たまには苦労話も書いた方がいいようである。日記の話題に旅行や音楽会の話などばかり書くと、中国で優雅に暮らしていると誤解を招くかもしれない。ある人に旅行してきましたと、メールを書いたら、そんな事ばかリ書いて送ってくれるなと言われてしまった。日本の我が家はそれどころではないということであるらしい。
実際は優雅な暮らしなどしていないのである。そこで土足で家に入られる話や、風呂が無いことや、美味い肉や魚が食べられない話など、苦労している話も書いておくことにしよう。
まずは土足で家に入られる話
ここ中国では、設備が故障しやすい事や、室内に水道のメーターがあることから、工事をする人や検針をする人がどうしても室内に入ってくることになる。その時うっかりすると土足の入ってこられてしまう。他の家でもそうしているらしく、私の家の入り口(入り口はあっても、玄関は無い)で、靴を脱いでくれと言うと、かなり抵抗する。水道の検針のおばさんは、どうしても靴を脱ぎたくないのか、「あんたは一人で住んでいるから、10元でいいわ」など言って検針もせず、10元を徴収していった。こちらでは検針人と集金人とが一緒で、検針後に後から料金を請求するなんてめんどくさい事はしない。そんな訳で、私の所は検針もしないで、一ヶ月150円くらいの水道代である。水道のメーターが室内にあるのもおかしなものだが、全てのパイプ類はひたすら、上から下(下から上?)に突き抜けているだけだから、メーターが室内にある事になる。メーターを室外にする為に、パイプを横に伸ばすなどの発想はないらしい。
中国の水道のバルブなどは、直ぐおかしくなって水漏れが始まる。それで何時も修理が必要になる。以前は電線の配線を直して貰ったり、ガス管の工事もあった。そのような時、日本人としては、土足で家に入られるなんてことは、耐えられない事であるから、必ず靴を脱いでスリッパに履き替えることを要求する。大体は靴を脱ぐが、中には靴を脱ぐのが嫌なのか、ビニール袋が無いかと言って、ビニールの袋を靴に被せて入ってきた人もいた。こうしても、靴にビニールを被せたまま、家の内外を出入りするので、部屋の中は埃だらけになってしまった。何故この工事人が出たり入ったりしたかと言うと、外に出て、一階まで水道のバルブを止めに行ったからである。上にも書いたように、水道の配管も上から下に突き抜けているだけだから、私の家だけのバルブが無くて、下までいかなくては、元栓が止められなかったからである。
別の工事のとき、下までバルブを止めに行くのがめんどうなのか、バルブを閉めずに、水圧に抵抗して、ずぶ濡れになりながら部品を交換したこともあった。凄い工事の方法である。この場合、埃だらけにはならなかったが、床が水だらけになった。いずれの場合も工事の後に、掃除をしなければならないことは同じである。こんな所に住んでいると、苦労も多いのである。
他に、カーテンレールを取り替えてもらいたいのであるが、いろいろ考えると気が重くなる。こちらの壁はコンクリートだから、コンクリートに穴をあけると、必ず埃だらけにされると思う。壁に釘を打って絵でも掛けたいのだが、埃だらけにされないで、壁にくぎが打てるのだろうか。そんな訳で、今でも私の部屋の壁は、殺風景のままである。
次に風呂が無い話
北京辺りでは風呂の普及率はどの位なのか分からないが、一般の家庭に殆ど風呂は無いのではなかろうか。勿論ホテルにはある。最近は新しい高級マンションが、続々と建設されているが、そこには風呂があるのかもしれない。ここで言っている風呂とは、浴槽のある風呂のことで、シャワーのことではない。シャワーは結構あるようである。私が住んでいるところにもトイレの片隅にシャワーを浴びる場所がある。排水はタイルが剥がれたような隙間に吸い込まれていく。水漏れしているわけではなくて、これが排水口である。
その場所も問題であるが、お湯の温度の調節が又問題なのである。トイレからドアを二つ隔てた狭い台所に、ガス湯沸し器があって、そこまで行かないと温度の調節が出来ない。換気扇は、更にもう一つドアの向こうのガラスで囲ったベランダにある。ガス湯沸し器も換気扇も一度スイッチを入れたら、操作の必要がないかというと、そうはいかない。何故かお湯の温度が自動的に熱くなったりするから、時々ガス湯沸し器があるところまで行って調節しなければならない。換気扇も付けっぱなしにしておくと、換気口から埃っぽい空気が逆流するから時々止めなければならない。しかし回さなければ中毒になる恐れもあるから、トイレの片隅から飛び出して、ガス湯沸し器を調節したり、換気扇をつけたりしなければならない。裸のままあたふたする姿は我ながら滑稽な姿である。
そんな訳で、シャワーを浴びるが簡単ではないので、ついつい面倒くさくなり、週一回位しかシャワーを浴びないことになる。その代わりと言うことでもないが、久しぶりに浴びるシャワーでは、皮が一枚剥けたように垢が落ちてさっぱりする。
シャワーで困ることは、シャワーではなかなか体が温まらない事である。風呂に入る目的は清潔にするだけではなく、体を温めることにもあるから、シャワーでは都合が悪いのである。風呂に入る目的が温まりたいことであることは、風呂に入らない中国人には、なかなか理解できないかもしれない。シャワーでは体が温まらないだけでなく、冷えてしまう。
シャワーを浴びるときの秘訣として、ある人から教えて貰ったことがあるが、先ずバケツに熱いお湯をいれて、そこに足を入れて暖めながらシャワーを浴びると冷えないのだとか。実際に試してみると確かに効果があった。教えてくれた人は北京にいる日本人で、風呂が無いところに住んでいる人がであった。やはり北京には風呂が無くて、苦労している日本人がいるようである。
美味い肉や魚が食べられない話。
肉が無いわけではなく、豚や牛肉はどこでも売っている。美味しい肉が食べたいと言っても、霜降り高級肉が食べたいわけではない。カレーライスに使う程度の筋の入っていない薄切り肉が食べたいのである。それがなかなか手に入らない。以前の肉の売り方は、戸板に肉の塊を載せたような状態で、肉の塊から一部を切り取って、量って貰って肉を買う方式であった。その肉には脂身も、筋も混ざってしまう。最近はスーパーなどで、パックに入った肉が売られるようになった。それでも薄切り肉は無い。中国では薄切り肉の需要が無いらしい。大体肉をぶつ切りにして使うので、肉を切り分ける技術もあまり無い。中国では脂身も筋も商品である。中国式しゃぶしゃぶ用の冷凍薄切り牛肉は有るが、これは筋だらけ。しゃぶしゃぶといっても日本のとは料理も肉も違うものである。
カレーライスを作るのに、筋がタップリ混じっている薄切り肉では、日本から持ってきたカレールーが勿体無いし、不味い。北京ではSOGOなどで美味しい薄切り肉を売っていることは売っている。しかし夏などであると、家に持って帰るまで、腐りそうでなかなか買えない。SOGOから家までは一時間以上掛る。今は冬だから先日これを買ってきた。しかし作る時間が無いので、冷蔵庫の中に入れておいたら少し変色しだした。慌ててカレーにしてこれを食べたが、腹が痛くなることも無く美味しく食べられた。腐る前の肉は美味しいいと言われるが、本当に美味しいカレーライスが出来た。腐る寸前の肉でも、美味しい肉は、ここでは貴重な肉であると言うことである。
魚の刺身も焼肉も、北京の中心部にある日本料理屋に行けば食べられる。しかし材料を買ってきて料理しようとすると、海の新鮮な魚は殆んど無いし、薄切りの美味しい肉は、中々手に入らない。もしかしたら肉を薄く切って料理に使うのは、日本だけの習慣かもしれない。中国では、羊の肉を薄切りにして、しゃぶしゃぶにして食べるが、あの薄切りにする機械は、日本人が発明した物ではないだろうか。
他にも、オンボロバスに乗って通勤する話など苦労の種は尽きないが、今回はこの辺で。
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