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湘西旅行食べ歩き
(10月16日)


旅行した場所の地図

  湖南省の西部の旅行記を書こうかと思ったが、まずは食べ歩きの記から。湖南省の西部の方を湘西と言う。食べ歩きといってもグルメ旅行ではない。そもそも湖南省料理は辛いことでも有名で、その辛さを私はよく知っていて、これは避けたかった。そして中国では、一人旅でグルメ旅行なんて出来ないのである

  何故湖南料理の辛さを知っているかと言うと、日本からお客さんが来た場合、会社の近くの大きな湖南省料理のレストランで食事をするからである。ここの料理は確かに辛い。肉料理では辛くない料理が無いといってもいい。青くて小さい唐辛子が入っていようものなら飛び上がるほど辛い。眼からも汗が噴出す。ここの料理は決して洗練された料理ではない。辛さでびっくりさせるような料理である。あの辛さでは味など分かるはずが無い。しかし日本人はハッキリ物を言わない人が多いから、ご馳走になって辛くて食べられないなどと言うと、失礼になると思うのか、辛くない料理を選んで、“これなら食べられる”などと言う。だからここの料理は変わった異国の料理と言う位の価値はあるが、美味しい料理と言えるものではない。

しかしここの料理はレストランの料理であるから、家庭の料理と違って海鮮料理なども取り入れている。元々の湖南省の料理は内陸だから海鮮料理など有るはずが無いが、そう言った料理なども取り入れてあって、本来の湖南料理だけでないのが救いである。しかし湖南料理以外の料理も、変わった料理が多い。例えば、スッポン料理等であるが、これは血だとか、胆汁も飲むのである。

   前置きが長くなったが、湖南の旅行では食事が心配であった。朝鮮料理のキムチなどの辛さは好きなのであるが、人をビックリさせるほどの辛さは好きではないのである。そして知らない所に行く時は、ほかにもいろいろ心配になるがことがある。その一つは、冷えたビールが有るかと言うことで、それは早くも北京からの汽車の中で、現実になった。北京から26時間の汽車に乗ると、そこはもう冷たいビールが飲めない世界だった。それでも26時間の旅の間に、生ぬるいビールを3本ぐらい飲んだ。

  汽車の中では、知り合った北京の人から、鳥の足を恵んでもらった。昼の一時ごろ食堂車に行って食事を頼んだら、もうキュウリの炒め物しかないと言う。昼の一時に材料がキュウリしか無くなってしまう食堂車というのも変なものだが、仕方がないのでそれと生ぬるいビールを頼んだ。キュウリの炒め物は、中国の家庭料理ではよく食べる物らしいが、ニンニクで味を付けただけのもので、あまり美味しい物ではない。既に知り合いになっていた、隣で食事をしていた夫婦が、これを見かねたのか鶏の足を恵んでくれた、これもれっきとした料理なのであるが、鳥の足に張り付いている皮だけを剥がしながら食べる料理である。唐辛子で真っ赤な鶏の足を、食べなくては悪いと思って、口の周りを赤い色の油だらけにしながら食べた。色から想像するほどは辛くなかったが、この列車は湖南省行きの汽車であるから、こんな辛い料理が出るのだろうかと思ったりした。このような料理は自分では決して注文はしないのだが。


  汽車で北京から26時間掛かって、吉首まで行って、さらにバスで一時間くらい奥に入って、ようやく目的地の“鳳凰”と言う古城がある町に着いた。ここは湖南省の西の果てで“湘西”と言われるところである。早速夕食を食べる場所を捜さなければならなかったが、
ここは料理を作る大豆油の臭いと、臭豆腐の臭いがふんぷんと漂う町だった。臭豆腐は本当に臭い食べ物で、この辺りではこれを真っ黒に油で揚げて食べる。そしてこんな雰囲気の街では、冷たいビールが飲めないのではと心配がつのった。

街を見物していたら、“落浪者”という看板のある、辺境の地には珍しい西洋風のレストランが在ったのでそこに入った。Barと書かれていたので、ここでなら必ず冷たいビールがあると思って入ったら、確かに冷たいビールがあった。そしてここでは一人でのんびりと食事が出来る。ほかの中国式の店では、丸いテーブルを一人で占用するのは気が引けるし、本来中国料理には一人分の料理などないから、一人の為の食事のサービスがない。それで一人で食事が出来る“落浪者”に三日間も通うことになった。マカロニミートソース、ピザ、トマトサラダ、ピーナッツを炒ったものなどを頼んだ。ここから店の下を流れる沱江の清流が見える。その河を眺めながら冷たいビールを飲んだ。そう言えば中国では一人旅の人にあまり出会わない。

料理は中国化しているせいか、いずれの料理も量が多かった。ビザも量が多かったので、上のチーズが載っている部分だけは全部食べた。ここまで来て何で西洋料理かと言われそうだが、レストランの中国料理よりは美味いのだから仕方がない。しかし西洋人がまだほとんど行かない鳳凰で、ピザや生のトマトサラダなんか誰が食べるのだろうと思ったが、マヨネーズなどチャンとしたものであった。中国人は生ものをあまり食べないが、中国の片田舎でもこう言った西洋風の食べ物を食べる旅行者が増えたのかもしれない。

  ここにはコーヒーもあったのでこれも注文した。コーヒー豆が並べてあったが、インスタントコーヒーしかないとのことであった。中国人でコーヒーを飲む人はそう多くはない。しかし北京辺りではコーヒー店もあるから、コーヒーを注文する人が居るかもしれない。しかしウイスキーとなるとこれを注文する中国人は殆ど居ないのではと思う。ここに赤のスコッチがあったのでこれを頼んだが、誰がウイスキーなど注文するのだろうと不思議に思った。北京でもウイスキーを売っている処は極めて少ないし、外人が行くような処でなくては飲めないのだから。このとき氷を頼んだらチャンと持ってきてくれた。さらにミネラルウオーターを頼んだが、氷は無料で、水は有料だった。もしかしたら鳳凰にも外人が来るようなことがあるのかしれない。

 それにしても“落浪者”のマカロニは硬かった。アルデンテの度が過ぎたのかもしれない。翌日まで顎の疲れが残った。ここのマスターは頭をつるつるに剃り上げていて、頭の一部を尻尾のようなに髪を残している、変わった頭をしている人物であった。日本の熊本大学に留学したと言っていた。こんな辺境の地にも日本語が話せる人が居た。ウエイトレスも何だか他の食堂の娘さんと違って、知的な感じがした。


  鳳凰ではここで食事したほかに、朝は道端に汚いテーブルが並べてある店で、小籠包、又は蒸し餃子、麺を食べた。いずれも2元(30円)でおいしかった。ここでは道端に並べてある椅子がとても低い。何故かこのあたりの椅子はとても小さいのである。一応背もたれもあるのだが、小学生のランドセルに足を付けた位の大きさの椅子である。そしてどの椅子も脂ぎっていた。

料理の辛さが心配であったのであるが、この点については大部分の店で料理を作る時、唐辛子を入れるかと聞いてくれて、指示通りにしてくれるので、問題がなかった。考えてみると、湖南省の料理の辛さと言うのは、漢族の料理の辛さではなかろうか。今回旅行したところは、湖南省と言っても苗族土家族が住む、西の方の辺境の地であった。だから料理はあまり辛くないのかもしれない。

もう一つの心配は、一人で食事するのは不便ではないかと言うことであった。このことに付いては中国のどこでも本当であって、料理を残さず食べると言う条件を付けるともっと難しくなる。中国料理は、皆で食べる宴会料理であるから、一品の量が多くて、一人で残さず食べるなんてことは出来ないのである。それで、中国料理のレストランには行かないことにして、道端の店、夜店や屋台の店などを利用した。これらの店は衛生上の問題があるかもしれないが仕方がない。それにこれらの店は安い。

夜店や屋台の店が無い場合はどうしたか。芙蓉鎮に泊っていたときの事であるが、ここは田舎であるから、夜店や屋台の店など無かった、しかしここのレストラン(とは言えないが)では、指定した通りの味付けの料理が食べられて大満足であった。芙蓉鎮は映画の“芙蓉鎮”で有名になった村である。芙蓉鎮の映画館で映画“芙蓉鎮”を見た後、遅くなってしまったが、食堂に入って料理を作ってもらった。

どんな料理を作って貰ったかと言うと、芙蓉鎮の前の河で採れた貝の料理である。芙蓉鎮の前には、“猛洞河”と言う河が流れていて、透明度3メートルはある清流である。そして堂々たる大河であった。この貝の料理を、実は三回も食べた。一回目は美味しかった。二回目は期待したほど美味くなかった。中国的調味料のせいである。もともと中国料理には貝の料理など少なかったのではと思うが、貝や海鮮料理に中国的調味料は合わないと思う。もっとも中国人にとっては、中国的な味が好きなのであろうから仕方が無いが。中国的調味料と言うと、五香粉とか八角のような味である。

この辺りの店は、料理を作るときに味付けを聞いてくれる。ウエイトレスではなく、お上さんのような人が食堂を仕切っているから、こう言うことが出来るのかもしれない。北京の湖南料理の店のように、黙って辛い料理を出す店と違っていた。調理場を覗いてみると、主人らしき人が調理人で、指定通りにニンニクを刻んでいて、これで言いかと聞いてくれた。この時は三回目の貝料理の注文で、ニンニクと生姜を刻んだものを入れて、醤油で味付けしてほしいと指定した。そうすると豆醤も必要かと聞かれたので、それも入れて貰った。一回目の貝料理は生姜の味がしたが、ニンニクは入っていなかった。これにニンニクを加えればもっと美味しいのにと考えたのである。その三回目の料理が今回の旅行で一番美味しかった。ニンニクの効いたエスカルゴのような味になった。

芙蓉鎮の前を流れる猛洞河では、桂魚と言う魚が名物らしかった。しかしこれは食べなかった。中国の魚料理は、醤油の味ではなくて、唐辛子とか他の中国的調味料を使う場合が多い。四川料理には唐辛子で魚を真っ赤に覆ってしまうような料理もある。そして川魚だから日本人が食べる海の魚より美味しくない。もっと嫌なのは、大体が小骨が入ったままの料理であるから、食べた後で小骨をぺっ、ぺっ、と口から吐き出さなければならない。もっとも中国料理のマナーではテーブルクロスの上に口から小骨を吐き出してもいいのである。しかしこのマナーは国際的には通用しない。

芙蓉鎮の前に流れる猛洞河では川えびも取れる。これを注文した時も味はどうするかと聞かれたので、油で揚げて、調味料は塩だけにしてほしいと言ったら、その通りに作ってくれた。それにここでは魚や貝の料理の値段が安かった。貝の料理も川えびの料理も、20元(300円)位だった。他で食べると貝や魚は海鮮料理だからと言って、とても高いのである。ここでは川で採れるたものの料理と、青菜の炒め物とビールで腹がいっぱいになり、高くても500円位だった。ご飯はただのようであった。そう言えばここでは、沢山の料理を勧められなかった。北京あたりでは、一人で入っても、冷菜はどれにするか、肉はどれがいいか、スープはどうかと、やたらに勧めるところがある。あれはどう言うつもりなんだろうか。一人なんだから食べきれないことは分かっているはずなのであるが。

この辺りは昔(かなり昔のこと)、蛮族が居た土地である。今でも苗族とか土家族が半分以上を占めていて、少数民族が住んでいる所である。こんな辺境の地で料理の味付けを指定して食べたなんて書くと、私がグルメで中国語に堪能なように聞こえるかもしれないが、残念なことにそうではないのである。この辺りの方言はすごくてほとんど分からない。あるときのチャーターしたタクシーのおばさん運転手の言葉は、ほとんど分からなかった。しかしホテルや観光地のレストランなどでは、観光客を相手にするから、どうにか普通語が通じるのである。私の中国語もどうにか通じる程度であるが、普通の中国人は結構方言を理解できるらしい。

グルメの点についても本当は旅行したついでに、各地の有名レストランで、名物料理でも食べてみたいと思うのだけれど、それが出来ない。前にも書いたように中国料理には一人分の料理が無くて一皿の量が多いからである。それに中国料理は結構ゲテモノっぽいものが多くて、高価なものが美味しいとも言えない(高級広東料理なら美味しいものがあるかもしれないが)。中国人が美味しいと言う魚もあまり美味しいとも思えない。それで旅先では、屋台や夜店の料理を食べることになるになる。

張家界市の夜店でも結構ゲテモノが並んでいた。日本なら天然記念物になりそうな動物(ハクビシンの類?)や、ムササビかモモンガー(手と足の間に膜があって、夜空を飛ぶ動物)や、赤裸のウサギなども並べてあった。私が食べたものはゲテモノの類ではなくて、羊肉の焼き鳥(?)、レンコンや野菜を油で揚げたものを注文した。これは目の前に材料があって、調理方法が見えるから、注文しやすい、高級レストランになると料理に勝手に名前を付けるから、名前からでは何が出て来るかなかなか分かりにくい。羊肉の焼き鳥(串焼き)は北京のものの方が、スパイスが効いていて美味しかった。

それから大きな町では、喫茶店風の店を見つけて入った。ここではステーキを真似た牛排と言う料理を食べたが、肉が縮こまっていて、トウバンジャンのようなソースがかかっていた。それに半熟の卵焼きが付いていた。たしか生卵は中国人にとって嫌いなものであった筈であるが、半熟なら大丈夫なのだろうか。私にとっては油まみれの卵焼きよりはいいのだけれど。それでもここでは、チャンと一人分の料理が食べられた。西洋風の店だから一人分の食事が出来るのだろう。

  それでも、すべてが上手く行ったわけではない。食べ残すのは結構気になる方なので、食べきれないほどの料理を注文するのはよそうと思っているのだが、最後の方になって少し失敗した。張家界市の夜店(屋台のような店)では、中国では見たことが無い茗荷(日本の物より赤かった)があったので、珍しいと思いこれを注文して、岩のりと岩たけを一緒にしたようなものもあったのでこれも頼んだ。体によさそうな料理が出来るかと思ったのである。そうしたら、これらのものが山盛りの油炒めが出てきた。屋台のような店だからまさか山盛りは無いだろうと、思ってしまったのである。中国では屋台と言っても、日本の居酒屋風料理とは違うのである。もう一つはタクシーをチャーターして張家界を観光したときのことであるが、昼食の時、店の人の誘いに乗って、ついつい沢山注文し過ぎて、かなりの料理が残ってしまった。これは運転手とその奥さんが一緒について来たので、けちな日本人に見られたくないと、見栄を張ってしまったのが原因である。そしてここは有名な観光地であるせいか、とても高かった。

  とにかく中国の一人旅では、一人でも食べられて美味しい所を捜すのが一苦労である。しかし今回の9日8泊の旅では、グルメが行くような店ではないが、まあまあの店を見つけることが出来て、満足できる旅であった。
始めに心配した、冷たいビールについてであるが、汽車の中以外では問題がなかった。それにしても中国の汽車の食事のサービスは悪い。湖南省の片田舎でも冷たいビールが飲めるのに、何故汽車の中では飲めないのだろう。鉄道が国営であるせいかもしれない

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