このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

アメリカ鉄道の旅

●アムトラックで旅をしよう!
  アメリカ国内の移動手段といえば、一般的なものはレンタカーか飛行機ですが、時間にゆとりのある人にぜひ体験してほしいのが、長距離列車の旅。アメリカでの長距離旅客鉄道輸送を一手に引き受けているのが、半官半民のアメリカ鉄道旅客公社NRPC National Railroad Passenger Corporation 、通称アムトラックAMTRAK です。3両も4両も連なった機関車が新幹線以上の巨体を引き連れ、時速100マイル(およそ160キロ)ものスピードで大地をひた走る姿は壮観そのもの。誰にでも体験していただきたい旅の姿です……と書きたいのですが、実はそうもいきません。というのも、いくら時速160キロで走ろうとも、広いアメリカ大陸のこと、横断するのに4日もかかってしまうのです。さらにアメリカの鉄道は貨物優先で、長距離列車は遅れることもしばしば。そして何より、アメリカは航空輸送の天下。アムトラックの旅は、単なる移動手段としてだけでなく、鉄道旅行そのものを楽しむために存在していると言っても過言ではありません。忙しい日常を忘れ、ゆっくりのんびり旅をしたい、そんな人にはおすすめです。ただ、シカゴとニューオーリンズを結ぶ路線(アムトラックは、この路線を境に東部と西部に区分されます)より東側はビジネス客が多く走行距離も比較的短いため、アメリカ鉄道の旅を楽しむには西部しかない! というわけで、ここではアメリカ西部の長距離列車を紹介したいと思います。

●どこを走っているの?
  残念ながら、アムトラックの路線網は飛行機ほどきめ細かくありません。とはいっても、観光客が訪れる都市にはたいてい、アムトラックの列車か連絡バスのどちらかが乗り入れています。アムトラックの中心地(ハブ駅)はシカゴで、ここから西部、東部、近郊に向け多数の列車が走っています。

アメリカ西部のアムトラック運行図

線の色

列車名所要運行便数備考

コースト・スターライト号 Coast Starlight1泊2日7本/週 

エンパイア・ビルダー号 Empire Builder2泊3日7本/週 

カリフォルニア・ゼファー号 California Zephyr2泊3日7本/週 

サウスウェスト・チーフ号 Southwest Chief2泊3日7本/週 

テキサス・イーグル号 Texas Eagle ※11泊2日7本/週 

サンセット・リミテッド号 Sunset Limited3泊4日3本/週オーランドまで運行

シティ・オブ・ニューオーリンズ号 City of New Orleans1泊2日7本/週 

  ※1 テキサス・イーグル号:表内のデータはシカゴ−サンアントニオ間運行の場合。サンセット・リミテッド号運行日はロサンゼルス−サンアントニオ間併結運転、3泊4日。

●駅の設備
  まず大都市の駅では、チケットカウンターや広い待合室、手洗所、売店などのほか、コインロッカーか観光案内所があるところもあるなど、設備は充実しています。日本と大きく違うのは、改札機がないということです。切符は直接、駅員または列車の客室案内係に見せることになります。また、西部の駅はそれほどでもないのですが、アメリカの鉄道駅は都市のなかでも比較的治安の悪いところにある場合が多いので、タクシーやバスなどを利用していくのがいいでしょう。逆に地方の小さな駅では、ひどいところになると駅舎とホーム以外なんにも(駅員も)ないということもあります。そういう場合には、車内で切符を購入しましょう。本来であれば切符なしでの乗車はペナルティ(追加料金)を取られてしまうのですが、駅員がいなくて切符も販売していない駅からの乗車の場合には、ペナルティは取られません。

デンバー駅

コロラド州デンバー駅のチケットカウンター。

●車内の設備
  アメリカ西部を走る長距離列車は、アムトラック自慢の全2階建て車両スーパーライナーで編成されています。客室は2階を中心に構成されていますので、ダイナミックな眺めを楽しむことができます。車内は大きく分けて、座席車、寝台車、食堂車、ラウンジカー、荷物車に分かれます。座席車は2階にあり(ごく一部が1階)、フットレストやレッグレスト、読書灯が備え付けられていて夜には枕のサービスもあるなど、新幹線のグリーン車よりもグレードの高いサービスが提供されています。シートピッチもアメリカンサイズで文句ありません。シートも深く倒れますので、1泊くらいなら十分ではないでしょうか。
  寝台車のタイプは4つ。スタンダードデラックスファミリースペシャルと分かれますが、ファミリーは4人用、スペシャルは身障者1人用、他は2人用です。寝台は全て個室で、1階と2階に配置されています。昼間は座席として使用できるほか、夜になると客室案内係がベッドメイキングにやってきてくれます。寝台料金は決して安いわけではないのですが、食堂車での食事が無料になる(チップは別!)ほか、ラウンジカーでの寝台客専用ホスピタリティタイムもあり、長距離を乗る際には利用してみるといいでしょう。
  食堂車は……説明はいいでしょうか。最近日本ではなくなりつつあるのが少し寂しい気もします。飲食料金は高くありません。それにボリュームもたっぷりなので、満足できるはずです。
  ラウンジカーは食堂車の隣にあって、天井までのびる大きな窓から雄大な景色を眺めることのできる憩いの場所。客室の窓は色ガラスなのですが、ラウンジのガラスは透明ですので、景色を撮るのにもいいでしょう。それから、ラウンジにいる客の多くはおしゃべり相手を求めていますので、勇気を出して話し掛けてみては? きっと会話もはずむことでしょう。
  最後に荷物車ですが、もちろんここはお客が乗るスペースではありません。しかし、大きな駅では飛行機と同じようにチェックイン荷物を取り扱っていて、客室では身軽に過ごすこともできます。ただしたまに荷物の紛失などの事故があるので、極力持ち込むことをおすすめします(2つまで持ち込むことができます)。

草木と線路だけしかない大地をひた走ります

今はなき「デザートウィンド号」。コロラドの大地を走る。この列車はシカゴ−ロサンゼルス間をデンバー経由で結んでいました。

●予約の取り方
  長距離列車の寝台車と座席車の予約は乗車の11ヶ月前から受け付けています。もしアメリカに住んでいるのであれば、駅に直接出向いて予約をするか、地元の旅行代理店に頼むことができるのですが、日本で予約をする場合にはそうもいきません。日本の旅行代理店でも受け付けている店があるにはあるのですが、どうしても日数がかかってしまいますし、店舗数も決して多くありません。日本から予約をするのに一番現実的な手段は、インターネット+クレジットカード)による予約でしょう。アムトラックのウェブサイトでオンライン予約を受け付けていますので、そこで取ってしまうのが最も早い方法です。また、英語に自信のある人は、アムトラックの予約受付電話に電話をかけて申し込むのも一つの方法です。一つだけ言える事は、とくにシーズン中(夏休み、感謝祭、イースターなど)に乗車しようとする場合、渡米してから予約しようとしていたのでは席は取れないだろうということです。

西部の鉄道はそのダイナミックな眺めが魅力

コロラド川とともに太平洋を目指します(コロラド州内にて)。

●列車の遅れは……
  アメリカの鉄道でよく言われるのが、「よく遅れる」ということです。残念ながらこれは事実で、1時間程度の遅れは日常茶飯事、運が悪いと6時間以上の遅れということも、ないわけではありません。理由も様々で、悪天候、貨物列車の増発、急病人、故障、事故などなど。1時間程度の遅れではアムトラックも責任を負ってくれませんので、もしアムトラックを乗り継ぐ際には十分な余裕(半日以上が理想)を持ってください。またアムトラックで朝着いてそのまま帰国便に乗る、というプランは、帰国便に乗れる保証がありませんので、決してなさらないように。もし大幅な遅れが生じた場合には、アムトラックが宿泊費などを負担してくれる場合もあります。

お疲れ様! 終点です

ロサンゼルス駅。ここからは近郊列車も数多く発着しています。

●その他
  チップは客室案内係と食堂車において必要となります。食堂車のチップはレストランと同じ程度、客室案内係には座席車の場合1泊2ドル、寝台車の場合1泊5ドルくらい。機関士や車掌に渡してはいけません。
  車内は禁煙・禁酒です。喫煙はラウンジ下の喫煙コーナーかホームで、アルコールは食堂車で。

●情報の入手
  日本の鉄道の時刻表には、当然のことながらアメリカの鉄道の情報は掲載されていません。アメリカの鉄道の情報を入手する方法として、最も役に立つのはアムトラックの公式サイトでしょう。列車の運行状況、予約状況から駅案内、様々な割引チケットまで、あらゆる情報が公開されています。ここではチケットの予約もできるので、アムトラックの利用を考えている方は一度訪れてみてはいかがでしょうか。
  アムトラックの時刻表は、列車別のものが現地の駅においてあるくらいで、アムトラックが独自に全米時刻表を発売しているとありません。そのかわり、イギリスの大手旅行会社であるトーマスクックThomas Cook が、全世界の時刻表を編集・発売しています。赤い表紙のヨーロッパ版と、青い表紙のその他地域版に分かれていて、アメリカはその他地域版に掲載されています。大きな書店や洋書店などでは比較的容易に手に入りますし、最近では少し小さめの書店でも見かけるようになりました。年に4回発行されていますので、最新版を携帯されることをおすすめします。


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