このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

「悪の枢軸」発言問題を考える
〜ブッシュ米大統領の名言に賛同する〜

中島 健

 アメリカのブッシュ大統領が1月29日の一般教書演説で発した「悪の枢軸」(英語では「axis of evil」)という言葉が、各方面から批判を浴びている。北大西洋条約を介して同盟関係にあるはずの欧州諸国の外相から「乱暴な言い方だ」等と苦言を呈された他、中国、韓国やロシアも反発。日本のテレビ番組等でも「悪の枢軸」発言は森善朗前首相の「神の国」発言の如き「問題発言」と認識され、訳知り顔の評論家が「あれは国内向けの発言だ」等と解説して見せている。そして、この発言を批判しない小泉純一郎首相に対しても、「同盟国としてきちんと諌言すべきだ」といった声が聞かれる。

▲ニューヨーク・マンハッタン島の現況(3月6日撮影)

 しかし、果たしてこの発言は、それほど突飛なものなのであろうか。少なくとも私には、ブッシュ大統領のこの表現は極めて適切であり、ロナルド・レーガン元米大統領の「悪の帝国」発言(冷戦時代末期、彼は旧ソ連のことをこう表現した)と並ぶ名言であるとさえ思える。イラクは、依然として国連の正当な手続に基く核査察を拒絶し続け、クルド人を弾圧し、核兵器を含む大量破壊兵器を手にして湾岸地域の覇権を確立しようとしている。ユーゴスラビアのミロシェビッチ前大統領は自国内の一地方における軍・警察の行為に関連して国連に逮捕され、今や国際刑事裁判を受ける身だが、正規軍を使って堂々と主権国家の領土を奪取したサダム・フセイン大統領は、湾岸戦争以降ものうのうとイラク大統領の地位にありつづけている(先日、テレビにイラクのアジズ副首相が登場してインタビューを受けていたが、彼は自国のクウェート侵略のことなどすっかり忘れたかのようにケロリとした顔でデタラメな発言を繰り返していた)。そればかりでなく、彼は大量破壊兵器を入手し、時にはその実戦使用すら厭わず(国内の少数民族クルド人に対して使用した)、やがては湾岸産油地を支配せんとしているのである。北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)は金正日総書記の下「先軍政治」と呼ばれる軍国主義・独裁体制を築いており(これは北朝鮮自身が主張していることであり、彼らは自ら軍国主義であることを明言している)、特に旧ソ連の後ろ盾を失って以降、これまた自己の政権維持と朝鮮半島全体の併呑を狙って核兵器・弾道ミサイル開発を着々と進めている。彼の国の特殊工作船は韓国や我が国沿岸にしばしば侵入し、工作員の潜入や誘拐、麻薬の非合法取引を行っている他、大量破壊兵器の運搬手段としての弾道ミサイルを「輸出産業」にしている。イランは、特にハタミ大統領の誕生以降、世俗主義を求める声の高まりによって改革が進んでいるが、それでも司法府や宗教界を中心にイスラム教保守派が残っている。(イランはともかく)こうした状況を「悪」と表現しないで、一体何と言うのか。我が国が苦言を呈すべきは、そうした状況を御存知ない欧州諸国の外相たちに対してであろう。

 

▲事件から半年たったニューヨークの事件現場(左)と近くの教会の柵に張られた慰霊品(右)

 昨年9月11日の米国テロ攻撃事件以降、どうも我が国では一部の人々の間で「反米的言辞」が人気を博しているように思えてならない。「悪の枢軸」発言を「単純な善悪二元論だ」等と論う人間に限って、「アメリカのアフガン空爆は間違っている。オサマ・ビン・ラディンは報復によってではなく法の裁きによって罰せられるべきだ」等と主張するが、「法の裁き」の特徴は原告・被告のどちらかを「正義」と認定する善悪二元論型システムなのである。伝統的に日本人はある問題について「白黒つける」ことを嫌う意識がある等と言われているが、これは悪く言えば、正しいことよりも波風を立てないことを優先させ、内輪の話し合いで問題を揉み消す体質がある、ということでもある。ただでさえクウェートを侵略したイラク軍を撃退するために一兵も送らなかった我が国が、テロ事件の犯人捕捉に何等直接貢献するところのない我が国が、そして北朝鮮の大量破壊兵器から国民を防護する手段を何等持たない我が国が、「アメリカに対して苦言を呈する」なぞ、それこそ鉄面皮極まりない恥知らずな行為ではないか。「外交儀礼上、『悪の枢軸』等という直接的な表現を使うことには問題がある」といった指摘もあるが、そうした指摘をする人が北朝鮮の日頃の「口の悪さ」を批判している姿を見掛けることは少ない。なるほど、アメリカ外交には問題もある(例えば、捕鯨問題における態度)。時として、ベトナム戦争のような失敗もしてきた。しかしだからといって、その功績が過小評価されていいということにはならないし、現に我が国もアメリカ外交の御蔭で十分トクをしている。感情的な反米的言辞には、もううんざりだ。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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