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■二人の遺志を継ぎ、イラク復興支援に邁進すべし
日本人外交官2名、イラクで殺害される(11月29日)
報道によると、先月29日、在イラク日本国大使館の奥克彦参事官(45歳)、井之上正盛三等書記官(30歳)及び同大使館運転手ジョルジース・スライマーン・ズーラ氏(54歳)が、イラク北部・ティクリートで開催される会議に出席するため自動車で移動中、ティクリートの南約30キロの地点で何者かに襲撃され、射殺された。奥氏は在英国日本国大使館の参事官で、本年4月からイラクに長期出張し、復興支援策の策定や自衛隊の派遣をめぐって米軍当局との調整を担当。また、井ノ上書記官はアラビア語の専門職員で、4月末からイラクに赴任し、イラク人関係者から情報を収集していたという。殉職した外交官2人の遺体は4日午後、クウェートからロンドン経由で成田空港に帰国。川口順子外相、遺族らが出迎える中、千葉県警儀仗隊が二人の遺体を収めた棺を霊柩車に載せ、敬意を表した他、6日午前11時から外務省と遺族の合同葬が行われ、小泉純一郎首相をはじめとする全閣僚、各国大使、外務省職員だけでなく、一般の弔問客も多数訪れ故人の冥福を祈った。事件を受けて外務省は12月4日、事件当日に遡って奧参事官を大使に、井ノ上三等書記官を一等書記官にそれぞれ2段階昇進させる人事を決めた他、政府は5日、閣議決定を以って、奥大使を従四位・旭日中綬章に、井之上一等書記官を従七位・旭日双光章にそれぞれ叙勲した。
我が国外交官が公務中に殺害されるという戦後初の、極めて衝撃的な事件であり、任務に献身されていたお二人が凶弾に倒れたことに、強い怒り、憤りと、深い悲しみを禁じえない。改めて、奥大使、井之上一等書記官及びズーラ氏の壮烈なる「戦死」に対し、衷心より哀悼の意を表したい。既に政府は、故人の叙勲や官職名の「二階級特進」を決定しているが、政府は、両名の国家に対する献身と功績に最大限に報いる処置を講じるべきである。というのも、報道を見ていると、かかる事態に対する政府による各種顕彰措置が必ずしも十分なされていない感があるからである。両名の棺にしても、当初は成田空港で普通の「貨物」として積み出される予定だったところを、事態を聞きつけた千葉県警機動隊が「それでは忍びない」として儀仗隊を派遣したと聞く。それはそれとしてよかったのかもしれない(むしろ、千葉県警機動隊の義侠心は賞賛されるべきである)が、国家の公務を遂行して凶弾に倒れた二人を、何故千葉県警察という地方公共団体の機関ではなく、国家主権を代表する陸海空三自衛隊の儀仗隊が迎えられないのか、と思う。
お二人が亡くなってしまったのはとても痛ましいが、同時に、これほどまでに国益のために献身する外交官が我が国にも居たことを知ったことで、国民の多くがある種誇らしい気持ちになったのも事実であろう。特に我が国の外務省や外交官の評価は、近年の一連の不祥事で一度地に落ちてしまっていた感があっただけに、なおさらである。二人の両家・外務省合同葬や外務省仮庁舎に設けられた記帳台に数千人の一般弔問客が訪れたことからも、奥大使、井之上一等書記官の死が国民に与えた悲嘆と共感のほどが伺える。
それにしても、今回の事件は何故起きてしまったのか。2人の乗った公用車(トヨタ・ランドクルーザー)は軽度の防弾仕様ではあったが軍用小銃の弾丸まで阻止するものではなく(当然、耐地雷仕様ではなかったであろう)、軍用防弾衣やヘルメットも装備していなかったと聞く。現在、治安が悪化しているバクダットの各国大使館は、それぞれ自国が派遣した軍隊又は警察部隊によって防護されているが、それを持たない日本大使館は、イラクの民間警備会社の自動小銃で武装した警備員(傭兵)によって守られている。これについては事件直後の12月2日、逢沢外務副大臣が自衛隊部隊による在外公館の警備に向けた法改正を示唆したものの、その後政府部内の検討の結果、海外での武力の行使を禁じたと解釈されている憲法第9条の制約もあり、早々に断念されている。果たして、我が国自衛隊が在外公館警備を行えば、(政府解釈によれば)憲法9条の禁じる武力行使にあたり、これを民間人武装警備員を指揮して行わせれば武力行使にあたらないのか。非戦闘地域に派遣される軍隊(自衛隊)のために、非武装の外交官が戦闘地域に派遣されるという矛盾。戦闘地域からは撤退しなければならない自衛隊と、殉職者が出ても撤退できない外交官という矛盾。こうした戦後外交・安全保障政策の根本的矛盾を解決する責任は、まずもって政治にある。
奥大使は、本件の約半月前、外務省のホームページに掲載された「イラク便り」上で、イタリア警察部隊が自動車爆弾テロに襲われたイラク南部・ナシーリアを訪れたときのことを書いているが、このコラムで大使は、最後に「犠牲になった尊い命から私たちが汲み取るべきは、テロとの闘いに屈しないと言う強い決意ではないでしょうか。テロは世界のどこでも起こりうるものです。テロリストの放逐は我々全員の課題なのです。」と述べている。我々が奥大使、井之上一等書記官の遺志を継ぎ、故人の霊を慰めんと欲するのであれば、自衛隊部隊のイラク派遣に躊躇すべきではない。
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