このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

我が国は対人地雷禁止条約に参加すべきか
〜対人地雷禁止条約調印には実効性が無い〜

中島 健

 平成9年(1997年)12月、カナダの首都・オタワにおいて、我が国も参加する「対人地雷全面禁止条約」が調印された。対人地雷の禁止運動は、ちょうど同じ年この運動に参加していたイギリスのダイアナ元皇太子妃が交通事故で死去し、脚光を浴びたり、ノーベル平和賞が対人地雷禁止運動を行っている市民団体とその長に授与される事が決まったりして、かつてない盛り上がりをみせている。東西冷戦の終結で、かつての東西冷戦時代のように、米ソ軍事力の均衡維持のための「統制」が無くなり、世界各国で民族紛争や内戦が発生している中、米ソ両国や欧州諸国が輸出・供与した地雷をはじめとるする兵器が紛争を泥沼化し、非戦闘員への被害を増大させているのは事実であり、対人地雷禁止が真の意味で可能であれば、このような被害を減らす事はできるだろう。特に、正規戦争と異なり民族紛争や内戦といった低烈度紛争においては、地雷敷設側も敷設位置のいいかげんな記録しかとらない事がほとんどなので、紛争終結後の経済復興にも支障を来す対人地雷の禁止は、紛争惨劇化をくいとめる方法としては、ある程度の妥当性があるだろう。
 だが、はたして、対人地雷禁止条約への参加は、我が国にとって「実行すべきこと」なのだろうか?
 たしかに、対人地雷は、紛争激烈化や経済復興の障害の原因となってきたし、戦闘員・非戦闘員を選ばず、ときには味方さえ攻撃する厄介な兵器である。これを使用するには、正規軍隊にしてもちゃんと位置を記録しておかないとあとで困るし、ましてやかつてアメリカがベトナムで行ったように、航空機による小型対人地雷の散布でもされたら、国土が荒廃すること甚だしい。
 しかし、現在対人地雷によって非戦闘員に被害をもたらしている地域紛争、民族紛争は、正規軍隊同志の戦争ではなく、交戦主体がゲリラや「武装勢力」といった低烈度紛争であり、地雷設置の責任者も多くはゲリラ又はゲリラに毛の生えた程度の第3世界の政府軍である。だが、これらの交戦主体は、当然「対人地雷全面禁止条約」に調印しているはずもなく、今後とも対人地雷を使用し続けるであろう。最近では、地雷程度の簡易な武器は開発途上国やゲリラの手によっても製造されており、対人地雷の貿易規制だけでは、対人地雷の使用は到底阻止できない状況になっているのである。結果、条約が発効しても、対人地雷禁止が最も望まれる紛争地域では、相変わらず非戦闘員への被害が発生し、「戦争」の文字すら身近には感じなくなった先進諸国で対人地雷が廃棄されるだけであり、「対人地雷の悲惨さ」は何等解消されないのである。換言すれば、この条約は専ら市民団体や先進諸国の「自己満足」に終始した、実効性の乏しいものであると言わざるを得ないのである。
 また、現在実際に対人地雷が埋設されている紛争当事国のそれは、明らかに紛争地域諸国製のもの以外に米ソ・欧州の兵器輸出大国製のものが含まれており、いいかえれば、今日の地雷や地域紛争の悲劇を招いた責任の一端は、兵器輸出諸国にある、とも言えるのである。翻って、我が国では、武器輸出三原則により、このような兵器は一切輸出していないばかりか、いままでに政府開発援助等の形で紛争地域から地雷を撤去するのに多額の資金を投入しているのであり、我が国の自衛隊が保持する対人地雷は、あくまで我が国国内にとどまっているのである。
 一方、今日の自衛隊を取り巻く環境は、冷戦終結で脅威が低下した一方で、若年人口の減少や防衛予算の削減等で厳しいことにかわりはない。このような状況の中で、少ない人員・予算で効果的に国土防衛を可能とする対人地雷を、陸上自衛隊からとり上げてしまってはたしてよいものだろうか。例えば、我が国の周辺有事に際して某共和国の特殊部隊が我が国に隠密裏に上陸しようとしたとき、それらの部隊を迎撃するには、生身の自衛隊員を多量に必要とするが、対人地雷と監視所を組み合わせれば相当効果的な阻止が期待できる。対人地雷は本来、自軍の陣地を守ったり、対戦車地雷原に敵工兵部隊を接近させないために埋設されるのであって、人心荒廃のために無差別に埋設するのではないのである。新しい「防衛計画の大綱」が謳うように、自衛隊のスリム化・コンパクト化を望むならば、この種の待ち伏せ兵器は(待ち伏せという戦法はまさに小を以って大を制する戦法である)、削減するよりもむしろ充実させるべきなのではないだろうか。しかも、我が国の国防にもっとも関係の深いアメリカ、ロシア、中国、韓国、北朝鮮、台湾の6国は、いずれもこの条約に署名していないのでる。
 ともすると日本国内では、対人地雷禁止についても「ダイアナ妃が取り組んでいた問題である」だとか「対人地雷禁止運動はノーベル平和賞を受賞した」といった権威やムードに流されて、しかも戦車や軍艦とちがって「些末な」兵器であるため、雰囲気だけで条約に賛成を表明する報道がしばしばなされている。橋本龍太郎首相も、恐らくは深い考えも無しに、ただ内閣支持率上昇だけのために条約署名を決定したのであろう。しかし、対人地雷の廃止に伴う我が国の国防への影響を考えるとき、我が国がこの条約に署名すべきかどうかは自明といえるのではないだろうか。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


目次に戻る   記事内容別分類へ

製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
 
©KENRONKAI/Takeshi Nakajima 1998-2002 All Rights Reserved.

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください