このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

省庁名称はわかりやすく
〜変化は最小限に留めるべき〜

中島 健

 橋本龍太郎前内閣の主要政策の一つであった「行政改革」の成果である「中央省庁等改革基本法」に基づいて、2001年から各中央省庁を再編する省庁設置法案の改正が行われるが、その省庁の新名称を巡って、政府・自民党内部で対立が続いている。当初、行政改革会議が答申したいくつかの省庁名について、自民党内部や事務当局側から異論が出、結局正式名称については有識者会議に委ね、本決定を先送りした形だが、その答申案についてもまた異論が出ている。例えば、当初行革会議の答申案では「財務省」となっていた大蔵省は、この見直しを機会に「大蔵省」の名称を廃止すべきでないと主張し、また労働省と厚生省が統合された「労働福祉省」、文部省と科学技術庁が統合された「教育科学技術省」、建設省・運輸省・国土庁等が統合された「国土交通省」の3省についても、一時伝えられた有識者会議の案(「労働福祉省」→「民生省」「社会省」、「教育科学技術省」→「文部省」等)に対して、「科学技術の四文字を廃止すべきではない」といった見解が聞かれている。報道によると、結局小渕首相は、党内紛糾を避けるためこの問題は国会の日程をある程度消化した後決定することとしたようである。
 ただし、いずれの見解にしても、それは「現行省庁の枠組みを可能な限り維持したい」とする事務当局及び一部議員の主張、そしてそれに反発する行政改革会議側の「政治的な」主張ではあっても、「国民にとってどれだけ分かり易いか」という視点から見れば、現在問題とされている議論はその根本的立場からして不明朗であると言わなければならない。その意味で、今後決定される新しい省庁名は、そうした「権益維持」的視点からも、また行政改革会議の答申のように「妥協」的視点からも、共に自由であるべきであろう。
 そこで私は、「分かりやすさ」という観点から、変化を最小限に留めた省庁の新名称を、以下の通り提唱したい。
 まず、「財務省」だが、行政改革会議側は、「大蔵省」を「財務省」と改めた理由について、「一連の大蔵省不祥事及び『財政と金融の分離』に鑑みて、新たな省名を設定した」等としているが、あまり説得力のある説明ではない。「大蔵省」という名称は既に律令官制、あるいはそれ以前の朝廷の官職名(三蔵)として我が国に長く存在した名称であり、金融部門の統合・分離とは何等関係の無い話のはずである。現に、報道等では、例えばG7を「主要先進国蔵相・中央銀行総裁会議」と呼称しているが、この中には無論「大蔵大臣」ではなく「財務長官」という名前を使用している国も含まれるものの、我が国の慣用に従って全体としては「蔵相」と呼んでいる。この様に、「国民の間で定着している」という観点からも、「財務省」は従来通り「大蔵省」と呼ばれるべきである。

 

▲財務省となった旧大蔵省(左)と労働福祉省となった旧厚生省・旧労働省(右)

 次に、「労働福祉省」だが、これはかねてから指摘されていた通り、略称が「労福省」とあまり美しくない上に、旧厚生省の担当分野である医療行政が不明確であり、同じく適当な名称とは言い難い。更に、大臣を「外相」「農相」等と省略して呼称する場合は「労相」となり、「労働省」の印象が強くなり過ぎる。ここは、歴史的な順序(労働省は戦後発足した新しい省である)や語感から、「福利厚生省」乃至「厚生省」とすべきであろう(略称は「厚生省」)。但し、一時報道された「民生省」や「社会省」(もっとも、大臣の略称は「社相」=「車掌」になるが)も、それなりに分かりやすい名称であり、また律令官制を真似るならば「民部省」というのもよい案の一つである。
 「教育科学技術省」は、今回「労働福祉省」と並んで行革会議が答申した案の中では最も語感が悪く、既に指摘されているように略称が「教科書(省)」になってしまう上に、字数が7文字と多すぎる(余談だが、略称は「教相」となるとすると、1872年から1877年にかけて一時的に存在していた「教部省」[神祇省の後身]のような響きになる)。一部で報道された、明治維新以来の伝統がある「文部」の二文字を残す「文部省」据え置き(「文部」の中に「科学技術」の意味は含まれているとする)案が、最も妥当な案であろう。

 

▲教育科学技術省となった旧文部省(左)と国土交通省となった旧運輸省(右)

 最後に「国土交通省」については、略称が「国交省」となって外務省と混同し兼ねない上に、語感的にも「交通」という言葉が軽すぎる嫌いがある。かといって「建設省」「運輸省」だけでは、互いにカバーしない部分が生じてしまうことも又事実である。ここは、運輸・建設双方の性格を併せ持つ「国土省」が適当ではないだろうか。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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