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「ポケットモンスター事件」とアニメ雑誌
〜何故彼らは報道しないのか〜

中島 健

 2月10日、「アニメージュ」「ニュータイプ」誌2月号が同時に発売された。今号は、1月16日午後発生した、所謂「ポケットモンスター事件」(テレビ東京の人気アニメ「ポケットモンスター」を見た児童ら約700人が、光の点滅の影響で気分の悪化を訴えた事件)以来初めて発売されたアニメーション雑誌で、この2誌が主要なアニメ誌でもあるので、私は当然2誌とも「ポケモン事件特集」を組んでくるものと期待した。ところがどうだろう。蓋を開けて見ると、ポケモン事件を扱っていたのは「アニメージュ」のニュース欄だけで、それも事実を伝える短い記事だけ。事件の詳細やアニメ技術に深く立ち入ったものではなかった。「ニュータイプ」誌に至っては、まるで何事も無かったかのように、「ポケモンすごろく」つき。一体これはどうしたことだろう。
 ポケモン事件においては、軽症とはいえ700人以上の被害者が発生しており、しかも「ポケットモンスター」はテレビ東京の人気アニメだ。テレビアニメにおいて最大のシェアを誇るテレビ東京の対応如何では、今後のアニメ業界全体に影響が出るとも限らない。また、事件に際しては他の放送会社の「テレビ東京叩き」ともとれる報道姿勢や、必要とは到底思えない国会討議など、おおげさな反応が目立った(行政改革で四苦八苦の郵政省も、この問題を奇貨として、放送通信行政一体維持を目指してしゃしゃり出た観がある)。今回の事件が、我が国の数少ない独自文化であるアニメーションに対する根拠無き非難にならないように、「ポケットモンスター」擁護の記事の一つも載せるのが、アニメ雑誌の役割ではないだろうか。
 それを、「アニメージュ」は何を思ったのか、表紙に庵野秀明監督の実写映画作品「ラブ&ポップ」に出演する女の子5人と、庵野監督本人の写真を掲載した。如何に庵野監督がテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」で、業界的にも社会的にも注目されたからといって、アニメーションとは縁もゆかりもない監督の実写作品を、「ポケモン」を差し置いて大々的に報じるのは、一体どのような編集方針によるものなのだろうか。「エヴァンゲリオン」ブームにでは、版権を持つ角川書店の発行する「ニュータイプ」誌がもっぱら「エヴァ賛成」であった(というより、それ以外に選択肢を持たなかった)のに対し、徳間書店が発行する「アニメージュ」は、それとは一線を画して、読者と編集者の討議コーナーを設けるなど、よりつっこんだ論評や意見の掲載をしてきた。これは、アニメ業界全体にとって健全なことだと思うが、その「ニュータイプ」誌ですら、「ラブ&ポップ」関係の記事はモノクロページのみの程度の扱いだった。実写映画「ラブ&ポップ」を「少女売春(私は「援助交際」をこう呼ぶ)を助長している」等と言うつもりは(実際に作品を見ていないので)無いが、果して「アニメージュ」誌が「ポケモン事件」を半ば無視してまで、巻頭カラーにそえるべき作品であったのか、という疑問は抱かざるを得ない。
 おそらく、2誌の編集者には、「ここでポケモン問題を大々的に採り上げて、下手な騒動をおこせば、あとで『テレビアニメの元締め』テレビ東京や任天堂、制作会社から圧力が加わるのではないか(いやもう加わっているという噂もあるが・・・)」「テレビ東京で放映するアニメについて、記事に出来なくなるのではないか」という不安があったのだろう。アニメ雑誌は、制作者の許可を得てアニメの内容を記事にしたり、セル画を描いてもらったりして掲載することで、「営業」が成り立っている。テレビ東京への「反旗」は致命的であろうし、広告主も減少するかもしれない。ならば、編集部としては「このままそっとしておく」方針を打ち出したのも、理解できなくはない。「口は災いのもと」「触らぬ神に祟り無し」とも言う(実際、長野冬季五輪大会と新井将敬代議士自殺ですっかり忘れられた観がある)。その意味で、アニメ雑誌は所詮「大いなる宣伝パンフレット」でしかないのかもしれないが、それにしてもということはある。ここで、表紙に涙を浮かべながら「ごめんなさい」をするピカチュウの絵を掲載すれば、かえって同情を呼ぶのではないかと思うのだが・・・。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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