このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

随感随記

中国鉄道事情(1)

■鉄道に関することばと日本の「電車」

中国語で汽車のことを「火車」という。「鉄道」、「鉄路」、「列車」という単語もあるが、日常では「火車」を一番よく使うし見かける。もともと字面の通り蒸気機関車のことだったらしいが、ディーゼル機関車もさらには電化した列車も「火車」と呼ぶ。日本語で言うところの電気機関車は「電動火車」となり、「電気で動く蒸気機関車」。頭が痛い。まあ日本でも年配者はたとえ電化区間の鉄道であっても「汽車」と表現する場合があるのでそれは同じか。

頭痛ついでに日本語の感覚で「汽車」と言ってしまうと自動車の意味になってややこしい。自動車は硬い表現だと「機動車」とも言う。さらに中国語で「自動車」と言うと文脈によっては「オートマチックの車」と取られるのでますます頭は混乱する。ええい、ここまできたらもう一つ。日本語で自動車のことをよく「クルマ」と言うように、こちらでも文脈によっては「車」だけで自動車を示すことはある。あくまで「文脈によっては」であって、自転車(中国語では「自行車」)を指す場合もある。「ねぇ、ボクのクルマに乗らないかい」と声をかけられてOKして、自転車の後ろに乗せられたとしても文句は言えないのだ。(実際にそんなシーンを周星馳のコメディ映画で見た)

そして駅は「站」。鉄道の駅であることを特に明示したければ「火車站」という。「站」の字には「ステーション」の意味があるので、バス停や船の乗り場はもちろんのこと、電機メーカーの「サービスステーション」にも「站」の字を使う。そういえば日本のかつての国鉄バスのバス停も「XX駅」と表記されていたっけな。ちなみにこの「站」という漢字、ずっとJISのコードには無いと思っていたんだけど、日本語にも「兵站」という古い言葉があることをつい最近になって思い出した。「へいたん」と打てば出るので試していただきたい。さらに脱線するが、会社で資料を作っているときに中国の安徽省(日本語では「あんきしょう」)という地名の「徽」の字をどう出していいものか分からなかったけど、小学校の校歌にあった「徽章」(きしょう=バッジのこと)を思い出して一人で自己満足にひたっていたことがある。へんな言葉を知っておくと便利なこともあるもんだ、うん。

さて「火車」だが、「火車」にはなんとなく長距離列車のようなニュアンスがあり、日本の通勤電車のように頻繁に走っていて駅と駅の間隔もそんなに長くないものに「火車」を使うとどうもしっくりこない。96年に北京の同僚が日本を初めて訪問した際も、山手線のことを「火車」とは呼ばずに「地上を走る地下鉄のようなもの」と不思議な表現を使っていた。私は日本語のままに「電車」と言ってみたが、「電車」だと北京の都心部で今も健在の「トロリーバス」になってしまうらしい。あ、トロリーバスって知っていますか?私も日本では子供の頃に「乗り物図鑑」などでしか見たことなかったのですが、タイヤを履いたバスと同じ車体にパンタグラフが付いていて電線から供給される電気で走る乗り物のことです。東京にもあったのですが私が生まれる前に路面電車と共に一掃されたそうです。で、この「電車」という言葉にしても北京の人はトロリーバスを想起するのに大連では「路面電車」を意味することが多い。トロリーバスと路面電車、それぞれ誤解の無い様に正確に示す場合は、「無軌電車」、「有軌電車」と言うようだ。おお、なんて分かりやすい。漢字万歳!

おっとまた脱線。まだ日本の「電車」のニュアンスをどうするかを解決してなかった。結論から言うとまだしっくりくる言葉はなく、最近の都市計画の報道の中で新しい単語を見かけるようになったという程度。北京の市内交通はほとんどをバスに頼っていて、あとは環状線と直線の地下鉄(中国語では「地下鉄道」を日本よりももっと略して「地鉄」)が二本あるだけ。出張時代はタクシーに頼っていた私も今ではほとんどバスを利用している。バスはなかなかシンドイのだが、路線さえ把握しておけば1元から数元で動けるし、それこそ日本の地下鉄や通勤電車の様に数分おきに来る路線もあるので便利である。ところが最近は本当に渋滞がひどい。95年に初めて北京に来た頃は交通渋滞は決まった時間(通勤ラッシュと帰宅ラッシュ)に決まった場所(環状道路の主な立体交差と長安街という目抜き通り)でしか起こらなかったが、最近は個人所有の車も増えてきていつでもどこでも渋滞していて環状道路は「巨大な環状の駐車場」と呼ばれるありさま。そこで地下鉄の新設計画が持ち上がって、既に南北を縦貫する新線の建設が始まっている。さらに人口増加に従って北京の市区の範囲も二環路(もとの北京城の城壁を壊して作った環状道路で、地下には地下鉄の環状線が走っている)、三環路、四環路(昨年末に全通)、五環路(計画路線)と広がってきており、近郊に開かれたベッドタウンとの連絡に鉄道が必要になってきた。ここでやっと登場するのが日本にある通勤型の電車。今まで存在しなかった物に対して丁度いい言葉が無いのは当然といえば当然。

北京で建設中の新しい通勤電車は「軽軌」と呼ばれ、地下鉄西直門駅近くの北京北駅を出て北上し郊外を経由して、今度は大きく東に曲がってから南下して、新興住宅地の京望地区を通って地下鉄東直門駅あたりに着くらしい。私の通う北京語言文化大学のすぐ近くにも「五道口」駅が開業するらしく、五道口というイカガワシイ一帯の個人商店なんかもどんどん取り壊されている。中国のもう一つの大都市である上海では既に昨年末に高架式の通勤電車が24kmにわたって完成しているとのこと。左の写真は2000年12月27日付け「人民日報」のオンライン版のもので、記事では「市電高架軌道」というムツカシイ名称が使われていた。それにしてもこの写真、妙に日本っぽい。アルミかステンレスらしい車体のことだけを言っているのではなくて、建物の並び方や道路の交差の仕方も含めた絵全体が東京か大阪の街並みに見える。「容疑者が東京でアジトにしていた都立大学駅近くの雑居ビル(写真右端)。左は環七と交差する東横線」というキャプションが入っていても信じてしまう。高架電車が日本の大都市の風景をかもし出している、というのは変な発見をした。


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