このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 国語日記 

『ムネオハウス』

 先日(2月)の衆議院予算委員会で、鈴木宗男・元北海道開発庁沖縄開発庁長官に関連した疑惑を追及していた日本共産党の佐々木憲昭代議士が、北方四島支援事業で建設された緊急避難施設が現地で「ムネオハウス」と呼ばれていることを明らかにした。之に対して鈴木氏は「現地の人が通称でそう呼んでいるだけ」と反論したが、他の疑惑と相俟って、鈴木氏の疑惑を象徴する名前として今やすっかり全国民に定着した感がある。
 我が国においてはこれまで、建物や施設に個人名を使う習慣が無く、ためにこうした通称が特に強く問題視された観がある。欧米ではむしろ人名を名前にするのは普通のことであり、例えばワシントンのアメリカ国務省庁舎は正式に「ハリー・S・トルーマン建物」と呼ばれているし、ニューヨークの国際空港は「ジョン・F・ケネディ国際空港」、シドニーのそれは「キングスフォード・スミス国際空港」と呼ばれている。また、商船や軍艦、乗り物にも人名が多く、例えばアメリカ海軍の空母や一部艦船は全て米国大統領又は海軍関係者の名前(空母「ロナルド・レーガン」、原子力弾道ミサイル潜水艦「ジョージ・ワシントン」など)であるし、フランス海軍には「シャルル・ド・ゴール」という原子力空母や「ジャンヌ・ダルク」というヘリコプター母艦もある。イギリス・キュナード海運の豪華客船「クイーン・エリザベス二世」号は我が国でも有名であろう。翻って、我が国では、中央省庁の建物は「合同庁舎○号館」といったそっけない名前だし(「第○森ビル」や「三井物産」は人名というより会社名であろう)、旧海軍・海上自衛隊を通して首相や軍人の名前を軍艦の名前に採用したことはない(海上自衛隊の砕氷艦「しらせ」は南極探検の白瀬中尉の名前に由来するが、正確には白瀬中尉を記念して名付けられた南極の「しらせ高地」からとっているのであって、人名そのものを使っているのではない)。
 もっとも、この一件で真に不思議なのは、この緊急避難施設がロシア語ではなく、つい10年前まで対決してきたアメリカの言葉でムネオ「ハウス」と呼ばれていることではなかろうか。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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