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「長野行新幹線」の名前を問う
〜不自然な名前より旧線の名前を活かせ〜

中島 健

 この2月7日で、長野冬季オリンピック大会から丸1年が経とうとしている。
 ところで、最近、そのオリンピックに関して、ソルトレイクシティー大会におけるIOC(国際オリンピック委員会)理事に対する買収疑惑で報道が過熱、商業化したオリンピックの「権益」を巡る問題として注目されているが、そうした「オリンピック権益」に関連して私に思い出されたのが、1997年4月の「新幹線路線名称論争」である。
 1997年10月1日、長野オリンピック関連として、全国新幹線鉄道整備法によるフル規格新幹線として開業した「長野行新幹線」は、大会期間中も大きな故障なく観光客・観覧客を長野へと運んだが、97年4月ごろ、この新幹線の名称を何とするか、JRと自治体との間で論議が巻き起こったことがあった。
 元来、この新幹線は、法律上の名称をとって「北陸新幹線」として建設され、正式名称として使用されてきたのだが、97年10月に開業した部分は高崎ー長野間の117.4kmであって北陸地方には届かないことから、JR東日本がその案内名称(営業用の名称)として「長野新幹線」なる用語を使うこととしていた(他に、JR側は、建設費用の嵩む北陸新幹線延伸工事に本心では反対であったために、わざと「北陸」の文字を外したとする有力説もある)。しかし、これに対して、北陸新幹線延長工事を望む長野以北の地方自治体から、「『長野新幹線』という名称では、延長工事が前提とならない。『北陸』の名称を残すべきだ」といった異論が続出し、結局97年4月の時点で、駅名や愛称(一時は『ときめき』なる名称も報道されたが、結局信越本線特急であった『あさま』を継承した)については公表されたのに、路線名自体が未決定という異常事態となった。大手報道機関も、例えば日本経済新聞97年4月15日朝刊は「『路線名は長野風やめて』北陸の自治体不満の声も」、同じく5月5日朝刊は「呼称は長野か北陸か新幹線揺れる JR東日本『まだ長野まで』北陸自治体『名前は残して』」、また産経新聞5月10日朝刊は「北陸新幹線の愛称で”もめる”JR東日本変更、北陸地方固執」等と報じて、この問題を取り上げた。結局、JR側は最後になって「行」の一文字を挿入して「長野行新幹線」なる名称とすることで妥協したが、今度は「上り上野ゆき列車も『長野行新幹線』とはおかしい」「糸魚川まで延長したら『糸魚川行新幹線』となってしまう」といった異論が出、JR側は、開業のPRは終始「新幹線あさま」という名称を使い、やがて営業名称も「長野新幹線」が慣用されるようになって今日に至っている。
 確かに、この何ともくだらないようにも見える論争は、一見、JR側が乗客の案内を優先して「長野新幹線」と改称した際、「北陸新幹線延長」という政治的動機から反対論を投げかけた北陸自治体側が生み出したものに見え、自治体側が非難されるべき事件であるかのように見える。特に、国鉄の長期債務28兆円の償還がまさにこれからはじまろうとする時に、膨大な建設費用のかかるフル規格新幹線を新規に延伸開業させようとするのは、国家財政全体の負担を何等考慮しない主張であり、その限りにおいてはJR側の立場は支持されよう。

▲名前は「信越新幹線」にすべし(写真は軽井沢駅のE2系新幹線電車)

 しかし、私の見るところこの問題は、元々法律上の名称であり従来使用されてきた「北陸新幹線」の名前を、勝手に「長野新幹線」に変えようとしたJR側の判断にミスがあったように思われる。無論、私はここで、法律上の名称が絶対であると言いたいわけではない。ただ、鉄道路線特に権益・利権の関係する新幹線の名称については、今回のような無益な議論を巻き起こさないためにも、その結果「長野行」というようなおかしな名称になってしまないためにも、JR側は客観的な基準を以って命名すべきだったということを主張したいのである。そしてその際、少なくとも、山形新幹線や秋田新幹線のような「ミニ新幹線」の如く「行き先」を名称とする命名方法は、長距離を走行するフル規格新幹線にはそぐわないものであり、その点JR側がミニ新幹線的マインドで改称を決定したのは軽率だったということが出来よう。あまつさえ、「長野行新幹線」では、却って語感を損ねるのであって、到底これを妥当な命名であったということは出来ないだろう(現在、「長野行新幹線」は長野ー上越間で延伸工事を行っているが、これが開業した暁には、ミニ新幹線的命名方法では「上越新幹線」となり、二つの「上越新幹線」が誕生してしまう。かといって、上越市は新潟県であって長野県ではないから、「長野新幹線」のままでも不適当である)。
 では、新幹線路線の命名基準として、最も妥当なものは何であろうか?私は、それを平行在来線に求める。
 元来、新幹線路線は、外見こそ新規の別線であるが法制上は単なる平行在来線の線増路線であり、例えば東海道新幹線は東海道本線の一部として建設されたのであって、決して独立した「新幹線」が存在するわけではなかった。また整備新幹線である東北・上越新幹線は独立路線として建設されたが、その名称は、いずれも平行在来線の東北本線、上越線(高崎線も平行しているが、名称としては不適当であろう)に準拠している。成田新幹線は成田空港アクセスを使命とする路線であったから例外に属するが、それでも一応成田線という在来線が存在する。この基準を以って判断すれば、「長野行新幹線」は一部廃止された平行在来線「信越本線」に準拠して「信越新幹線」と改称されるべきだったのであり、こうすればどこからも文句は出なかったはずである(しかも「信越」ならば「北陸」を意味する一字が挿入されているので、自治体側の理解も得やすい)。少なくとも、「長野行」のような不様な名称を使用する必要は全く無かったであろう。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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