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第19回参議院選挙を見る
〜参院選は何を示したのか

中島 健

1、はじめに
 7月29日に投票が行われ即日開票された第19回参議院議員選挙は、「小泉人気」を追い風にした与党・自由民主党が圧勝。また、基本的には構造改革路線を主張した民主党自由党が議席を伸ばした一方で、改革に伴う「痛み」の側面を強調して対決姿勢を強めた日本共産党社会民主党は惨敗するという結果に終わった。なお、連立与党の公明党は改選議席を維持したが、保守党は扇 千景党首がかろうじて当選しただけで、議席を減らした。その他、今回の選挙には青島幸男・前東京都知事を擁立した第ニ院クラブ、白川勝彦・元国家公安委員長らが結成した新党・自由と希望、多数の著名人を擁立した自由連合の他、新社会党女性党維新政党・新風等が参加したが、いずれも議席を得ることは無かった。

政 党改選前
勢力
改選数当選議席数合計衆議院
勢力
合計選区比例増加率
自由民主党108616444201.05111233
公明党231313581.02331
保守党731010.3357
与党合計138777849291.01139271
民主党5623261881.1359127
日本共産党2385140.6252020
自由党536242.0822
社会民主党1273030.43819
 無所属の会 40000045
自由連合11000001
第二院クラブ10 0 0 0010
さきがけ10000010
諸 派00000000
無所属953300.6715
野党合計112474324190.91108209
合 計2501241217348 247480

▲第19回参議院議員選挙結果

▲各党の獲得議席数

 この結果を受けて自由民主党は、公明党・保守党との三党連立を継続していくことを確認するとともに、9月に任期が切れる小泉純一郎総裁の続投が事実上決まった(内閣回増も実施されないという)。他方、惨敗に終わった社会民主党や保守党では執行部の交代論も出ている他、民主党内でも、執行部に対する不満が高まっているという。

▲参議院の改選前勢力

▲参議院の改選後勢力

 今回の参院選で、各党は国民からどのような評価を受けたのだろうか。また、それは何故だったのだろうか。以下に、選挙結果を各政党について見てゆくことにする。

2、どの政党が勝ったのか
 今回の選挙では、どの政党が勝利したのであろうか。
 まず、議席数の増減で見ると、森前内閣の不人気に苦しんでいた与党・自由民主党(小泉純一郎総裁)は、無党派層の多くを取りこみ1人区でほぼ全勝したことから改選議席61議席を上回る64議席を獲得し、非改選と併せて111議席と、単独過半数(124議席)にあと13議席にまで迫った。公明党(神崎武法代表)は選挙区での擁立数を絞りこみ5人全員の当選を果たした他、選挙区でも8議席を獲得(これは、民主党比例区の獲得数と同じである)して改選議席13を維持した。ただ、保守党(扇 千景党首)は、旧自由党支持者が自民党または自由党に流れたためか、かろうじて知名度の高い現職大臣である扇党首が当選したのみで、前回の衆議院総選挙に引き続いて党の存在意義が問われることとなった。

▲各候補者のポスター(東京選挙区)

 一方、野党の中でも、構造改革路線を基本的には支持した民主党(鳩山由紀夫代表)と自由党(小沢一郎党首)は議席数を増やしており、特に小沢一郎党首以下、一枚岩で改革路線を貫いてきた自由党の躍進が目立った(民主党は、党内でも小泉改革そのものは支持する立場と、改革に伴う痛みを警戒する立場が交錯し、分かりづらかった)。反対に、「改革による痛み」を強調して消費税減税等を訴えた日本共産党(志位和夫委員長)は無党派層の受け皿に成り得ず、むしろ改革反対派という印象があった。結党以来党勢の衰退が続く社会民主党(土井たか子党首)は村山富市元首相の地盤である大分選挙区で議席を取れず、選挙区で0議席となった他、比例代表でもほとんど著名人候補しか当選できなかった。数多くの著名人候補を立てて票の積み増しを狙った自由連合(徳田虎雄代表)の狙いは外れ、前職の石井一ニ氏が落選した。
 これを「党の勢い」という点から表現したのが、下図である。ここでは、各党の獲得議席数を改選議席数で割った数が示されており、数字が1を越えていれば勝利、0〜1の間にあれば敗北を意味している。

▲各党議席増加率

 これによると、最も勢いがあったのは自由党で、議席数は前回の2倍になった(総定数が5議席削減されているので、実質的には2倍強)。また、民主党も1.13倍、自由民主党も1.05倍(但し、第17回選挙で自民党として当選したのは44名で、残りは旧新進党からの復党組である)と議席を増加させている。他方、社会民主党は0.43倍(第18回選挙でも0.42倍)と凋落傾向が続いている他、第18回選挙時には2.5倍の議席を得ていた日本共産党は今回、0.625倍に留まった。

3、自由民主党
 前回の参議院選挙では橋本龍太郎首相に対する不人気で敗北した自由民主党は今回、「小泉旋風」によって予想通り選挙を圧勝した。恐らく、改革を標榜する三党(自民、民主、自由)のどれに投票するのかということについて、国民は、「民主党に投票して衆議院解散総選挙を求め、政界再編・政権交代を待つよりも、今小泉総裁の下にある自民党に投票したほうが、結果としてより実行性のある改革ができる」と判断したのであろう(民主党政権樹立までのタイムラグを考えれば、自民党内の「抵抗勢力」の抵抗時間のほうが短いだろう、ということ)。選挙期間終盤になって東証平均株価が1万2000円割れしても小泉首相が改革路線を全く変えようとしなかったことも、評価されたのではないだろうか(第18回選挙の際は、減税を巡って橋本総理の言動が二転三転し、選挙で負ける一つの要因となった)。

▲自由民主党本部(東京都千代田区)

 これから8月10日の来年度予算案概算要求基準の策定、臨時国会と小泉改革の具体策が真に問われる場面が訪れる。無論、改革に対しては、例えば特定郵便局長会のバックアップを受けて自民党の比例第2位で当選した高祖憲ニ氏のように、「郵政三事業民営化反対」といった形で既得権益を主張する議員も現れるだろう。しかし、依然として小泉内閣の支持率は6〜7割とかなり高く、野党の民主党・自由党を含めれば凡そほとんどの政党が構造改革を求めていることからすれば、大勢はもはや動くまい(動くことがあるとすれば、それは「痛み」に耐えられなくなった国民自身が「抵抗勢力」となる場合である)。一部には対アジア外交や京都議定書問題で「小泉外交」を批判する論者もいるが、一旦「靖国神社に参拝する」と言明した首相がそれを実行できなければ、国民は今後の他の「小泉改革」の実現性に対しても大きな不安を持つであろうから、もはや小泉首相の退路は無い。また、京都議定書問題についても、「小泉外交」は米国の離脱表明をなんとか翻意させようと努力するとともに、こうした機会を捉えてEU側からも譲歩を引き出し、我が国の当初の主張を合意に盛り込む「駆引き」に成功したと見るべきであろう(民主党が主張するように即座に批准を表明していたら、そうした「駆引き」は完全に不可能になっていたであろう。批准することだけ、対米独自性を主張することだけが外交ではない)。
 一つだけ気になったのは、「著名人候補」大仁田厚氏の当選である(舛添要一氏も「著名人候補」とされるが、同氏の場合は国際政治学者という肩書きもあり、知名度だけに依存して選挙戦を戦ったわけではない)。無論、大仁田氏の当選も又国民の選択であるし、必ずしもプロの政治家だけが適切な政治を行なえるとは限らないことは言うまでも無い。しかし、全国民を代表して政治活動をする以上は、最低限でも国家ビジョンや外交・安全保障政策、経済政策について一通りの見識を有していることが必要なはずであり、大仁田氏にそれがあるかどうかは疑問無しとしない(もっとも、同氏はプロレスラーとして活躍する傍ら、定時制高校を卒業後明治大学の夜間学部に入学しており、人並み以上の向上心があることは認められる)。晴れて当選を果たした以上は、ぜひ、全国民の代表たるに相応しい研鑚を積んで頂きたいところである。

4、民主党
 野党第一党の民主党は今回、改選議席数を上回ることには成功したものの、前回第18回選挙の際よりは当選者数を減らし、目標の30議席に4議席足りない26議席に終わった。「小泉旋風」の中で議席を増やしたこと自体は改革派として「健闘した」と言えるだろうが、同党には依然として野党版「自社さ連立政権」の問題性が残っており、「小泉首相と改革の速度を競う」という立場と「改革には痛みが伴う」として慎重な姿勢をとる立場が交錯(比例区で獲得した8議席のうち6議席は「抵抗勢力」と目される労働組合出身者であった)。支持を大きく増やせなかった。
 付言すれば、民主党の最大の不安要素は、その外交・安全保障政策である。例えば、教科書問題についても鳩山代表と党内保守系議員との間では認識にズレがあるし、京都議定書問題一つとっても素人的な発想の主張が目立つ(鳩山代表らは、「アメリカ追随外交は止めて、我が国は議定書を批准すると堂々宣言すべきだ」等と発言していたが、それでは我が国の国益を反映させるための駆引きの機会を自ら放棄するに等しい)。日米安保条約に関する「常時駐留無き安保」政策がその後どうなったのか知らないが、少なくともそのような政策は、国民世論としても受け容れられないであろう。
 ところで、今回民主党からは、元テレビ司会者で現在は会社社長をしているタレント候補である大橋巨泉氏が出馬し、比例区で当選を果たしている(民主党は非拘束名簿方式について「著名人候補によって票の横流しが行なわれる」と反対の姿勢を示していたが、今回、大橋氏ら著名人候補を擁立したことで、自らの言論が所詮は二重基準に過ぎなかったことが露呈した)。大橋氏は海外に自らが経営する企業を持ち、選挙期間中も「重要な会議がある」等として一旦カナダに出国したりしていたが、一旦当選した以上、これからは1年365日、国民のために国会議員の活動に専念すべきであろう。

5、公明党
 改選13議席を維持した公明党は、投票率が56.44%と比較的低迷したことから、支持母体である宗教法人・創価学会による組織的な支援が有効に発揮されたといえる。自民党との選挙協力ではまたしても「ギブ・アンド・ギブ」に終わったとの声もあるが、「小泉旋風」を与党として活用し、改革を訴えて支持を広げたという意味では、むしろ自民党・小泉人気からの「ギブ」のほうが多かったのではないだろうか。
 ただ、公明党は、選挙中「構造改革を進める」と与党として小泉政権を支えることを表明しているが、一方で、同党が野中広務・元自民党幹事長ら自民党橋本派と太いパイプを有していることはよく知られており、自民党内の「抵抗勢力」(改革反対派)が動き出したときに公明党がどちらの立場につくのかは不透明である。実際、神崎武法代表は選挙期間中、基本的に「構造改革路線」を支持する演説をしながらも、景気悪化があれば「補整予算を組む」可能性があることにも言及しており、改革が正念場に近づいたときにどう出るのかは予測し難い。ただ、同党は与党として「小泉人気」を利用(無論、利用すること自体は連立与党である以上必ずしも非難されるべきことではないが)し「構造改革」を叫んだ以上、同党にはそれをまっとうする政治的責任があろう

6、自由党・保守党
 小沢一郎党首率いる自由党は、今回の選挙でも議席数を3から6に伸ばして勝利した。小沢氏は、新進党解党・自由党結党以来、ほぼ一貫して選挙に勝利してきており、これは同党には大規模な支持組織が存在しないことからすれば、かなりの実力と言えよう。付言すれば、自由党は、「非拘束名簿方式」に反対した政党の中でも、「著名人候補による票の横流しは問題だ」という自らの主張を貫いて、今回の選挙に著名人候補を立てなかった数少ない主要政党の一つでもある(「立場を貫いた」という意味では、日本共産党も評価に値しよう)。「構造改革」路線を唱えてきたという意味では野党第一党の民主党と同じながら、民主党よりも規模が小さい分政策にブレが無く、ほぼ一枚岩で固まっていることが評価されたのではないだろうか。また、この選挙でも昨年の衆議院選挙でも「与党派自由党」たる保守党が連続してい議席を減らしていることと比較すれば、旧自由党の支持者が結局扇 千景氏ではなく野党派の小沢一郎氏の支持に回りつつあることを意味しているのかもしれない。外交、安全保障問題で同党には「保守野党」としての良識が期待できることは言うまでも無い。もし、今年の秋口に解散総選挙が行なわれ、自民党や民主党が分裂する事態になったら(その時は、あるいは自民党改革反対派と民主党労組派との間で新たな「自社連立」が行なわれる可能性もあるが)、それが真の構造改革派としての自由党・小沢一郎党首の真価が試されるときになるだろう。
 反対に、議席を更に減らした保守党は、連立与党の「ブリッジ政党」としての役割以上のものは期待されていないことが改めて明かになった。今後、同党がどのような方向で党勢拡大に努めるのかわからないが、旧自由党支持層にしてみれば、野党には本家・自由党があるし、与党には自由党的改革を実行しようとする小泉自民党が存在している以上、敢えて保守党に投票しなければならない理由は見つかり難いだろう。

旧自由党系議員の推移

▲参議院における旧自由党系議員数の推移

 

▲結党以来の自由党系議員数の推移

7、社会民主党
 党勢の縮小に次ぐ縮小を重ねている(もっとも、さすがに前回の衆議院総選挙では、国民的不人気の森政権を前に善戦したが)社会民主党は、今回の選挙でも目標の7議席の半分以下の3議席に留まった。
 前回の参議院選挙では、橋本「自社さ」連立政権から離脱した直後に迎えた選挙だったため、同党の不人気もある程度時期的なものと言えた(しかも、長らく与党として政権運営に参画しておきながら、選挙が近づいたら俄かに橋本内閣批判をはじめた同党の姿勢は、大いに不信感を買った)。しかし、今回の選挙の敗北は、「小泉旋風」の逆風の中とはいえ、もはや同党が土井たか子党首と共に歴史的使命を完全に終えつつあることを意味している。実際、同党の構造改革に関する主張は民主党や共産党と、憲法・安保問題については共産党とバッティングしてしまい、同党の独自性は発揮されたとは言い難い(ちなみに、同党は郵政三事業の民営化についても慎重な姿勢をとっており、この点からも同党の主張は小泉改革とは相容れないものがある)。それに、女権主義者の田嶋陽子・法政大学教授の擁立は一定の票獲得につながったかもしれないが、田嶋氏の過激な主張を敬遠した同党支持者の男性もいたのではないだろうか。獲得した3議席にしても、そのうち2議席は「著名人候補」たる田嶋氏と太田昌秀・前沖縄県知事のものなのであって、同党の「実力」とは言い難い。付言すれば、同党は民主党と同じく、「著名人候補による票の横流しが可能になる」等として「非拘束名簿方式」に反対しておきながら、いざ選挙となると自らは著名人候補を擁立するという公約違反を犯しており、これは「二重基準」として厳しく批判されるべきことである。

▲社会民主党議員数の推移

8、日本共産党
 今回、日本共産党は前回の大躍進とは裏腹に惨敗を喫し、無党派層の受け皿となることが出来なかった。
 もっとも、共産党は自由党と並んで「著名人候補」を立てなかった数少ない主要政党の一つであり、非拘束名簿式に反対していた立場を貫き通したという点においては、評価しうる(民主党と社民党は、上述したように、反対しておきながら著名人候補を立てて選挙戦を戦う公約違反を犯した)。また、国民が構造改革路線を熱烈に支持するなかで、敢えてこれに真っ向から反対する同党の立場は、少なくとも社民党よりは魅力的であったと言えよう。
 とはいえ、国民世論の大勢に逆らって「改革反対」を唱えたツケは大きく、無党派層からソッポを向かれた結果となった。恐らく、同党固有の支持者層による集票力は今回の獲得議席数(5議席)程度であることからすれば、3年後の第20回選挙の際、改選15議席を守ることは困難であろう。

9、自由連合
 徳田虎雄代表率いる自由連合は今回、多数の著名人候補を含む47人(最多)もの比例区候補を擁立し、各候補者の得票をかき集めて1議席獲得を狙ったが、結果として0議席に終わった(得票数は78万390票で1.43%)。同党の基本的な政治スタンスが不明確で、参議院改革を訴えたかと思えば比例区でタレント候補を多数擁立するなど矛盾に満ちた行動をとったツケがここに現れたと言えよう。現職の石井一ニ氏(元外務政務次官、元農林水産委員長)も落選した。報道によれば、敗戦後の記者会見で徳田代表は、「若い時に各分野で活躍した人たちが、年齢を重ねて政治に参加する方向は間違ってない」と自身のタレント候補擁立策を正当化したというが、少なくともそうした考え方は有権者に全く受け容れられなかったのである。

10、新党・自由と希望
 昨年、衆議院総選挙で落選したのをきっかけに自由民主党を離党し、リベラリズムと反創価学会・反公明党の立場からこの「新党・自由と希望」を結党した白川勝彦・元国家公安委員長だったが、結局、宮崎 学氏といった著名人候補を立てたにも関わらず一議席も獲得できなかった(得票数は47万4886票で0.87%)。同党が結成して間も無かったことや「小泉旋風」のためマスコミで報道されることも少なく、知名度不足が響いたと言えよう。加えて、同党の安全保障観も、「集団的自衛権に反対」「小泉政権は右傾化している」といったもので、到底保守層の支持を得られるものではなかった。

11、第ニ院クラブ
 「300万票はとる」と豪語して立候補した青島幸男・前東京都知事ら第二院クラブは目標に遠く及ばず(得票数は66万9872票で1.22%)、青島代表自身の獲得票数も28万票あまりに留まり惨敗した。報道によれば、青島氏は29日深夜になって「厳しい。こんなことは今までなかった」「有権者が不景気のため参議院の在り方について考える余裕がなかった」等と事実上「敗北宣言」を出したという。同党には、これまで元札幌高検検事長の佐藤道夫氏が所属参議院議員として活躍していたが、今回佐藤氏が民主党に「拾われて」鞍替えした結果、同党には現職の参議院議員がいなくなっていた。
 だが、この結果は、青島氏自身の1期4年にわたる都政に対する評価や青島氏自身の政治姿勢からすれば当然の帰結で、むしろ今まで5回も連続当選してきたことのほうが意外である。我々有権者はその政治家が何をやりたいのか、何を主張したいのかを見極めて投票行動に出るのであって、そうした主張すらしない候補を当選させるほど国民は阿呆ではない。その点、青島氏は、同党のホームページを見ても、「6年の任期でやりたい政策」の欄にただ一言「参議院の根本的改革」とあるだけで、具体的な政策を一切提示しようとしない(というより、青島氏自身が具体的な外交・経済政策を打ち出すだけの知見を有していないということであろう)。これでは、「小泉内閣の改革案に具体性が無い」等と批判できたものではあるまい。同党ホームページではまた、同党の基本方針として「参議院を良識の府として再建する」「憲法を暮らしの中に定着させる」「民主主義を政治に定着させる」とあり、一応の方針は示されている。しかし、第一と第三の目的に一体いかなる意義があるのか不明であるし、第ニの「憲法云々」では「我々は反戦・平和・自由・平等をうたい、健康にして文化的な生活の営める社会をめざす」として相も変らぬ時代錯誤的な護憲論を展開している。第一、同党代表である青島氏が選挙期間中遊説を一切しないというのは、自らの所信を国民に問い、国民との対話の中で支持を求めるという当然の行為を否定することであり、「自分は知名度だけで当選するだろう」という傲慢な態度の現れであって、主権者たる国民を愚弄するものに他ならない。「良識の府」の再建を主張する前に、自らの政治家としての良識を問い直すべきであろう。

12、投票率
 今回の参議院選挙では、予想以上に投票率が伸びず、総務省がまとめた最終的な数字は56.44%と、(投票時間が延長されたり不在者投票の要件が緩和されたりしたにもかかわらず)前回を2.4%下回る戦後第3位の低水準に留まった(史上最低は第17回、第2位は第16回)。仮に約45%の棄権者の中にも55%の参加者の中にも「小泉内閣支持派」が等しく7割ずつ存在したとすれば、全国民の31.5%が、小泉内閣を支持しながらも棄権するという矛盾した行動をとったことになる。
 この結果について、一部報道では「小泉首相は支持するが、自民党を支持しない人が投票に行かなかったのではないか」(菅直人・民主党幹事長)、「かなりの人たちが棄権という形で小泉政治に対して不安を持ち出している」(志位和夫・日本共産党委員長)といった分析がなされているが、私はそうは思わない。仮に多くの有権者が「小泉支持、自民党不支持」であったとしても、投票所に行って白票か無効票を投じることはできたはずだし、「小泉政治に不安感」を持っていたのであれば共産党や社民党に一票を投じたはずである。そうではなくて、これらの棄権者は、結局心理的には「小泉改革」を支持しながらも、それに伴って自分が「痛み」を蒙るのが嫌だった(あるいは、「小泉改革」に賛成票を投じて、改革が失敗したときにその責任をとらされることが嫌だった)「傍観派」「野次馬派」の人達だったのではないだろうか。

13、改憲派と護憲派
 今回の選挙戦で、憲法改正問題を意識的に争点に掲げていた主要政党は日本共産党と社会民主党であったが、結果は「改憲派増加論憲派微現護憲派減少」で、やや改憲の方向に推移した。これは、従来改憲派であった自由民主党や自由党が躍進した一方で、護憲政党たる共産・社民が共に惨敗したためである。
 もっとも、この分析もあくまで政党全体を護憲・改憲で色分けしたものであり、①自民党内部にも河野洋平外相をはじめとする護憲的色彩の強い政治家もいること、②同じ改憲派でも、最大の焦点である9条改正については必ずしもコンセンサスは得られていないこと、から、憲法改正問題について単純な足し算・引き算は出来ない。

類 別該当政党発議必要数参議院改選後参議院改選前衆議院勢力
議席数占有率議席数占有率議席数占有率議席数占有率
改 憲自民、自由、保守16566.7%12450.2%11546.4%26254.6%
論憲・他民主、公明、他--9538.5%9739.1%17937.3%
護 憲共産、社民8233.3%2811.3%3614.5%398.1%

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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