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韓国の鉄道事情

1.KRパス始末記

 韓国の交通費は激安である。なにせソウル−釜山間が特急セマウル号で、程度である。その激安をさらに激安にしてくれる切符が「KRパス」である。

 KRパスを使えば韓国国鉄全線(ソウル近郊の電車線除く)を乗れるだけでなく、セマウル号やムグンファ号の指定席も使えるのである。有効期間は3・5・7・10日間がある。

 KRパスについては

http://www.tadaima.com/korail/krpass/

に詳しく説明されており、私も訪韓前に随分参考にさせていただいた。従ってKRパスそのものについての説明はそちらを参照していただくことにして、ここでは主にその利用実感について記しておく。

(1)入手方法

 KRパスはまず国内でバウチャーを買って、それを韓国でKRパスに引き換えるシステムを採っている。バウチャーはJR九州「ジョイロード」で入手できる。私は東京・須田町のジョイロード東京支店で入手した。店にはKRパスのパンフレットも置いてあり、店員もテキパキ対応してくれた。買ったのは3日間用で、5,210円。セマウル号でソウル−釜山を往復するだけでいきなり元が取れてしまうのだ。

 気をつけなければならないのは、入手にパスポートが必要なことだ。私は鉄道切符を買うのにパスポートが入るとは夢にも思わなかったので、2度足を踏む羽目になった(^^;

(2)利用実感

 KRパスの最大の欠点は、韓国国鉄駅員にその存在があまり知られていないことだ。これは非常に辛かった。

 そもそもソウル駅2階の総合案内所(写真)でバウチャーをKRパスに引き換えようとしたら、案内嬢がKRパスの存在を全く知らなかった。残念ながら日本語のできる人がおらず、英語での説明になったのが混乱に拍車をかけた(^^)のだろうが、その案内嬢では全く埒があかなかったのだ。

 諦めて他の案内所を探そうとしたら、他の人に事情を聞いてKRパスのことがわかったのか、件の案内嬢が後ろから追いかけてきた。ともかくなんとか引き換えに成功したが、外国人が最も多く訪れるはずのソウル駅でこの調子だから、田舎の小駅での利用には十分注意されたい。

 KRパスでセマウル号やムグンファ号に乗れるのだが、韓国の列車は原則座席指定なので、KRパスを持っていても切符(右写真)を発行してもらわねばならぬ(発行は無料)。ソウルではKRパスの引き換えと同時にポハン(浦項)行きセマウル号の座席指定も受けたので楽勝だったが、プサンではモッポ(木浦)行きムグンファ号の発券にやや手間取った。

 さらに悲惨だったのはモッポ。窓口氏は全くこの切符を知らないようで、奥にいたエリート然とした若い駅員(駅長か?)を呼ぶテイタラク。エリート君はさすがにこの切符を知っていて、若干英語で問答した後自らソウル行きセマウル号指定席を発券してくれた。

 なお、全車自由席のトンイル号にはKRパスを提示しただけで乗れるようだ。ポハンからプサンへのトンブナンヘ(東部南海)線のトンイル号はそうやって乗った。但し、浦項駅の窓口氏もKRパスを見たことがないようだったので、これが正しい扱いなのか、便宜的な扱いだったのか定かではない。

 またソウル駅の案内嬢は、使用前に駅員にコンファームを受けろと言ってくれたし、確かにパスにもそのように書いてあるのだが、実際はそのようなものは一切要求されなかった。

 せめて自社の駅員向けにKRパスの説明をハングルで券の裏にでも書いておけばいいのに、こういうものに限ってハングルが一切ない。旅行者泣かせの困った切符である。韓国国鉄に抗議のメールを打つ所存だ(英語で通じるかなァ・・・)。

<ソウル駅><プサン駅>
<テージョン(大田)駅><ヨス(麗水)駅>

2.車窓にて

 今回の旅行では

・キョンブ(京釜)線     ソウル−プサン(全線)
・チャンハン(長項)線    チョナン−オニャンオンチョン
・ホナム(湖南)線      ソーテジョン−モッポ(全線)
・チョンラ(全羅)線     イクサン−ヨス(全線)
・キョンジョン(慶全)線   サムナンジン−ソンジョンリ(全線)
・テグ線           トンテグ−ヨンチョン(全線)
・チュンアン(中央)線    ヨンチョン−キョンジュ
・トンヘナンブ(東海南部線) プサンジンーポハン(全線)

と乗ってみたが、この辺の区間の印象は一言で言えば「退屈」に尽きる。

 市街を抜けると、いきなり田んぼと高くもなく低くもないなだらかな山々が入り混じる田園地帯を延々と走るのだ。日本で言えば一日中姫新線や芸備線に乗っているようなものだ。

 渓谷もない。ランドマークとなるような高い山もない。海が見える区間もほとんどない。川沿いをのんびりと走るわけでもない(プサンを抜けた時の洛東江が唯一の例外か)。おまけに自動車社会の割には街の広がりが狭く、道路沿いにも目だった看板や店がない。いわゆるロードサイド店みたいなものが全然ないのだ。田園地帯を延々と走ってはいきなり高層マンションが林立する都会に突入することの繰り返しになる。

 中央線あたりの山岳地帯へ行けばまた違うのだろうが、韓国国鉄乗りつぶしを始めるにあたって少々気勢を殺がれた感は否めない。

3.韓国鉄道雑感

<セマウル号>

<ムグンファ号>

 韓国の改札は非常に厳格な列車別改札を採っていて、一昔の北海道を思い起こさせる。改札はだいたい発車15分前。ソウルでは改札のかなり前から乗客が列を作っていたが、田舎ではそんなこともなく、改札間際に三々五々人々が集まってくる。

 韓国で気をつけないといけないのは「横入り」。隙あらば割り込んでくる文化のようだ。切符売り場で、コンビニで、いたるところで謙虚な私(^^;は痛い目にあった。改札時には前の乗客をぴったりマンマークされたい。
 
 昔ながらの低いホーム。老人が列車に乗り込むには一苦労だろう。なお、ホームが低いためか、車販のワゴンは軽トラックで運ばれてくるようである(右写真)

 そういえば韓国は横断歩道が少なく、どこもかしこもでかい道路を地下道で渡るようになっている。エレベーターやエスカレーターはおろか、スロープもない。まだまだバリアフリーの思想が普及していないようだ。老人を大切にするお国柄ではあるが、いうこととやることは別である。

 韓国国鉄の誇るセマウル号にも何度か車した。車内設備は確かに立派で、日本は遠く及ばない。標準軌でしかも2×2列シート。ヘッドレストも深めで、おまけにフットレストも付いている。さらに車種によってはカラー液晶パネルがついていて(写真参照)、航空機のようにビデオが楽しめたり、車内案内・停車案内が流れたりする。車内放送は韓・英・日・中の4本建てだ。

 ワンランク落ちるムグンファ号でも車内設備は日本の在来線特急と大差ないし、鈍行のトンイル号ですら転換式クロスシートだった。やや老朽化した感じは否めないものの、車内設備に関しては日本並みかそれ以上といっていいだろう。

 ところが、残念ながらスピードがない。最も速いソウル−釜山間のセマウル号でも日本の在来線スーパー特急ほど。湖南線や全羅線に入るセマウル号だとスピードはガタッと落ちる。そのため、地方都市へ行くセマウル号は同区間の高速バスに比して所要時間に差がなかったり、甚だしきはバスに抜かれたりする。車内はゆったりとはしているが、本数に差がありすぎて乗客はバスにどうしても流れてしまうのだろう。

 湖南線では線路改良や複線化工事を見かけたが、残念ながら韓国経済の成長スピードに比べて鉄道は著しく立ち遅れている印象を受けた。

 セマウル号には車販が常務している。セマウル号だけかと思ったら、ムグンファ号はおろかトンイル号にも車販はいた。車販はいずれも男性である。日本の感覚だとなんかむさ苦しい車販オヤジだが、考えても見れば始終重いワゴンをゴロゴロ押して回るのだから相当な肉体労働のはずで、男性が担当していても不思議はない。

 逆に韓国の駅窓口に女性が座っていることは珍しくない。日本しか知らないと違和感がある光景だが、他の国の鉄道を見るといろいろ勉強になる。だいたいサービス業というのは国際的に競争することがまれなので、他国の良いところを採り入れようという発想が出にくいものだ。

 なお、セマウル号には女性乗務員がいることもある(写真)。役割はよくわからないが、着席状況のチェックをしているようであった。

 車販にはいろいろなパターンがあったが、整理すると次のようになる。

(1)飲料中心のワゴン
(2)コーヒーだけの小ワゴン
(3)弁当
(4)沿線のお土産

 残念ながら弁当はなんと1種類しかなかった。プサン→モッポのムグンファ号では「プサンキムバプ」。モッポ→ソウルのセマウル号では、なんだか良くわからないが韓国版幕の内弁当みたいなものが出たが、1種類しかないのはなんとも寂しい。もっとも幕の内弁当のほうはご飯がホカホカだったのは嬉しい配慮。連結されている食堂車で調製したものと思われる。

<プサンキムパブ>

<韓国風幕の内弁当?>



 笑ったのは始発駅なのにホームと反対側のドアが開いていること。この辺が韓国の「ケンチャナヨ(気にすんなよ)」なんだろうか(笑)



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