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与野党党首選を見る
〜政界再編へ動き出せ〜

 中島 健

■1、はじめに
 9月9日に告示され、21日に投開票が行われた自由民主党の総裁選挙は、小渕派(議員94人)・森派(63人)・江藤亀井派(63人)・旧河本派(17人)、河野グループ(16人)等の支持を受けた現職の小渕恵三総理大臣が350票(議員253票、党員97票)を獲得して1位当選した。加藤派(70人)の支持を受けた加藤紘一前幹事長は113票(議員85票、党員97票)、山崎派(31人)の支持を受けた山崎 拓前政務調査会長は51票(議員33票、党員18票)であった(党員票は1万票を議員票1票に換算)。なお、党員の推定投票率は49.29%であった。
 一方、9月11日に告示され、25日に投開票が行われた民主党の代表選挙は、決戦投票の末、鳩山由紀夫幹事長代理が全体の6割である182票を獲得し、民主党第2代代表に当選した。菅直人前代表は130票であった。投票は第1回の投票で鳩山154票、菅109票、横路孝弘総務会長57票(投票は国会議員、次期衆院選公認候補、都道府県代議員の計321人)となり、鳩山氏が過半数を獲得できなかったので決選投票となったという。菅氏・横路氏の2・3位連合は無かった。民主党代表選挙では、当初、菅代表の続投の方向で動いていた民主党代表選挙は、菅代表に不満を持つ議員が鳩山幹事長代理を擁立したことで一転して鳩山優位となったが、31日に党内最大勢力である旧社会党系議員を代表する形で横路総務会長が立候補したことで、野党版「自社さ」連立状態を露呈した、保革が衝突する擬似国政選挙の様相を呈してきた。

▲自由民主党総裁選挙が行なわれた自民党本部(東京都千代田区)

 今回の与野党の2大政党の党首選挙は(他党の党首が党内選挙で選出されたというよりも、ほぼカリスマ的な理由で決定されていることからすれば)、総選挙を前にして国民の政治に対する注目度を一気に高めた観があるが、しかし又同時に、両党の問題点をうき掘りにしたとも言えよう。

■2、代表選に見る民主党の問題点
 まず民主党であるが、今回の代表選挙は結局、正に民主党の「公党」としての問題点を改めて浮き掘りにしたといえよう。
 例えば、党内反菅直人陣営から支持されて立候補した鳩山幹事長代理だが、その立候補の記者会見は極めて不明瞭なものであった。一応、「自自公連立政権に対抗する」等の当り障りの無い内容を演説したのだが、「何故、菅代表ではダメなのか」「鳩山執行部の下で民主党はどんな国づくりを目指すのか」といった点が全く欠落しており、ワイドショーに出演する評論家の域を出ないものであった。さすがにおかしいと思ったのか、質問時間では新聞記者から「今までの菅代表の問題点や改善点を、具体的に話して欲しい」という注文が出たが、それに対して鳩山氏は、「菅代表の政策に問題があったのではない」等と言い出す始末で、氏の立候補が政策的論争の上から出たものではないことを告白してしまった。自民党単独政権時代、党内派閥力学で政権交代が行われた際、マスコミはこれを「永田町の論理」であるとして批判していたが、鳩山氏の立候補はまさに民主党版「永田町の論理」によるものであろう。鳩山氏が提唱している憲法改正論議も、早期改憲を求める立場からすれば評価できるものではあるが、代表選になって急に改憲を唱える等というのは、「永田町の論理」を隠蔽するために改憲論議を持ち出していると受け取られても致し方あるまい。あるいは、最近の国民世論の改憲ムード、改革ムードを利用して、それに消極的な対立候補達の追い落としを図ろうとしたとも考えられよう。しかも、その内容も、自衛隊を国軍と認め第9条を正面から扱う(最近の改憲論は、これを避ける傾向がある)点は評価できるものの、国家の外交政策の一環に軍事力を含めること(これは、何も侵略戦争をして領土的野心を満たすという意味では全くなく、強制外交や抑止力の面で国軍を外交政策上活用するということである)は依然拒絶しており、事実上現状追認の改憲でしかない。唯一、救いなのは、改憲論について「(改正まで)10年というのは長過ぎる。しっかり論争し、どうしてもついてこれないなら党が割れても仕方ない」と発言し、民主党の今後をなんとか「自社さ」体制から改善しようとしている点である。
 無論、そうかといって、対抗馬の菅直人現代表が「永田町の論理」を否定しているのかといえば、そうでは全く無い。むしろ、例えば鳩山氏の憲法論議について、「(民主党の)大きな枠組みが崩れないようにする姿勢が大事だ」等と、「数合わせ」の維持を堂々と宣言する始末である(党分裂についてこぞって批判を展開した横路総務会長、羽田孜幹事長もまた同じである)。例え「自自公連立」政権が「数合わせ」であるといった批判が妥当だとしても、こういった政治家にそうした批判をする資格は無かろう。
 一方、やはり党内旧社会党勢力の発言権確保という観点から立候補したとも取れる横路氏は、「永田町の論理」という点では鳩山氏と同様の批判を免れ得ないが、少なくとも鳩山ー菅間よりは政策的・政治信条的な違いがあるであろうから、その点では政策論争を期待することは出来た。しかし、本来であれば、鳩山氏と横路氏ほと政治信条の離れた政治家が同じ政党に同居していること自体、政策を結集軸とすべき政党としてはおかしな状態なのであって、野党版「自社さ」連立の「数合わせ」との批判は免れ得ないのである。また、現実問題として、横路氏の政策特に安全保障政策は、旧社会党時代と同様全く後ろ向きのものであって、時代の潮流や国際政治の現実とは完全に逆行するものである(例えば、報道によれば、氏は現行憲法について、「憲法が絶対だとは思わないが、憲法前文や第9条など憲法の理念は生かすべきだ」「前文や9条は変えてはならない。避けないで議論したい」と発言しているという)。仮に横路氏が党代表に当選し、政府与党との対決の観点から55年体制時代の社会党の如き行動を民主党に取らせたとしたら、民主党は次の総選挙では社会民主党のそれと同様の顛末を辿ろう。
 政権与党の行動をチェックし、批判するために、野党というものは存在しているはずである。しかし、その野党が、与党と同じく「数合わせ」の「永田町の論理」の存在であるとすれば、その存在意義は皆無であろう。唯一残された道としては、鳩山氏が漏らしたように、代表選後民主党を解党した上で、自由党・自民党も巻き込んだ政策軸を中心とする政党再編劇を起こす起爆剤としての役割ぐらいだろうか(もっとも、それが健全な形で出来るのであれば、既に細川内閣時代に出来ていたはずであるが・・・)。

■3、総裁選に見る自民党の問題点
 では、そうかといって与党・自民党に全く問題が無かったかといえば、そんなことはない。
 まず、何といっても、憲法問題を巡って対立する三者の主張の隔たりが小さくないということが指摘されなければならない。例えば、加藤紘一前幹事長は、憲法論議については「最初から9条改正を頭に入れて議論すべきではない。日本を取り巻く国際情勢を考えて現実的に議論しなければならない」と発言し、積極的な山崎前政務調査会長を牽制したのだが、「国際情勢を考えて現実的に議論」すれば改憲という結論に至るのは自明のことであって、ここに加藤前幹事長の問題点がある。自主憲法の制定を党是とする党の選挙でありながらこうした発言が出てくるというのは、民主党にも似た「隠れ自社さ連立」状態と評することが出来よう。
 しかも、今回の総裁選とそれに続く内閣改造では、加藤派に対する締めつけ人事が行われたのだが、当選した小渕総理は、加藤前幹事長に対するあてつけとして、河野洋平元総裁を外務大臣に起用してしまった。小渕総理としては、外務統括政務次官に自由党の東 祥三代議士を宛て、更にこの人事があくまで「あてつけ人事」であるから河野外相はコントロールできると考えたのかもしれないが、河野元総裁は加藤前幹事長と同じく、憲法改正や我が国の外交・安保改革に極めて消極的な人物として知られており、西暦2000年を迎え「改革」を推進する内閣としては極めて不適切な人事であった。これでは、まるで土井たか子氏が首相に落選したかわりに村山富市氏が外務大臣になったようなものではないだろうか。

■4、おわりに
 結局、両党の党首選挙で目についたのは、両党とも、温度差はあれ保守政治家と「リベラル」と称する戦後的「小国意識」を持った政治家が混在しており、今回の選挙もそれらの温度差が露呈した、ということである。そして、両党とも党自体がある意味で「数あわせ」的な構成となっている中で、自身の「身のほど」は棚上げにして、互いに(民主党は自自公を、また自民党内のYKKは小渕執行部を)それを論っているのである。
 だが、言うなれば、これこそが正に「政治改革」論議にあって「永田町の論理」とされた真の問題点ではなかったのだろうか。「政治に金がかかるかどうか」という問題点はあくまで結果論的なものであって、その背景にあった「利益・人物本位から政策本位へ」という転換こそが90年代初頭の「政治改革」の目指すところではなかったのだろうか。これでは、単に55年体制の対立点を党内に内部化しつつ、表面的には(日本共産党がそのプロパガンダによく使うように)「総与党化現象」のような政治の沈滞が起きてしまうだけであろう。
 であれば、与野党がまず目指すべきは、こうした状況を根本的に打破し、保守政党(「自由党」という名前がよいだろう)対リベラル政党(こちらは「民主党」であろうか)という明確な区分によって、所属政党を決めることではないだろうか。少なくとも、「自身の政治信条と党是は異なるが、政権党から離脱するのは怖いから居残る」といった態度で所属政党を決定していたら、何もかわりはしないのである。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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