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鮎最中
店内に設た蒸篭。饅頭には無くてなならぬ新兵器である。
古代から赤飯や酒まんじゅう製作に、古くも新しく伝えられてきた道具である。
37番札所岩本寺山門近く、蒸篭から吹き上げる湯気。ほかほかに膨れ上がった白い白い【酒まんじ
ゅう】が、テレビに映った。「食べたいな」と思っては見たものの、口に入れたことは一度も無い。
納経時間すれすれに飛び込む夕暮れ時、店の閉まっているのは当たり前である。
ガラス越しに白い布の掛けられた蒸篭、人影も無く恨めしく眺めるだけであった。平成11年頃は、時
代を思わせる店の造りでもあった。
【酒まんじゅう】を喰いたいとごねる糖尿病を、街なかで見つけた和菓子屋松鶴堂の名物さくら餅
で、何時も我慢させてきた。
岩本寺参道に、新しく和菓子屋ができた。気が付いてはいたが、まんじゅう以外は好みで無いと無
視していた。その店からひょっこり顔を出したのが松鶴堂の若女将。世間は狭いようで広く、広いよ
うで狭いものである。
酒饅主導は先代、今は茶人に好まれそうな重厚で綺麗な和菓子が並んでいる。中に餡子が入ってい
るものと言えば写真の【鮎最中】である。何時も二箱、鮎10尾を買うことに決めている。
だが、どうにも気が乗らないのである。
道端にど〜んと腰を下ろして酒饅頭を3個、一挙に口に押し込み眼を白黒にして喰っていようと行
き交う人は「とっつあん、元気だね」と笑って過ぎるが……鮎最中ではそうもいくまい。
3尾を一挙に口に押し込み眼を白黒させていたら「とっつあん、おかしいぞ。救急車頼むか、警察呼
ぼか」になりかねない。
『俺の銭で俺が買った鮎最中、俺がどの様に食おうと俺の勝手ではないか』
家賃敷金も払らわずに、勝手に潜り込んで来た店子の糖尿。大家とて糖尿店子の言うは通理と内心は
思うても、世間体もあり窪川の地では小さくならざるを得ない。
鮎の味に不服は無い。のだが、襟を正して喰わねば為らぬと思う育ちが不服なのである。
残り鮎を宿にて振舞ったら「お茶がとっても美味しかったわ」の返事が返ってきた。
【この鮎にして、この茶あり、か】
粗野な育ちで、悪うござんした。
CAN
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