このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

盗聴したのは警察か
〜保坂議員盗聴問題を考える〜

 中島 健

 報道によると、保坂展人衆議院議員(社会民主党)は7月7日、テレビ朝日記者との電話内容が何者かによって盗聴され、内容が漏洩していた事件について、被疑者不詳のまま東京地方検察庁に電気通信事業法違反(通信の秘密の侵害)容疑で告発したという。この事件は、先月(6月)22日に保坂議員とテレビ朝日記者との間で交わされた通話について、その内容を記した投書が東京都内の主要報道機関に郵送されてきたため発覚したもので、議員はデジタル携帯電話で、記者は一般加入電話で会話をしていた。投書は警察官を名乗る者からで、「警察の施設からNTTのTWS(試験制御装置)にアクセスし、傍受した時のものです」「通信傍受法の施行に当たって、警察では警察庁の指示に基づいて試験的に通信回線の傍受の準備をしています」等と記された文書が添付されていた。なお、この事件に関してテレビ朝日広報部は「盗聴かどうかの事実関係について現在確認している。もし取材活動の一環でこのような形で盗聴されたとすれば、大変な問題だ」としている。

▲「盗聴」事件の舞台となった国会(東京都千代田区)

 だが、今回のこの事件は、あまりにも不審な点が多い。
 そもそも、今回の事件は、野田毅国家公安委員長、関口祐弘警察庁長官が既に発表した声明で述べているように、警察組織とはおよそ無関係の事件と考えることができる。無論、警察とて一枚岩ではなく、また人間の組織ゆえ時として不祥事が報じられることもあるが、通信傍受法案など組織犯罪対策法が参議院で審議中というこの重要局面において、警察庁が、こともあろうに通信傍受法案反対派の急先鋒である保坂代議士の電話を傍受し、しかもその事実を自ら暴露して反発を招く程愚かであるとは到底思えない。第一、与野党が伯仲し、法案成立が危ぶまれている状況ならばまだしも、実際には同法案は自民・自由・公明の三党による安定多数の賛成を得ており、ここで態々反対派議員の携帯電話を盗聴し、更にそれを自ら暴露する程状況は危機的ではなく、第一、保坂議員は、確かに通信傍受法反対の急先鋒ではあったが、政局の鍵を握る野党第一党の大幹部という訳でもなく、警察が発覚のリスクを犯して通信傍受を試みるほどの重要な政治家とも思えない。更に、「利用者の信頼」を最優先したい電話会社がこれに加担したとも到底思われない。
 しかも、今回の事件の犯人は既に自分が盗聴している電話機を告白してしまっており、従って犯人は他の目的で保坂代議士の周辺を監視していたとも考えられない(これからも盗聴を続けるつもりなら、自分が盗聴していることを暴露するはずが無い)。つまり、今回の事件の犯人の意図は、明らかに通信傍受法案廃案を狙った意図的な犯罪行為であり、国家の司法機関や捜査機関の権威を失墜させようと意図していたと断ずることが出来るのである。これは、「いかにも警察が盗聴をしているかのような文書で、国民の警察に対する信頼を低下させるとともに、審議中の組織犯罪対策3法の成立を妨害しようとする悪質な意図を背後に感じる」(野田公安委員長)ものであって、更に、犯罪を手段として故意に世論を誘導し、国会審議を歪めようとしたという意味で反民主制的な卑劣な行為であるということが出来よう。

▲国会近くにある警察関係合同庁舎(東京都千代田区)

 では、その犯人とは一体誰だったのであろうか。この事件について保坂代議士の利用していた携帯電話会社であるNTTドコモ広報部は「通信傍受法案ができても、携帯電話の傍受には新たなシステムが必要だ。社内でも通話内容はモニターできない」と話しており、またNTT東日本広報部は「外部からTWSにアクセスして傍受するのはシステム的にできない。また、特定の携帯電話に着信する通話を狙って傍受することもできない。何らかの犯罪的行為がない限り通話の傍受は不可能だ」と説明している。つまり、この事件の犯人像としては、①デジタル携帯電話のスクランブルを解読できる程高度な情報通信機器を備えた何者か、②テレビ朝日の一般加入電話に物理的に盗聴機を仕掛けた何者か、又は③テレビ朝日又は保坂代議士、若しくはその両者による創作、の3つの可能性があるということになる(「テレビ朝日による創作などあり得ない」と反論するむきもあるが、同社がかつて、与党・自民党に不利な選挙報道をしようとしたり(いわゆる「椿発言問題」)、所沢市のダイオキシン問題で事実を歪曲する報道をしていたことからすれば、全く根拠が無い考え方とは言えない)。そして、実際には、今回の通信傍受法案がらみの議論だけのためにデジタル会話を解読する装置を装備する犯罪者というものが想定出来ない以上、可能性が高いのは②又は③ということになろう(なお、一部報道によれば、今回盗聴機を仕掛けられたテレビ朝日の記者は与党担当で、与党の一部勢力が別の勢力の動向を探るため盗聴機をしかけたのではないか、との説があるという。これは、②の可能性を示唆するものと言えよう)。少なくとも、7日、民主、共産、社民等で発足した国会議員調査団(坂上富男衆議院議員=民主党呼びかけ)は、事件の解決に貢献するどころか、むしろ騒ぎを大きくして犯人側の悪意に加担してしまっているという他なかろう。その点、報道によると、呼びかけ人の坂上代議士は「盗聴が捜査機関によるものか謀略なのか2つの観点から法務委員会など国会の場で真相究明していきたい」等と話したというが、かかる状況においてなお、捜査機関による盗聴の可能性に言及しているという点で、代議士の見識を疑わざるを得ないのである。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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