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鉄道のはなし
〜第2回 「座席」のはなし〜

中島  健

■1、はじめに
 皆さんは、列車の座席の配列についてご存知だろうか。普段何気なく乗っている通勤電車、あるいは特急電車には、しかし実に様々なタイプの座席がある。しかも、これは特に特急電車について言えることだが、座席の種類によっては同じ特急料金を徴収しながらサービスに格段の差がある場合が多々あり、しかも鉄道会社各社は、場合によってはそ の独占的な地位と消費者の無知を理由に、サービス改善をおろそかにしていることが多いのである。そこで本稿では、鉄道車両の座席について、どのようなものがあるのかを紹介してゆくことにする。

■2、座席の配列による分類
 鉄道車両の座席を全般的に分類すると以下のようになるが、ここではまず座席の配列による分類を解説したい。

座席の配列

ロングシート

セミクロスシート

クロスシート

固 定

山手線等の通勤路線
私鉄・地下鉄の通勤車両
近郊型車両
地方中小私鉄
地方路線の車両・急行型車両
西武4000系、東武6050系
急行型車両を転用したローカル線の普通

転 換

 阪急電鉄、相模鉄道
の一部
大阪・名古屋の新快速
快速「みえ」(JR東海)
京浜急行の快速特急
新幹線電車の一部(E4系)

回 転

  JRの一般的特急、新幹線電車
私鉄の有料特急
快速「ムーンライト」号等
特急・急行・快速・普通のグリーン車

 一般に、大都市圏を走る通勤電車(山の手線や私鉄各線、地下鉄線など)は、「ロングシート」と呼ばれる形式で座席を配置している。これは、ドアとドアとの間に、レール方向に長い座席を設けて、窓(壁)に背中を向けて座らせるタイプの座席である。立ち席のスペースが広くとれることから詰め込みが効き、そのため通勤電車ではほとんどがこのタイプの座席配列をとっている。ロングシートは、確かに混雑する区間では出入りもしやすく、立ち席に余裕があるためすし詰め状態になりにくい(それでも朝夕のラッシュ時はすし詰め状態だが…)ので有効だが、反面他のシート配列と比べて着席定員が大幅に減少するので、ラッシュで無い時間帯には大きなサービス低下となる。また、窓に背中を向けて座らされるので、外の景色を楽しむことはできず、観光用には適していない。
 次に、(JRの)特急列車や急行列車、一部の快速列車に見られるのが、「クロスシート」と呼ばれる座席配列である。これは、枕木方向(窓と垂直)に座席を配置する方法であり、さらに後述する座席の種類によって「回転クロスシート」「転換クロスシート」及び「固定クロスシート」の3種類に分類される(「固定クロスシート」は更に「集団見合い型」と「集団離反型」の2つに分けられる)。特急用・行楽用の電車や団体用の列車は、全てこのクロスシート方式を採用しているが、これはこの方式が立席定員を減らすかわりに着席定員を増やし、サービスの向上をはかることができる為である。しかも、窓の横に座ることができるので、乗客は外の景色を十分に楽しむことができる。
 最後に、大都市の近郊区間や地方都市を走る電車や気動車は、「セミクロスシート」と呼ばれる形式で座席を配置している。これは、後述する「クロスシート」と「ロングシート」の混合型であり、出入り口付近は混雑を緩和するため2人がけのロングシートを、また出入り口と出入り口の間には、座席を枕木方向(窓と垂直)に配置したクロスシートをそれぞれ配置する。これは、ロングシートの「詰め込み性」とクロスシートの「着席性」の、それぞれよいところを折衷したものであるが、逆に行楽用としてはサービス水準が低く、通勤用としては着席定員は増えるものの詰め込みが効かず、下手にラッシュ時間帯に窓側の座席に座ろうものなら、場合によっては下車し遅れる可能性もある。
 なお、クロスシートの変形として「ツイングルシート」がある。これは、東京の京浜急行電鉄が600系電車用(現在就役中)に開発したもので、基本的に3扉オールクロスシート車ながら、ラッシュ時には出入り口付近のクロスシートを自動的に収納し、立席定員を増加させるというものである。こうすることで京浜急行は、通勤路線ながらできるだけ多くの乗客が着席通勤できるようサービスを向上させたのであり、地下鉄線内を直通する列車としてはめずらしくオールクロスシートであったたため、大きな反響を呼んだ(元来、京浜急行は着席通勤のためのサービス向上に熱心な会社であった)。しかし、これは座席を隣の座席に収納させるユニークなアイデアであったが製造コストが高くつき、第2次製造車以降はこの収納機構を廃止してしまった。

■3、座席の種類による分類
 次に、特にクロスシートの配列をとるものについては、座席の種類による分類をすることができる。
 固定クロスシートは、文字通り固定された座席であり、2人がけの場合と4人がけボックスシートの場合がある。これは、主にJRでは急行型車両(165系、キハ58系等)やそれを転用したローカル線区間の普通列車に、また私鉄では追加料金不要の看板特急列車(京急2000系、2100系)で使用されている。2人がけの場合は、車両の中央部で座る方向が変わるが、中央部が4人がけになっている集団見合い式と、中央部は背中あわせになっている集団離反式の2種類がある。昔は、この垂直に切り立ったような背もたれを持つ固定クロスシートが急行列車の主流であったが、現在ではサービス水準が低すぎるために次々に普通列車・快速列車に転用されている。なお、特急列車のくせに固定クロスシートを採用した例として、JR東日本の成田エクスプレス(普通車)やスーパービュー踊り子(普通車)が挙げられる。
 これに対して転換クロスシートとは、椅子本体は固定されているものの背もたれが移動(転換)するために、列車の進行方向にあわせて座席を動かせるもので、JRでは東海・西日本の新快速、私鉄では追加料金不要の看板特急列車(京阪、阪急、南海、近鉄、名鉄等)に使用されている。現在のサービス水準からすれば転換クロスシートは快速列車用ということができるが、旧国鉄では特急と普通両方に使えるようにと開発した185系特急電車に、この転換クロスシートを採用して顰蹙を買った(現在では、一部の車両で回転クロスシート化工事が為されている)。なお、最近ではJR東日本のE4型二階建て新幹線の一部にこの転換クロスシートが使われ、批判を浴びている。
 回転クロスシートは、座席の本体ごと1回転するタイプのもので、JRの特急列車や私鉄の有料列車に装備されている。これは、座席に簡易リクライニング機能があるためで、同じくリクライニング機能のあるグリーン車の座席はすべて回転クロスシートである。本来特急列車ならば、普通車であっても簡易リクライニング機能を備えた回転クロスシート車であるべきなのだが、実際には時と場合によっては、特急料金を払わされながら転換クロシートや固定クロスシートに座らされることがある。

■4、最近の通勤電車座席事情
 さて、最近のJR東日本の通勤電車では、クロスシートのロングシート化ということが行われている。これは、通勤圏の拡大やラッシュの激化に伴って、従来セミクロスシートだった東海道線や常磐線、東北本線、高崎線の中距離列車(近郊型電車)に、より詰め込みの効くロングシート化改造を施すもので、ピーク時のラッシュ緩和を目的としている。しかし、本来中距離を走るこれらの列車の乗客は比較的乗車時間が長く、当然山の手線のようにギュウギュウに詰め込まれて立っているよりも、ゆったり座って通勤したいと思っている。にも関わらず、「詰め込みが効く」「乗車率が緩和される」というだけの理由で、JR東日本は中距離電車の座席数削減に走っているのである。また、前述したようにロングシートでは窓に背中を向けて着席するため、外の景色を楽しむこともできない。
もっとも、JR東日本は何も着席通勤を否定している訳ではない。例えば、現在東海道線には、貨物線を利用した「湘南ライナー」「湘南新宿ライナー」という定員制列車が走っており、専用の車両も開発されている。また、これに似た事例として、東北・高崎線の回送特急車両を利用した「ホームライナー」が運転されている。しかし、これらの「ライナー」は「ライナー券」と呼ばれる300円程度の料金を支払わなければならず、時間的にも固定されてしまう。また、その他の着席通勤手段としては東海道線・総武線・横須賀線の普通列車のグリーン車利用という方法もあるが、グリーン券は最低でも730円する上に、混んでいて下手をすると着席できない場合もある。つまり、「着席通勤をしたければ、余計にお金を払いなさい」というのが、JR東日本の営業方針なのである。
これは、果たして妥当な措置なのだろうか。確かに、一般より高いサービスを受けるのに追加料金を徴収するのは致し方のないことではあるが、かといって一般のサービス水準を落としていい理由にはならない。最近では、JR東日本は首都圏にとどまらず、盛岡近郊区間や新潟近郊区間等の地方路線にも味気ないロングシート車両を増備し続けており、代替着席通勤手段の無いこれらの線区では不評であるという。このように、JR東日本の一連のロングシート化工事は、一時的なラッシュ対策にはなっても、観光客や着席通勤を希望する客には配慮が足りないというべきである。JR東日本は、せめて列車の一部分でよいからクロスシート部分を復活させ、長距離乗車する通勤客や観光旅行のニーズにこたえるよう努力してほしい。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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