このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

中国の火事

  中国の火事は相当恐ろしい。私が住んでいる近くでも大火があり、その火事のすざましさを見ることになってしまった。一つは吉林市の博物館の火事で、深夜から朝まで延々と5、6時間も燃えた。その後まもなくして、私が住んでいる大学の構内でも大火があり、ここでも朝から4、5時間は燃え続けた。大火になる原因は消火設備などが貧弱な為で、燃え易い物が燃え尽きるまで燃え続けるからである。大学の火事は、男子学生寮の二階の中央部で出火したのだが、両側に在る防火壁迄の全てを燃やしてようやく鎮火した。近くに消火栓や河は無いので、遠くまでタンク車が何回も水を取りに行き、断続的に水を掛けていたが、そんな消火方法では、火災はとても消えるものではなかった。

  中国の火事が恐い理由はこれだけではない。中国ではやたらに鍵を掛けまくるのである。中国では防犯上の問題があり、鍵をかけることはやむを得ない事情もある。しかしもう一つの理由は入り口の鍵を持っている人物が、鍵を持っていることを自分の特権と考え、自分の留守中でも他人にその鍵を預けないことである。つまり鍵を開けられる権限は自分にしかないと思っているので、他人に鍵をあづけない。そん結果自分の留守中に事故があった場合、他の人では扉を開けられないので大事故になってしまう。

  鍵は中国では一種の権力のシンボルでもあるようで、責任者は腰にジャラジャラと鍵の束をぶら下げている。隣の部屋に住んでいるアメリカ人も、あの鍵は"シンボルオブパワー"と言っていた。彼の目にもそう見えたに違いない。鍵は権力の象徴であるから、鍵は滅多なことでは他人に渡さない。鍵以外の場合でも、その権利とか仕事とかを他人に任せる事が少ないように思う。多分日本の会社等であれば、留守の間は、他の人が補い合うような組織になっているはづである。その上中国が日本と違うところは、担当者が何となく仕事場を離れてしまうことが多いように思う。そして行き先や、帰る時間が余りハッキリしていない。このようにして中国ではやたらに鍵を掛けまくる上に、非常時に合鍵を持っている人が近くに居ない状況が有り得るので、恐ろしいのである。

  その後注意してニュースを見ていたら、この様な心配が本当になって、大事故になった火災が中国各地で続いて起こった。その一つは劇場の様な所で学校の行事が在り、責任者は鍵を掛けたままどこかに行っている間に火災が発生し、100名以上の生徒が死亡してしまう事件があった。他の場所でもやはり同じ様に逃げ口が無いまま、閉じ込められて大勢の人が焼け死んだ事件があった。生徒が死んだ事件では、責任者は死刑になるとの噂であった。可愛い子供(中国では多くの場合一人っ子でもある)が大勢過失で殺されてしまったのでは、死刑にでもしなければ納まらないとの話も聞いた。完全な法治国家ではない中国では有り得る話である。

  本題の火事の話しに戻すと、大学の男子寮の火事では、犠牲者は一人もでなかった。朝方の火事であるので本当に幸いであったのである。中国では防犯の為に、一階の窓は鉄格子が嵌め込んであるし、非常口は閉まっていたであろうし、閉じ込めれれる可能性は十分にあったのである。火災の後の学院長の再発防止の為の指示は、非常口に鍵を掛けるなと言うものであった。だけれど中国の実状からするとこの指示はそう長くは守られないのではないかと思った。防犯上の問題と、中国人は鍵が好きな為である。

  博物館の火災は深夜でもあったので、犠牲者が出た。この火事はミステリーじみていた。天を焦がすほどの大火であったにもかかわらず、翌日も翌々日の新聞にも報道が無いのである。その次の日位になって、全市の防火責任者を千人以上も集めて、火災再発の指示を出す集会があったとの記事が小さく出ていた。火災の規模も原因も、死者が出かことも書いてなかった。不幸にも起きてしまった事故を参考として、教訓を垂れるという手法は、中国ではよくあることである。日本では全く考えられない報道の仕方であった。街の噂だけが流れて、それにようると出火元は博物館に隣接するナイトクラブからとの事であった。このナイトクラブの存在そのものが、事情をよく知らない外国人の私でも怪しげなのである。

  この建物は、毛沢東が片手を挙げて立つ銅像が在る広場に在って、その後方に大きな風格の在る建物であった。建物の向かって左は博物館、右は図書館となっており、その中央部が何故かナイトクラブに改造されていた。公共の建物に相応しくない、ケバケバしいナイトクラブが有るのは、何かいわく因縁が有りそうであった。火事の原因に付いて吉林市の新聞は何も報道をせずにいたが、そのうち中国中央テレビの知るところとなり、特集番組として数々の不審な点が報道されてしまった。この事により、吉林市でも隠し通すことが出来なくなったので、少しずつ真相が明らかになってきた。やはり市の幹部がこのナイトクラブの設立に絡んでいて、風格のある建物の中央部を借りて私的な投資を始めたらしかった。建設に当たっても幹部の圧力によって、当局の電気設備の不備の指摘を逃れて、不備なままで営業していたらしい。火事の原因は漏電だとか、恨みに因る放火、果ては喧嘩が原因とかいろいろ噂があったが、私には本当のところはついに解らなかった。

  博物館は吉林市の貴重な観光資源であり、図書館は市の貴重な資料を保管している中央図書館であったのだが、博物館ではハルピンから借りていた恐竜の化石が、図書館では古い書籍などが灰にとなってしまった。

  驚いたことに中国では焼けた建物も結構再生が利くのである。中国の建物はレンガで出来ているから、天井や窓が無くなっても壁は残る。大学の寮の方はあれほどの大火でありながら、二ヶ月後には元通りに学生が住めるように修復出来た。博物館の方も修復するつもりで建物を残していたが、金が無いらしく天井と窓抜け落ちたまま、無残な姿を曝していた

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください