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健論時報
  2004年10月  


■人質救出に全力を尽くせ 
 イラクで武装集団が邦人を誘拐、自衛隊撤退を要求(10月27日)
 報道によると、イラクの武装テロ集団「イラクの聖戦アル・カーイダ組織」は27日早朝、インターネット・サイトを通じ、同国で日本人男性1人を誘拐したと明らかにするとともに、48時間以内に自衛隊がイラクから撤退しないければ、この男性を殺害するとの声明を発表した。誘拐されたのは、福岡県直方市の香田証生さん(24歳)と見られる。これを受けて小泉首相は同日、台風被害の視察で訪れた兵庫県豊岡市で「救出に全力を尽くす。自衛隊の撤退はしない」と述べ、犯人側の自衛隊撤退要求を拒否する考えを明らかにした。また政府は、対策本部を設置するとともに、谷川外務副大臣をイラク隣国のヨルダンに派遣、現地対策本部で陣頭指揮をとらせることとしているという。
 現在、イラクは、選挙を控えて治安は極めて悪化しており、外務省も渡航自粛を何度も呼びかけている。にもかかわらず、香田氏が観光旅行を目的に、軽装で十分な装備・知識もないまま入国している。これでは自己責任を果たしたとは言えず、軽率の謗りを免れ得まい。特に、イラクについては、我が国の外交官2人(奥克彦大使、井之上正盛一等書記官)らが殺害される事件(平成15年12月)や、民間人5人が相次いで拉致・監禁される事件(本年4月)が発生しており、右事情を加味すれば同国が観光旅行をするには極めて危険な状態にあったことは容易に推察できることからも、香田氏の責任は極めて重大である。
 とはいえ、今回の人質事件は、暴力と恐怖によって我が国の政策の転換を迫ろうとする極めて悪質な犯罪であり、まずは「イラクの聖戦アル・カーイダ組織」の行為こそが非難されるべきであろう。与党・自由民主党の一部には、サマーワに駐留する陸上自衛隊イラク復興支援群に人質の救出作戦を実施させるべきであるとの意見もあるようだが(亀井静香・元党政務調査会長の27日の発言)、実際には法的問題(派遣根拠となる「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」(平成15年法律第137号)上、その任務は人道復興支援活動と安全確保支援活動に限定されており(第3条第1項)、また「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。」(第2条第2項)とされている)や軍事的能力の問題から、困難と思われる。残された道は、イラクの宗教指導者やアル・ジャジーラをはじめ中東各国のメディアに助力を求めたり、イラク駐留米軍(多国籍軍)の援助を期待するといったことしかなかろうが、いずれにせよ、政府は人質となった香田氏の救出に全力を尽くすべきである。    

■社民党はテロ犯罪を容認するのか 
 野党各党、イラク邦人人質事件について態度表明(10月27日)
 報道によると、民主党(岡田克也代表)は27日午前、同党のイラク人質事件緊急対策会議(議長=鳩山由紀夫・元代表)を設置し、党本部で初会合を開いた。この中で鳩山氏は、「テロに屈してはならない。解決に向けて、野党第一党の立場から全力を挙げて(政府に)協力する」と述べ、事件を起こした武装テロ集団の要求に応じる形でイラクから自衛隊を撤退させるべきではないとの考えを明らかにした。川端達夫・同党幹事長も会議終了後、「暴力的な脅迫に屈するのは良くないというのが、基本的な認識だ」と述べた。一方、社会民主党(福島瑞穂代表)も27日午前、談話を発表し、「人質の安全を考えると(自衛隊を撤退させないとの小泉総理の決断は)人命を軽視した判断だと言わざるを得ない。」「戦争を支持し、多国籍軍にまで自衛隊を強引に参加させてきた政府の判断の誤りについても改めて問題にせざるを得ない。」として犯行グループの要求を拒否した政府の対応を批判。「人質の生命、自衛隊員の生命、イラクの人々の生命、そしてイラクと日本の社会のためにも自衛隊はイラクから撤退すべき」として、犯行グループの求めに応じる形で自衛隊を撤退させるべきとの考えを示した。また日本共産党(志位和夫委員長)も同日、「いかなる理由であれ、人質をとり、要求が入れられなければ殺害するなどと脅迫することは、許すことのできない蛮行であり、ただちに解放すべきである。」「政府は、自衛隊のイラクからの撤退をはじめ、対イラク政策の根本的な転換に取り組むべきである。」等とする声明を発表した。なお、与党(自由民主党、公明党)も同日、国会内で対策会議を開き、自衛隊の撤退には応じないとする政府の方針を支持することを確認しているという。
 今回の事件は、暴力と恐怖によって我が国の政策の転換を迫ろうとする極めて悪質な犯罪であり、かかる要求に応じることができない以上、自衛隊を撤退させないとした小泉首相の判断は正当である。また、野党第一党の民主党も、「テロに屈しての自衛隊撤退には応じない」とする判断を示したことは、同党の良識を示すものと言えよう。
 翻って、社民党と共産党の対応は、極めて疑問と言わざるを得ない。それでも共産党は、一応人質事件と自衛隊撤退とを切り離して主張しているのでまだ理解できるが、社民党の幹事長談話は、犯行グループの主張に共感し、(これを正面から是認することはないにしろ)事実上黙認して、政府に自衛隊撤退を迫るものである。かかる行為は、加重人質強要罪(人質による強要行為等の処罰に関する法律(昭和53年法律第48号)第2条:二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕し、又は監禁した者が、これを人質にして、第三者に対し、義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求したときは、無期又は五年以上の懲役に処する)の教唆若しくは幇助にあたる行為ではないのか。
 同じことは、27日に自衛隊撤退を求めるデモを行った名古屋市の市民団体「有事法制反対ピースアクション」にも言える。報道によれば、同団体のメンバーは「新潟中越地震で人の命を救っている。イラクでも48時間と限られた命があるのに、政府は、自衛隊は撤退しないと言う。おかしいと思いませんか」等と主張していたというが、全く理解に苦しむ主張である。

■改めて、自己責任とは何か 
 イラク邦人人質、殺害され遺体で発見(10月31日)
 報道によると、31日未明(日本時間)、イラクの首都バグダッドで日本時間の31日未明、武装テロ集団「イラクの聖戦アル・カーイダ組織」に人質として拘束されていた香田証生さん(24歳)の遺体が発見された。遺体は両手を後ろ手に縛られ、バグダッド市内中心部のハイファ通り沿いの一角にある病院裏の空き地に放置されているのを警察官が発見。同国保健省を通じて在イラク日本大使館に連絡があった。イラク戦争終結以降、同国での日本人殺害は昨年11月の奥 克彦大使ら外交官2人、今年5月のフリージャーナリスト・橋田信介さんら2人に続き5人目。遺体はクウェート経由で、早ければ2日にも日本に搬送される。これに関し、小泉首相は31日昼、「残虐非道な行為にあらためて憤りを覚える」と犯行グループを強く非難したという。また南野知恵子法相は2日、閣議後の記者会見で、事件に関し「人を殺害しているので刑法での殺人罪が成立する。(被害者は)日本人なので日本の法律を適用する」と述べ、日本国内法による捜査を行うことを明らかにした。
 まずは、卑劣な犯罪行為によって命を失った香田さんの霊に対し、黙祷を捧げたい。
 海外、特に戦争や内乱が発生している地域を自由意志で旅行する者の自己責任とは、第一に、現地情報の収集や危機管理術の学習を通して危険を最大限回避する(それによって、日本政府や現地当局の援護を受けるような事態に陥ることを未然に防ぐ)ことであり、また第二に、その旅行から生じた結果について、全て自分一人で個人責任を負う=日本政府や現地当局に責任を転嫁しない、ということであり(昨年11月の外交官殺害事件で死亡した奥大使らの行為が国内をはじめ世界各国から賞賛されたのは、イラクの危険な地域に、自分の自由意志ではなく政府の職務として入ったからである)、第三に、同じ旅行者にはじめの2点を守って旅行するよう勧奨することである。この点、今回殺害された香田さんは、第一の点で既に自己責任を果たしたとは言いがたく、ヨルダンで出会った日本人の知人らの説得を振り切ってイラクに入国した行為は無謀であり、非難に値するというべきであろう。ただ、今回の事件では、今年4月の事件とは異なり、被害者遺族が表立って政府の対応を批判したり、自衛隊の撤退を要求したりしたことは無く、その点では自己責任は果たされたと考えることもできよう。
 むしろ責任を感ずるべきは、今年4月の人質事件で、元人質らのイラク入国目的を擁護したり、彼らに対して投げかけられた自己責任論を批判した一部報道や元人質らである。日本国内の一部に、「例えイラクであっても、『戦争の現実を知る』とか『米軍による戦闘行為の被害状況を視察する』といった『立派な目的』があれば、危険を省みず旅行することは許される」「人質をとって自衛隊の撤退を要求するイラク人の考え方にも一理ある」とする風潮があったからこそ、香田さんはイラク入国を躊躇しなかったのではないか。換言すれば、自己責任の第三の意味を忘れているのではないか。今回の香田さんの行為を、「好奇心旺盛な青年だった」等として正当化することは、第二、第三の被害者を生むことに繋がりかねない。「自己責任」は、帰国後も続いているのである。

    


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