発進合図)が振られた。そして、制空隊の零式艦上戦闘機を最初に攻撃機隊が発進していく。甲板では徹夜で機体の整備をした整備員達が、帽振れを行い機体を見送る。「万歳」「勝ってこいよ」甲板に声が響く。
 6隻の空母だけではなく、戦艦「比叡」を始めとする護衛艦からも、カタパルトによって搭載機−零式水上偵察機が発艦していく。本来なら名前の通り偵察のみに使うべき機体であろうが、1機でも多くの戦力の欲しい小沢中将は水偵にすら爆装させて出撃させた。「もし2度目の攻撃が出来たとしてもそれはかなり後になるだろう」だからこそ少しでも真珠湾の艦隊をたたくべく、水偵までも出撃させた。艦隊は直掩機すら無い裸の状態にしてまで多くの機体を出撃させた。その数、零式艦上戦闘機120機、99式艦上爆撃機135機、97式艦上攻撃機144機、零式水上偵察機19機の合計408機。

 そのころ、ワシントンの在アメリカ合衆国日本帝國大使館では、奈良原一等書記官が記者団に対し次の談話を発表していた。
「日本帝國政府が、重大な決断を下した事をお知らせします。日本帝國政府は、本日7日午前零時を持ってアメリカ合衆国を始めとする連合国軍に対し宣戦を布告しました。日本帝國政府は此の戦争が早期に終結することを望んでおります」
その約2時間後この戦争で初めての爆発が起こることになる。
 
 「全軍突撃せよ」攻撃隊指揮官淵田中佐が命令し、攻撃機隊は真珠湾に殺到した。奇襲成功「トラ トラ トラ(我奇襲ニ成功セリ)」の電文が攻撃隊から艦隊に向け発信される。敵艦隊からの対空射撃はない。しかし敵守備隊からの攻撃はあった。何機かが火だるまになる。しかし攻撃隊はそれに怯まず目標への襲撃コースに乗る。99艦爆の攻撃を受け駆逐艦が瞬時に轟沈する。その駆逐艦フェルプスは99艦爆17機の攻撃を受け、爆弾13発を受けた。彼女は太平洋戦争最初の喪失軍艦となる。
 駆逐艦を目標とした艦爆隊に対し、艦攻隊は戦艦を狙う。水面をたたくような低高度で進入した艦攻隊は敵戦艦に向かい次々に魚雷を放つ。奇しくも最初の魚雷が命中したのは太平洋艦隊旗艦、戦艦メリーランドだった。そのメリーランドに大量の水柱が発生する。その水柱が消えたとき其処には横倒しになり沈むメリーランドの姿があった。アリゾナ、ペンシルヴァニアと連続して水柱が上がる。その横では駆逐艦が攻撃を受けどんどん沈んでいく。
 零戦隊は空を舞い敵機の姿を探すが奇襲のせいか敵機の姿無し。隊長は合図を送ると飛行場に向かい銃撃を敢行する。戦闘機が、重爆が、飛行艇や艦爆が皆銃撃で火を噴く。水偵隊も敵商船1隻を撃沈したようだ。真珠湾は火の海と化し、海上には沈んだ軍艦の残骸が顔を出している。 その時ハワイの空は確かに日本のものだった。
 
 空母「赤城」に最後の1機が着艦した。そして艦隊は、風の様にオアフ沖から去った。

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 真珠湾奇襲データ
実施 1941年12月第3ターン
参加兵力 
日本軍:第1航空艦隊 空母6、戦艦2、巡洋艦3、小型艦9、商船2
    航空機 408機
連合軍:艦船 戦艦8、巡洋艦8、小型艦25
    航空機 約320機
    部隊 約2個師団
       要塞守備隊(守備部隊60)
損害
日本軍:喪失 航空機25機(零戦9・99艦爆6・97艦攻9・零式水偵1)
連合軍:撃沈 戦艦2・駆逐艦9・商船1
    中破 戦艦3
    喪失 航空機30機(P36戦8・P40B戦14・B18重爆3・B17D重爆1・PBY飛行艇1・SB2U艦爆3)
連合軍艦船損害詳細
艦種・艦名
攻撃機・機数
命 中 数
損  害
戦艦 メリーランド97艦攻  33 魚雷 11
沈 没
戦艦 アリゾナ97艦攻 25魚雷 6
中 破
戦艦 ペンシルバニア97艦攻 21魚雷 7
中 破
戦艦 ネバダ 97艦攻 21魚雷 9
沈 没
戦艦 テネシー97艦攻 26魚雷 6
中 破
駆逐艦 フェルプス99艦爆 17爆弾 13
沈 没
駆逐艦 ヘンリー99艦爆 17爆弾 12?
沈 没
駆逐艦 ダウンズ99艦爆 12爆弾 7
沈 没
駆逐艦 ジャービス零式水偵  9 
99艦爆 14
爆弾 1  
爆弾 11
(大 破)
沈 没
駆逐艦 デール99艦爆 9爆弾 6
沈 没
駆逐艦 マグフォード99艦爆 17爆弾 7
沈 没
駆逐艦 ブルー99艦爆 14爆弾 11
沈 没
駆逐艦 ハル99艦爆 11爆弾 6
沈 没
駆逐艦 モナハン99艦爆 10 爆弾 6
沈 没
商船 連商船4号零式水偵  8爆弾 2
沈 没
 


後書き
 太平洋戦記の第2回、というより本編第1回です。1回目は真珠湾奇襲。ゲームの結果を架空戦記風の味付けで、書いてみましたがどうでしょうか?ご感想をお待ちしております。
 史実とは内容的にやや異なりますが、日本軍の損害が史実29機に対して、25機。米戦艦の損害も沈没2(後に復旧した3隻を除く)、中破1、小破1に対して、沈没2、中破3ですからかなり近い結果になったのではないでしょうか。但し駆逐艦の損害は史実(駆逐艦3大破)より大きくその代わり軽巡の損害がないと言う大きな違いがありますが。
 次回はマレー半島の戦いその1です。英東洋艦隊は史実通り航空機に倒れるのか?それとも金剛対プリンス・オブ・ウェールズの砲戦が起きるのか?もしかしたら陸軍の戦いが先になるかも知れませんが、次回もこうご期待!
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