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独立色強める中華民国(台湾)
〜今月の世界軍事情勢〜

中島 健

 平成8年の台湾海峡危機以来、経済の停滞もあって、我が国ではこのところ中華民国(台湾)に対する関心はだいぶ冷めてきている。人口2124万人、面積3・6万平方㎞(我が国=38万平方kmの約10分の1、九州は4万平方km)、一人当たりGNP11597ドル(1994年)。アジアNIESの雄であり、民主政体をとるこの国は、よく知られているように、中国共産党との内戦に敗れた蒋介石率いる中国国民党が統べる国であり、現在でも、公式には、全中国の唯一の正統政権であるとして「中華民国」を名乗っている。そのため、大陸の中共政権(中華人民共和国)は、自国こそ唯一の正統政権であるとして、同国と国交を樹立する全ての国に、中華民国(台湾)との断交を迫っている。我が国も、1972年の日中共同宣言において、この中華人民共和国の立場を「理解し、尊重する」として、台湾との断交(正確には、外交関係の終了)に踏み切っている(なお、米国は、米中国交正常化に際して同様の措置をとったが、同時に、国内法として「台湾関係法」を制定。軍事協力を続けることを内外に明確にした)。1998年には南アフリカ共和国も台湾断交に踏み切り、今では、中華民国(台湾)が正式に国交を樹立している国はアフリカ諸国や中南米・カリブ海の小国等30ヶ国のみになってしまった。
 しかし、経済も好調な中華民国(台湾)は、次第に中国からの独立色を強めつつある。87年には戒厳令が解除され準戦時体制を平時体制に移行。88年に初の台湾出身の総統に就任した李登輝氏は、91年には憲法の中国敵視条項(中国が共産党という反乱勢力によって不法占拠されているとする「反乱鎮定動員時期臨時条項」)を廃止。95年には非公式ながら訪米を実現し、96年には初の総統直接選挙を実施して再選され、中国史上初の近代的民選首長となった。台湾の民主化は着実に進んでおり、もはや我が国や韓国と並ぶ東アジア民主国家群の一つになったと言ってよいであろう。しかも、中華民国(台湾)は常に大陸中国(中華人民共和国)の軍事的威圧に晒されてきたことから、国防面についても民主政体国家として十分な配慮を行っている。現在、中華民国の支配する領域は台湾本島及び周辺諸島、東沙諸島、金門島、馬祖島(うち、金門・馬祖両島にはアメリカの「台湾関係法」は適用されない)と大陸中国(中華人民共和国)に比べて狭い範囲に過ぎないが、経済力はほぼ対等といってよく、一人当たりGNPは大陸の実に22倍(大陸中国は530ドル)であり、外貨準備高は世界第2位である。この経済力を使って、中華民国は現在軍備近代化計画を推進中で、それは陸軍、海軍(海兵隊を含む)、空軍の3軍の均衡のとれた全軍的な計画となっている。
 海軍は、93年からアメリカの「O・H・ペリー」級ミサイル・フリゲイトを7隻取得(主兵装スタンダード対空ミサイル:うち2隻は建造中)し、「成功」級と命名して配備している。更に96年からはフランス製最新鋭ステレス・フリゲイト「ラファイエット」級の仕様を多少変更した「康定」級6隻の導入もはじまり(主兵装雄風Ⅱ対艦ミサイル:うち2隻は建造中)、このほかにアメリカから冷戦終結で余剰となった「ノックス」級フリゲイト9隻(主兵装:アスロック対潜ミサイル、127ミリ速射砲)を93年から導入した。その他、大型補給艦「武夷」や多数のミサイル艇も配備されている。それ迄、第2次世界大戦で大量建造されたアメリカ駆逐艦13隻等を改造し、最新型のミサイルと速射砲を搭載して運用してきた同海軍だったが、以上の最新鋭艦艇22隻の導入で、東アジアでは海上自衛隊に次ぐ西欧型近代的海軍兵力を持つに至った。これは、依然として技術レベルが冷戦初期程度の旧式艦艇が主力をなす大陸中国(中華人民共和国)海軍を十分に凌ぐものであり、金門・馬祖島の確保とあわせて、台湾海峡の制海権掌握という台湾防衛上の重大要件を達成するのに多大な貢献をしている。
 空軍は、97年からアメリカ製F-16戦闘機150機とフランス製ミラージュ2000ー5戦闘機60機を取得しはじめ、加えて自国製の「経国」戦闘機130機を既に配備した。いずれも西側先進国レベルの航空機で、合計340機の近代的戦闘機は航空自衛隊を凌駕する航空戦力である(空自の全力が、九州に集結しているのと同じ状態である)。これらの航空機は、大陸中国の空軍機(その多くは海軍と同様、旧式)と数の上では劣るものの、性能の上では比較にならない程優位に立っていると言えよう。
近代化が最も遅れていた陸軍は、91年に現役部隊「3個兵団(軍)6個軍(軍団)20個師団」体制を「3個軍(軍団)12個師団」体制へと簡素化。更に、97年からは師団制を廃止して旅団制に移行し、空中機動旅団や機甲旅団を整備しており、台湾防衛により適した軍備形態へと転換している。陸軍が機械化されれば、大陸中国の陸軍が「台湾侵攻」に必要な装備も又膨大なものとなり、大陸中国にその揚陸能力が無い以上陸軍力一つでも相手方の「台湾侵攻」をあきらめさせることができよう。
 これらの近代化、部隊改編は、基礎となっている国防計画の大幅改訂がきっかけとなっている。96年に公表された国防白書(そもそも、国防報告書も90年代に入ってから刊行された)で「攻守一体」から「防衛固守、有効嚇阻(=有効なる威嚇、抑止)」への転換がはかられ、大陸中国に対抗する軍事計画をはじめて「国防」と規定した。従来は、大陸中国(中華人民共和国)を反乱勢力として取り扱い、軍事計画も「大陸反攻」、つまり「一つの中国」政策に沿ったものだっただけに、今回の「国防」計画化はすなわち台湾地域を一つの「国家」とみて、大陸中国(中華人民共和国)の侵略の防衛に、軍事計画を位置づけたことになる。そして、それに基づいて西欧水準まで近代化された中華民国の軍事力は、台湾海峡の制空権・制海権を掌握するに十分であり、かつ台湾上陸をあきらめさせる陸軍力が存在しているのである。
 今、中華民国(台湾)の民主化は急速に進んでおり、それに伴って軍備もより民主的なものにかわってきている。勿論、大陸中国(中華人民共和国)という軍事的脅威が厳然として存在する以上、徴兵制は今後も継続されるだろうが、このように政治部門だけでなく軍事部門も完備した民主政体国家は、東アジアにはほかに韓国が挙げられるくらいである。我が国も少なくとも政治部門では民主政体国家を標榜する以上、東アジアのこの民主国家を見捨てるような行為は慎むべきではないだろうか。そもそも、同一民族が社会主義国と自由主義国に分裂している場合、支持すべき勢力がどちらかは自明ではないだろうか。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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