このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

商工ローン問題に思う
〜「日栄」は本当に悪徳か〜

 中島 健

 11月14日の報道によると、大手商工ローン「日栄」の強圧的な債権とり立てに対する批判が高まる中で、資金を提供していた大和銀行は、日栄からその資金を引き揚げ、更に新規融資を停止することも検討しているという。商工ローン各社は、銀行から一旦低利で資金を受けた上、これに一定の利ざやと貸し倒れのリスクを見こんで金利を設定し、中小企業に融資しているわけだが、大和銀行の今回の決定は、こうした構造を持つ日栄にとっては正に息の根を抑えこまれたかたちになった。
 だが、果たして今回の一連の商工ローン騒動は、報道されているほど問題なのであろうか。
 なるほど、確かにこれら商工ローン業者が、立場の弱い中小企業に対して高利での資金貸し付け、さらには強引な取り立てを行っていたのは事実であり、常識を超える部分については刑事事件として扱うことも適切であろう。しかし、ではそうかといってこれら商工ローン業者が「中小企業をいじめる悪徳企業」かといえば、そんなことは無い。そもそも、中小企業に対する貸し付けが高利になるのも、勿論利息制限法や貸金業法といった法制度の間隙をつく形ではあるが、それはこれら中小企業に対する資金供給のリスクが高いからであり、返済が滞る確率が(大企業に対する融資より)高いからに他ならない。また、今回の事件では、社会的には日栄側の強圧的なとり立てが問題となっているが、そもそも日栄側としては、なんとかして貸与した資金を回収しなければ経営が成り立たないのであり、決して日栄側だけが大幅に有利な立場に立っていたわけではないのである(金利を払うことで、貸した側と借りた側は形式的には平等になっている)。加えて、人間の弱い心理として、借りたお金をなかなか返さないというのは古今東西の共通した現象であり、とり立てる側が多少圧迫的にならざるを得ない部分があろう。
 更に、報道において日栄側の問題として指摘されるのが、契約内容の説明不足や、ともかく資金を貸して金利を確保するという押し売り的な融資である。しかし、そもそも契約内容については、無論貸す側の説明責任は免れ得ないが、1000万円なり2000万円なりの大金を借りる以上は、借り手の側にも注意深くこれを検討し、意味がわからない部分については法律専門家にアドバイスを受けるといった慎重な態度が求められるはずである。例えば、今回の一連の事件で問題となった「根保証契約」とは、継続的な取引関係の中で将来発生し得る内容不確定な債務に対する保証のことで、必ずしも契約当初の保証額に留まるものではなく、場合によっては限度額一杯まで連帯保証人にも保証が求められることがあるのだが、こんなことは契約書を精読すれば書かれているものであるし、また書かれていなければそもそも支払い義務は無い(なお、保証債務の限度額は定められていなくてもよいが、その際は無限責任を負うのではなく、取引通念上相当部分を負担するに留まる)。大金を借りる以上、こうした法律の知識は自己防衛策として借り手の側がまずは身につけるべきものであって、ましてや人的担保であり、早い話が他人のために自分の財産を切り売りしなければならないかもしれない連帯保証人になるのであれば、それくらいの注意は必要であろう(また、保証してやった相手の経営状況を見極めて、解約等の権利を行使するタイミングを見はかるべきである)。更に、押し売り的な融資の問題だが、これも又、そもそも1000万円等という大金がからむ話である以上、丁度、家庭で洗剤だか宗教だかの訪問を断るときの如く、押し売り的融資にも毅然とした態度で臨むくらいの心構えが借り手の側にも必要なのではないだろうか。如何に普段の取引先とはいえ、「押し売りのように迫られたからやむなく融資を受けた」というのでは、商売における弱者の甘えと受け取られても仕方が無いだろう。相手も商売、こちらも商売なのであるから、そこに虚々実々の駆引きがあることは当然である。
 更に心配なのは、商工ローン業者に対する銀行の融資停止である。現に、はじめに述べたように、大和銀行は新規融資の停止を発表しているが、果たしてこうした処置が商工ローン業界の状態を改善し、中小企業にとって資金が調達しやすい環境が生まれるのであろうか。商工ローンが干上がれば、中小企業はやむなく町の中小金融業者から更に高利で資金を調達しなければならなくなり、却って融資の環境は悪化するのではないだろうか。
 いずれにせよ、この問題を見るときに必要なことは、借り手を弱者、貸し手を強者と断定しないことであろう。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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