このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

音楽会

  中国に行けば、中国音楽の本物の音楽会が聴けると考えていたのであるが、中国に三年以上も滞在していて、入場出来た音楽会はたった三回の音楽会にすぎなった。音楽は好きだったから、かなり熱心に注意して探したけれど、結果はそのその程度であった。音楽会が極めて少ないのである。新聞などでも音楽会の広告は全く見かけ無かった。聴きに行くことの出来た音楽会の切符は、そのいずれもが中国式人間関係によって入場券を手に入れたのであって、料金を払うことがなかったのが中国らしいと言える。

  中国で初めて聴いた音楽会は、春節の催し物として、大学生や職員向けに大学が開催した音楽会であった。あるとき大学の正門の掲示板に、真っ赤な紙に墨で書かれた音楽会開催の張り紙が在るのに気が付いた。何故か中国での連絡や通達は、かなり突然と感じたものであるが、この場合も、気が付いたのは音楽会の当日か前日のことである。たまたま通り掛かりった知合いの大学の先生に、その頃殆ど通じなかった中国語で、"音楽会、音楽会"と言ったら、意志が通じらしく、音楽会の切符を届けてくれた。この音楽会は吉林歌舞団の公演で、中国の民謡や、中国の少数民族の踊りの他に、イタリア民謡の"オーソレミヨ"が"我的太陽"と言う名前で歌われたりした。西洋の民謡などは中国でも結構知られているらしい。日本でも音楽の教科書で西洋音楽が広がったとのと同じ事情かも知れない。結構面白かったが、大部分の人がひまわりの種をプチプチ割りながら、その食べ滓を床に吐き出しながら、おまけにおしゃべりをしながら音楽を聴くのであるから、騒々しいことおびただしかった。

  二回目に入場出来た音楽会も同じく吉林歌舞団の公演で、次の年の春節(旧正月の休暇)のお祭りとして、市政府が招待客の為に開催したものであった。この音楽会の入場券は、吉林テレビ放送局の副局長の娘の旦那さんが同じ会社に居たので、切符を手に入れることが出来た。
この音楽会の内容は一年前に見たのと同じ様であったが、ひまわりの種を食べながらではなくなったところが、前回と違うところであった。何故そうなったのか、禁止令でも出たのか、場所によって制限があるのか聞き忘れた。

  中国の音楽会は、入場券を購入して入る音楽会は殆ど無くて(1995年頃の吉林市でのこと)、かって解放軍が歌や踊りで慰問した様に、団体(単位)が歌舞団を招いて開催する形式が多かった。後になって気が付いたことではあるのだが、やはり無料の音楽会であるせいか、その解放軍の慰問制度の名残か、何がしかのプロパガンダ、つまり政治的宣伝の臭いが未だにするように感じた。少数民族の歌や踊りが多いのは、中国政府が少数民族と仲良くやっていることを示しているようにも見えたし、"オーソレミヨ"を朗々と歌い上げる歌い方は、明るい中国の未来を象徴しているようでもあった。歌唱法は朗々と歌い上げる歌い方か、京劇風の頭のテッペンから声が出る歌唱法であった。中国人の声量の有る、正統的歌い方も、それはそれで心地よいのであるが、やはりホンネを歌った歌が少ないのは、物足りなかった。その頃テレサテンの歌はテレビでは演奏されていなかった。多分放送禁止であったかもしれない。

  三回目の音楽会は、かなり知恵を絞り、切符の入手可能なルートを探して、やっと音楽会の切符を手に入れることが出来た。そもそもの発端は、我が家が在る佐倉市で、日本在住の中国人演奏家の演奏会があり、その演奏家のグループが中国の吉林に行く予定が有ることを、演奏会で話していたと、妻が手紙に書いてきたことによる。せっかく中国に居るのに、二胡や、楊琴は聴いたことがなかったので、是非とも中国の伝統的楽器の演奏を聴きたいと考えた。しかしその頃には吉林テレビ局のルートは無くなったっていた。吉林と言っても吉林省に来るのか吉林市なのか定かではなかったし、新聞に広告が出ないことも予想出来た。そこで思い付いたのが、外国から人が来るのであれば、必ず市の外事弁公室と関係があるだろうと考えて、そのルートを辿ったのである。大学の日本語の先生の奥さんがそこに勤めていると以前に聴いたことがあったので、その先生に頼んだところ、巧い具合に予想が当たり、この場合もただで入場券を手に入れる事が出来た。

  余談になるが中国には、市や大学、大きな企業には必ず外事弁公室が有り、外国との折衝やそこを訪れる外国人の面倒を見てくれるのであるが、日本には無い組織である。何故中国にはこの様な特別な組織(入国管理や滞在許可の仕事とは別の仕事をする)が必要なのか詳しく聞いてみたいことの一つであるが、今はその話題ではない。

  話題を元に戻すと、その音楽会は、日本人孤児を育ててくれた中国の養父母に、感謝する為の音楽会であった。日本からの演奏家(俳優の石田純一のお姉さん)一行と中国楽器の演奏家との演奏であった。確かに前列に、それらしい養父母が少しはいた様であったが、大部分はコネによって入場券を手に入れた人のようであった。

  今日本に戻り、中国の音楽会の様子をたまにテレビで見ることがあるが、拍手もしないで、見ている人が映ると、あの人はあまり音楽が好きでもないのに、コネで切符を貰って音楽会に来た人かななどと想像してしまう。この三回目の音楽会でも、聴衆の方は相変わらずおしゃべりしながら演奏を聴くので、相当騒々しかった。一緒に行った中国人は、この方が楽しくてよいと言っていた。確かに音楽を楽しんでいるようではあったが、音楽を楽しむだけでなくおしゃべりも楽しむのが中国式であるらしい。

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