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国語日記
『自由』
「自由」と言って、まず何をおもいつくだろうか。政治の世界では、それは「支配を受けない」といった意味で用いられる。「自由主義」「自由民権運動」などがそれであり、「特定の集団や階級から支配を受けない」といった意味では、「自由民主党」「自由党」「自由法曹団」といった言い方が該当する。東西冷戦時代には、西側「資本主義」諸国に対置されるのは東側「共産主義」諸国で、「自由主義」に対置されるのは「社会主義」であった。法学(刑法学)では、法律で守るべき人間の利益として「生命・身体・自由・名誉・財産」が列挙され、「自由を奪う行為」として「逮捕監禁罪」を掲げ、また刑罰として犯人の「自由」を奪う「自由刑」(即ち、懲役・禁錮・拘留)が定められている。経済では、人間の欲望を満足させつつ経済取引の対象とならない財のことを「自由財」と呼ぶ(例えば、太陽、空気、海水など)。論者により評価は分かれるが、「自由主義史観」というのもある。
これらの用語は、(「男子20メートル自由型」というような価値中立的な用語法もあるが)基本的は積極的な意味を付与された語ばかりである。実際、我々が「自由」と聞いて、消極的な印象を抱くことはほとんど無い。
しかし、伝統的には、この「自由」(じゆう、じいう)という言葉は、日本語ではむしろ消極的な言葉として用いられていた。小学館『国語大辞典』新装版(1988年)によれば、「自由」とは、「自分の心のままに行動できる状態」という意味の他、「ある物を必要とする欲求。需要。」の意味を紹介しており(例えば、「世の自由(=需要)を足す」の如し)、更になんと「便所。はばかり。」の意味まであったという。また、学研『古語辞典』第3版(1968年)によれば、「自由」とは、「わがまま。気まま。かって。」という意味だったとしており、「自由がまし」(=「いかにもわがままだ」)、「自由っくう」(=「勝手きまま」:『国語大辞典』より)との意味だったことを紹介している。その他、『御成敗式目』(鎌倉幕府が制定した基本法)第4条でも、「・・・理不尽の沙汰はなはだ自由の姦謀なり。」(=「いわれのない陰謀だ」)と、「自由」を「いわれの無い」という意味で使用している。日本語はかくも不思議なものである。中島 健(なかじま・たけし) 大学生
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