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これはYahoo! Japan のニュースのページで見つけたものです。元々は毎日新聞に載っていたものだと思われます。

1999年12月21日(火) 16時25分

<夕刊特集>サンタクロースはどこから来るのか(毎日新聞)

「サンタクロースは、どこから来るのだろう?」。ずっと前から不思議だった。「何をばかげたことを」と大人の理性は笑うが、どうもこの季節になると、子供時分から疑問がうずいて仕方ない。とにかく、北国にあるというサンタの村に飛んだ。 【ロバニエミ(フィンランド北部)で森忠彦】

フィンランドの首都ヘルシンキから空路1時間余り。厳寒のラップランドにあるロバニエミは、一面の銀世界。まだ午後2時すぎなのに、もう暗い。気温は氷点下20度を割っていた。

この町外れを走る北緯66度33分の線上、つまり北極圏の入り口に、欧州ではすっかりおなじみになった「サンタクロース村」がある。昨年暮れには子供向けのテーマパーク「サンタ・パーク」がオープンして、クリスマス前のこの時期だけでなく、一年を通して50万人が訪れる一大観光地になった。

「ラップランドにサンタ伝説があることから、14年前にサンタ村を開いたのですが、予想以上のヒットです。この季節、ラップランドの収入の7割がロバニエミ周辺で、その中心がサンタ観光です」と、サンタ村情報センターのマリア・セリンさんが言う。

ラップランドの伝説では、サンタはロバニエミの北東200キロのロシア国境にある「コルバトゥントゥリ」という標高483メートルの耳の形をした山に住む。もともとフィンランドには「ユールブッケ」という精霊が冬至の日にトナカイに乗って子供たちにお菓子を配る風習があって、それがサンタに変わったともいわれる。

以下、セリンさんによると「サンタは年齢400歳。子供たちの願いを聞いてくれる耳の山にある家は誰(だれ)も見たことがなく、私生活はベールに覆われています。サンタは毎日午前9時前、村にある事務所に来て、訪れた子供たちとお話をします。サンタは、どんな国の言葉でも自由に話せます。夜は世界中の子供たちへの手紙を書くので大急がし」なのだそうだ。

サンタにかかわる伝説は多いが、通説では4世紀に小アジアのミュラ(現トルコ南部)に住んでいた聖(セント)ニコラ(ウ)スという司教に起因するようだ。彼は貧しい人たちに金品を与え、聖人として奉られるようになった。

この聖ニコラスを祝う習わしは、まずギリシャ正教会で広がり、10世紀ごろには西欧へと伝わった。オランダやベルギー、ドイツ、フランスなどでは今も12月6日を「聖ニコラスデー」として祝い、前夜は子供たちがプレゼントを期待して夢みる。ここらではクリスマスよりも盛んなくらいだ。面白いのは「司教姿の聖ニコラスは黒人の少年をお伴に、海から船に乗ってやってくる」という点だ。

この聖ニコラスは、16世紀にニューアムステルダム(現ニューヨーク)に移住したオランダ人によって新大陸に伝えられた。やがて英国支配となるにつれて名前も「サンタクロース」と英語風に変わり、25日の聖誕祭につながった。赤い服、長いひげ、トナカイのそりという姿は米国に渡って作り出されたらしい。

いうなれば、架空とも呼べる「米国版サンタクロース」なのだが、そのイメージは強大で、アメリカの文化とともに世界中に「クリスマス+サンタクロース」の習俗を広げた。聖ニコラス崇拝がある欧州もまた「米国サンタ」に侵食されたわけだ。

ラップランドに「サンタクロース村」ができたのもユールブッケ伝説に加えて、ここが米国サンタの条件に適っているからだ。(1)北極圏という強い北国イメージ(2)12月に必ず積雪する(3)キリスト教国家(4)トナカイが生息しているーー。さらにフィンランドという中立国の立場が「ホワイト・イメージ」を強めている。

サンタクロース村を訪れた各国の家族連れに「サンタはどこから来ると思う?」と訪ねてみた。圧倒的に多かったのが、アイルランド人やイタリア人が答えた「ラップランド、ここよ」。異なる意見では「コルバトゥントゥリのフィンランド側(ロシア側ではない)」にこだわったフィンランド人▽自国領の「グリーンランド」を主張したデンマーク人▽「北極」に集中した英国人▽そして「心の中」「夢の国」「さあ?」と答えた日本人…。

「北極」と答えた英国人は「サンタクロースがどこかの国の人、所有であってはならない」と理由づけた。何とも大英帝国らしい発想だ。あるノルウェー人の村の従業員も、「北極」と答えた。「北欧の間にはお互いに競争意識があるんです。だから北極」と。やはりサンタクロースは、どこまでもホワイト・イメージでなければならないらしい。

実はサンタクロース村を訪ねる前日、ヘルシンキで開かれた欧州連合(EU)の首脳会議は、イスラム教国家として初めてトルコのEU候補国入りを認めた。念願かなってアンカラから飛んできたエジェビット首相が「トルコがようやく欧州の仲間入りを認められた」と感激していたのが印象的だった。

かつて、そのトルコの地で生まれた聖ニコラスの伝説は、欧米のキリスト教文明の巨大な力によって、世界中に広まった。「2000年のイブ」の月に、欧米がトルコに送ったクリスマスプレゼントは、宗教を超えた人類の大きな贈り物だったような気がする。

[毎日新聞12月21日] ( 1999-12-21-10:15 )

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