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武器輸出三原則の撤廃を
武器輸出・共同開発を目指して

菊地 光
 報道によると、政府は11月18日、我が国の武器輸出を禁じた武器輸出三原則等(昭和42年4月21日衆議院決算委員会・佐藤内閣総理大臣答弁、昭和51年2月27日衆議院予算委員会・政府統一見解)について、(1)日米又は米国を中心とする多国間の共同兵器開発・生産の場合、及び(2)テロや海賊対策等を支援するための国際協力に係る場合(具体的には、ヘルメットや防弾チョッキ、車両、中古艦船などの輸出を想定しているという)については、三原則の対象から外す方針を固めたという。
 武器輸出三原則は、昭和42年4月21日の衆議院決算委員会において、当時の佐藤栄作首相が答弁の中で「輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた共産国向けの場合、あるいは国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、それとただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け、こういうのは輸出してはならない。こういうことになっております。」と述べたもの。また、昭和51年2月27日の衆議院予算委員会において、当時の三木武夫首相は「武器輸出に関する政府統一見解」を示し、三原則対象地域への武器輸出をせず、三原則対象地域以外の国についても武器輸出を慎むとして、以後武器は原則輸出禁止とされてきた経緯がある。
 武器輸出については、(1)輸出分の武器生産により国産武器の生産量を増やし、製造単価を下げることができる、(2)輸出先国との外交関係がより緊密なものとなり我が国の外交的プレゼンスを増す、国際共同開発により開発費用を節約することができる、中古の護衛艦や潜水艦(我が国では、これを輸出できないため比較的新しい艦艇でも「定年」を迎えると廃棄処分してしまっている)を売却することにより建造費用の一部を回収することができる等多くの外交・軍事上のメリットがある。特に冷戦終結後、我やが国を含む各国の軍事予算が削減される中で、兵器の国際共同開発は世界的な趨勢となっており(アメリカですら最新鋭のF−35戦闘機をイギリス等と共同開発している)、三原則を理由に一人我が国が武器の国産・輸入に固執するのは、防衛予算の効率的活用の点からも問題である。他方、野放図な武器輸出(特に自動小銃や対人地雷といった小型武器)は地域紛争を激化させ、地域の不安定化を招いて、究極的にはかえって我が国の国益を害するおそれもある。かかる観点から、本誌では、かねてから(1)紛争激化に繋がる小型武器や大量破壊兵器の輸出は引き続き自粛しつつ、(2)軍艦、戦車・装甲車、対空・対艦ミサイル、軍用機等の大型兵器(使用に際して一定程度の集団・組織の関与が必要であり、ゲリラや第三国に容易に譲渡されないもの:上述した武器輸出に伴うメリットも、こうした兵器についてこそ生じる)については、輸出を解禁すべきことを主張してきた。また、佐藤首相が表明した三原則は、「共産国向け」等の古い表現が使われており、今日的な原則に再定義する必要がある(それに、「戦争をしている国」が三原則地域に組み込まれると、今後のアメリカの外交政策次第では、対米兵器・技術輸出が難しくなる恐れもある)。現在の三原則(佐藤首相の三原則及び三木首相の統一見解)を撤廃し、武器輸出に係る新たな原則を制定すべきである。
 なお、この問題について、朝日新聞社は、20日付け社説「武器3原則—緩和をあせる愚かさ」の中で、「武器輸出3原則を掲げることは、外交の場で日本の強い武器になっている。昨年、自動小銃などの規制をめざす国連小型武器会議で議長を務めた猪口邦子さんは、議長に就任できたことについて、武器を輸出していない日本が人道と軍縮の旗手と評価されたためだ、と指摘した。」「他国に武器を売らず、他国の武器開発にもかかわらないことで自らの安全を高める、と考えてきたのが日本だ。国民の多くは今後もそれを支持するだろう。」「この原則が日本に軍縮外交の旗振り役の資格を与え続けることは間違いない。」等とし、事実上三原則の緩和に反対する姿勢を表明した。しかし、そもそも軍縮外交とは、自国の保有する軍備の削減と他国のそれを同時並行的に提案するからこそはじめて有効に機能するのであり(例えば、米ソの核軍縮交渉は、両国が互いに自国が保有する核兵器を廃棄するからこそ成功したのであって、非核国の日本がいくら会議を提唱しても、米国あるいは旧ソ連は核兵器削減には応じない)、三原則があったからといって本当の意味で日本が国際的軍縮の旗手になれるわけではない。第一、我が国はこれまで例えば対人地雷を一度も輸出しておらず、従って対人地雷全面禁止条約に署名する道義的責任は全く無かったのであるが、それにも関わらず他の地雷輸出国とともに同条約に参加せざるを得なかったではないか。実体の無い「軍縮の旗手」なる地位に拘泥するあまり、武器輸出がもたらす外交上の国益を無視するようなことがあってはならない。

 菊地 光(きくち・ひかる) 本会会長


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