このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

迷彩服で何故いけないのか
〜不可解としか言いようが無い〜

 中島 健

 報道によると、陸上自衛隊は6月25日、毎年北海道・矢臼別演習場にて実施している北方機動演習の一環として、戦闘服(迷彩服)姿の陸上自衛官を民間航空機に搭乗させ移動する訓練を実施したが、これに対して「日本航空機長組合」(岡崎憲雄委員長)や日航労働組合、日本共産党宮城県委員会等から搭乗反対の声が上がっているという(日航機長組合は23日、「日本航空の歴史上、戦闘服を着用しての搭乗は初めてで民間航空としては行うべきではない」との声明を発表した)。今回民間機(日本航空)を利用したのは第6師団(東根市)の戦車大隊に所属する隊員等110人で、仙台発千歳ゆきの日本航空機に、一般の団体客として搭乗した。陸上自衛隊では、27日までに、日本航空の他日本エアシステムの航空便も利用し、総計300人の隊員を戦闘服を着用して移動させる。
 有事の際、陸上自衛隊があらゆる手段を使用してその兵力を移動させるのは当然であり、むしろそうした機動力を確保するということはより小人数の自衛隊員で効率的な防衛力の発揮が期待できるということでもある。しかしながら、現在の航空自衛隊や海上自衛隊(1個連隊戦闘団の同時輸送能力を目標としているが、未だに達成されていない)の輸送能力は限られており、我が国有事の際には、事実上、有事法制等を適用して民間航空機や船舶を利用せざるをえないのが実状である(実際、今回の演習でも、陸上自衛隊は民間のフェリーをチャーターして105ミリ榴弾砲や74式戦車を輸送しなくてはならなかった)。また、実際問題として、自衛隊が平時から多数の輸送航空機を保有するよりも、多数存在する民間航空機を有事に(強制的にせよ)チャーターしたほうが、国家安全保障のあり方としても効率的であろう。そもそも、一旦朝鮮有事・日本有事等の戦争状態が発生すれば、乗客が自衛官であろうと民間人であろうと民間航空機の営業は困難になるのは避けられないのであって、冷静に考えてみれば、迷彩服の自衛官を輸送することがただちに民間航空機の運行を危険に晒す訳ではない。にも係わらず、陸上自衛官が、彼等の「仕事着」であるところの迷彩服を着用して民間航空機を利用することが「一般の乗客に不安を与える」「ガイドライン関連法案のための既成事実づくりだ」等というのは、説得力を全く欠く屁理屈と言わなければなるまい。
 加えて、民間航空業は公共性の高い事業であり、原則として(運行を妨害する等の危険な行為を為す者でもない限り)利用者を選別してはならないはずである。つまり、利用者が迷彩服を着ていようがミニスカートを履いていようが、あるいはスーツを着ていようが仕事着を着ていようが、それは乗客の勝手なのであって(さすがに「全裸」とか「水着」といった、常識を逸脱した場合は別であるが)、陸上自衛官の「仕事着」である戦闘服が「不安を与える」等と断定して着用や搭乗を拒否するのは(戦闘服の着用が、例えば携帯電話やビデオカメラの如く具体的に航空機の安全運行を妨げるならともかく)、「常識的」に考えてあまりにもおかしな論理である(いや、論理ですらない)。この点、最終的には一般の団体客と同じ扱いで搭乗を許可した航空各社の判断は極めて妥当であり、航空運送の公共性を意識したものであったと評価することが出来よう。
 翻って、行政側の対応も又一応は適切であったが、一つだけ重大な問題があった。それは仙台空港事務所の対応で、実は、運輸省の地方支分局であるはずの同事務所は、こともあろうに「一般客に不安を与えるので迷彩服はやめてほしい」等という申し入れを防衛庁側にしていたのである。政治的な理由から日米安保・自衛隊に反対している労働組合や政党ならばまだしも(政治的な説得達成は必ずしも論理的説得が最良の手段ではないから)、れっきとした行政府の一機関である空港事務所が、このような理不尽かつ非論理的な要求をなすことは全く以って不可解かつ不必要であり、こんな政治的屁理屈に運輸省当局が加勢しているなどというのは言語道断である。政府には、仙台空港事務所及びその上部部局たる東京地方航空局・運輸省本省の航空局の処分を強く求めたい。
 無論、乗客の中には、迷彩服や軍服に違和感を覚える人もいることだろう。それはそれで、個人の主観としてはあり得るだろうし、そういう主観をもった人間がいることそれ自体は理解できないわけではない。だが、それはあくまで好みの問題なのであって、それを理由として自衛隊の公共交通機関利用の在り方に文句を垂れるというのは、如何なものだろうか。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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