このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



ビールと枝豆
(8月25日)


  バスを降りて自分の五階の部屋に戻るのに、300メートルもないが、その途中にビアガーデンがある。ビアガーデンは中国語で"ビール花園"と書く。そのビール花園は5月のゴールデンウイーク明けからもう開かている。ビールが大好きなのだが、今年は殆ど行かなかった。5,6月は人が多くて、席の確保が難しいからだった。中国では一人で酒を飲むなんてことは、外では殆ど見られないことでもあるので、一人でテーブルを占有するのも抵抗がある。

  そして、7月になると、もう暑くて暑くて、早く自分の部屋に早く入って、クーラーの効いた部屋で、ビールを飲んだほうがよほどいいという気持ちになって行かなかった。五階の部屋まで階段を登って辿り着くころには、ほんとに汗だらけ、汗びっしょりになった。

  そこに行かなかった理由はもう一つある。たまにはビールでも飲んでから帰ろうかと思うのだが、そのときに限って残り物が残っていることを思い出して、今夜あたりは、あれを食べないと悪くなってしまうなんてことを思い出し、部屋に直行して残り物を食べることになる。豆腐を一丁買っても、一日では食べきれれず、まだ豆腐が残っていることを思い出したりする。一人暮しの生活では、一回料理を作ると、多すぎて残ってしまう。結構けちなせいか捨てるのが勿体無いと思ってしまう。実際日本風に味付けした料理は、中国のレストランで食べるのよりは、ずっと美味くて捨てるには勿体無いと思うのもほんとである。

  そのビール花園の方は、暑くなればなるほど繁盛してきた。私が8時過ぎにここを通る頃には、羊の焼き鳥(?)を焼く煙が勢い良く、あちこちから立ち昇っていた。屋台風の店が、ビアガーデンの広場の周りにずらっと並んでいるのである。座っているだけでも汗が出るような蒸し暑い夜なのに、上半身裸になった男たちが、大勢のグループで、ワイワイと賑やかに飲んいた。そして食べる方も、いかにも盛大に食べたという様に、テーブルの上も下も食べ散らかしてあった。こういうところで、老年のサラリーマン風の男が、一人でビールを飲むなんてのは、なかなか抵抗がある。五階の窓からこのビアガーデンが見えるのであるが、この賑やかさが、12時過ぎまで続いていた。

  考えてみると、今までビアーガーデンに行かなかった理由はもう一つあって、この近くに住む、同じ会社の社員が居なくなったことも関係がある。大勢で行けば抵抗は無かったのであるが。

  ところが8月4日まで続いていた猛暑が過ぎて、日中の気温が30度位になるとると、人出がずっと少なくなってきた。ビールは暑いときに飲むものだとしても、これはなんだか不思議に思える。日中はまだ暑いのである。テーブルの確保も問題なくなって、心地よい夜風が吹くようになったので、8月の中旬から、会社の帰りに、ここでビールを飲んでから帰る日が多くなった。日本の、一杯飲み屋と同じように、枝豆をつまみながら冷たいビールが飲める。これが何とも心地よい。去年よく利用した屋台のおばさんも覚えてくれて、"今年はぜんぜん来なかったのね"なんて言ってくれた。

  ビールはジョッキ一杯が3元、これを2杯飲む。枝豆が食べきれないほど山盛りで、これも3元、羊の焼き鳥が一本1元で、いつも7本注文するので7元。時には野菜不足を考慮して、辛いスープ(麻ラー湯)で煮た野菜などを注文するが、これも3元。全部で19元、せいぜい300円位である。山盛りの枝豆を半分残しても、腹が一杯になり夕食の替わりになる。

  この話を会社の女の子にしたら、夕食にしては高いと言われた。私としてはビールが目的で、食事が目的ではないが、この女の子から見ると食事の替わりに思えるのかもしれない。この女の子は、妹の学費の為に毎月仕送りをしていると言う。内蒙古から出てきている日本語の勉強に熱心な女の子である。この女の子の夕食は、毎日10元(150元くらい)にしているのだとか。

  私にとっては、この値段でビールが飲めるのはとても安いと思える。そして日本風に居酒屋感覚で飲めるのがなんともいい。中国には居酒屋がないからこれはとても有難い。そして酒のつまみ風の料理がいい。料理といってもたいした料理(毛豆と言われる枝豆など)ではないが、中国風にくどくてなくて、大量な料理ではないところもいい。串(羊の焼き鳥)にしても野菜の麻ラー湯にしても食べきれる量だけ頼めばいい。羊を串に刺したものはほんとにおいしい。これに振り掛ける香料は、日本では使わない香料であるが、私にとって懐かしい味になるに違いない。私は中国風香料が余り好きではなく、中国であまりおいしい料理とで出会わないが、この串の味は、日本に帰ってからも、きっともう一度食べたい味として記憶に残ると思う。

  よく考えてみると、暑い内にここへ行かなかった理由がまだあった。あの高温の中では、果たして衛生の点で問題が無いのだろうかと言う心配である。屋台みたいな店には冷蔵庫もなく、この広いビアガーデンに水道が一つしかない。そして新聞で読んだ不衛生な場面が、思い浮かんできてしまったりする。例えば、豚の皮の毛をきれいに取るのに、皮をコールタールに貼り付けてとる方法があるのだとか。鶏の皮から毛を取るのにも、コールタールを使う場合があるらしい。新聞にはこれが違法な"瀝青鶏"として見出しになっていた。瀝青は多分石油ピッチ、またはコールタールのことだだろう。コールタールには、確か発ガン性部質が含まれていたはずだと思うのだが。こんなことは知らないほうがいいのだろうが、知ってしまうと心配になる。私は鶏皮のから揚げみたいなものをよく買うのである。

  しかしビアガーデンに空席が目立ち、夜涼しくなってくると、バスから降りてすぐ目の前にあるビアガーデンに寄ってビールが飲みたくなってしまった。中国人は熱気ムンムンの中で、大勢の中で飲むのが好きなのかもしれないが、私は涼しい夜風に吹かれながら、静かに飲むほうがいい。しかしこのビアガーデンも、もうお仕舞いかもしれない。中国人はこのような静かな風情の中では、あまりビールを飲まないのかもしれない。

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